アメリカの女子サッカーリーグ・NWSLのシアトル・レインFCには2人の日本人プレーヤーが所属している。2011年ドイツワールドカップ優勝経験を持つ宇津木瑠美と川澄奈穂美だ。シアトル・レインFCで、ともに活躍する川澄奈穂美(左)と宇津木…

 アメリカの女子サッカーリーグ・NWSLのシアトル・レインFCには2人の日本人プレーヤーが所属している。2011年ドイツワールドカップ優勝経験を持つ宇津木瑠美と川澄奈穂美だ。



シアトル・レインFCで、ともに活躍する川澄奈穂美(左)と宇津木瑠美(右)

 NWSLは10チームからなるアメリカ女子最高峰のリーグであり、FIFAランク1位のアメリカの強さを支える根源でもある。2017シーズンは現在第15節を終え、中盤戦に突入している。

 7月22日、シアトルはホームにスカイブルーFCを迎えていた。1試合多く戦っているスカイブルーは暫定3位。勝ち点2差で追いかけるシアトルにとって負けることは許されないホームゲームのスタメンに、2人は揃って名を連ねていた。宇津木は中盤3枚の真ん中に、川澄は1トップ気味の前線3枚の右に入った。

 序盤スカイブルーに押される形で試合は進んでいく。シアトル中盤の要であるジェシカ・フィッシュロックの戦線離脱による影響が大きいようだ。押されつつも決定機にまでは持ち込ませず反撃の糸口を探るシアトル。15分、宇津木がミーガン・ラピノーにパスを送ると、ラピノーがすぐさま強烈なミドルを見舞うがゴールはならず。その3分後、バイタルで競ったボールが川澄のもとへ転がり、放ったシュートは惜しくもDFにクリアされた。それでも、徐々に攻撃のリズムを刻み始めたシアトルは、27分、川澄が倒されて得たFKをラピノーが直接決めて先制点を奪い、前半を1-0で折り返した。

「ちょっとバランスが悪かった」と宇津木がシステム変更を申し出た後半は、中盤のベースを4枚にすることでやや落ち着きを取り戻すと、ここから試合が一気に動き出す。



シアトル・レインFCに移籍してちょうど1年が経った宇津木留美

 最初に爆発したのはシアトルだった。47分、INAC神戸でも活躍したベヴァリー・ゴーベル・ヤネズがゴール前で倒されPKを獲得。それを再びラピノーが決めて2点目を奪うと、その2分後には右サイドから川澄が上げたクロスにヤネズが鮮やかに頭で合わせて3点目。56分には、宇津木からのパスを受けたラピノーが左サイドへ流れ、ゴール前へシュート性のボールを入れると、これがオウンゴールを誘い4点目。立て続けの追加点で4ゴールのリードを奪ったシアトルに、詰めかけた4464人の観客もこれで勝負ありと踏んだに違いなかったが、ここからスカイブルーの怒涛の巻き返しが始まる。

 60分にPKで1点を返すと、そこから64分、72分、76分と16分間に4連続ゴール。試合はまさかの振り出しに戻った。この流れでの引き分けは負けに等しい。しかし、ここで魅せたのはやはり、この人。シアトルの大エースであるラピノーだった。途中交代で入ったケイティ・ジョンソンとラピノーでつなぎながらゴール前まで運んだボールを、最後はラピノーがズドン!と、力づくで勝利を奪い取った。リーグトップスコアラーとしてひた走るラピノーのハットトリックで5-4としたシアトルが死闘を制し、これでチームは、十分に頂点を狙える3位に浮上した。

 シアトルのようにタテに動く展開は走力勝負でもある。しかし、その中で2人の日本人選手はそれぞれの長所を存分に発揮し、チームに鮮やかな色をつけているように見えた。試合を決するゴールを生み出すラピノーはアメリカ女子代表のスター選手だ。その走り出しは速く、宇津木自身も「ピノに対しては、自分の中でかなり速いタイミングでボールを出しています。それでちょうどいい」という。

 嬉々として攻撃に参じるラピノーだからこその得点力ではあるが、その代償として、ラピノー不在の左サイドには大きな穴が開く。度々狙い撃ちに合うそのスペースを四六時中ケアしているのが宇津木だ。「ピノ~! 戻って来いっ!」って思いながら駆け回っていますよ」と笑う宇津木は、ラピノーへつなぐ絶妙なパスを配給しながら、こうしたアップダウンで1試合約10キロもの走行距離を稼ぐのだ。

 そして、攻撃においてそのラピノーから絶大な信頼を寄せられているのが川澄である。川澄の縦のボールにいち早く反応してゴール前までラピノーが走り込むこともあれば、右サイドの川澄が直接逆サイドのラピノーに鋭く合わせるシーンも度々見ることができる。その逆もしかり。ラピノーの動きに注目していると、必ず視界に川澄のポジションを確認していることがわかる。



3点を決めたラピノーと喜ぶ川澄奈穂美。ラストパス、クロスの正確性が高く評価されている

「自分は使われてナンボだと思っているんです」という川澄の言葉を証明しているのが、ピッチでの”声”だ。川澄がボールを持って前を向いた瞬間、さまざまなところから「ナホ!」「ナホ!!」とボールを欲しがる声が溢れる。川澄が7アシスト(リーグトップ)を決めているのもこうしたラストパス、クロスの精度が高いからに他ならない。もちろん自身のゴールも狙い続けている。この日も、一度はゴールに押し込んだものの、惜しくもオフサイドの判定で幻となったが、ここまで4ゴールを挙げている。シアトルがリーグトップのゴール数を誇っているその要因のひとつに川澄の存在があることは間違いない。

「ホームだと、こういうことをやらかすんですよね」と試合後はまさかの乱打戦に苦笑いの川澄だったが、極論すれば4失点をしても、5ゴール決めれば勝利を掴むことができる。もちろん瞬く間の4失点は課題として残るが、最後は決めるべきエースが、最高のタイミングで決める――サッカーの根本的な楽しさを感じられたのも事実だ。「アメリカでのサッカーはエンターテインメントですから」という宇津木の言葉も素直にうなずける90分だった。

 ここからリーグは代表活動のため、中断期間に入る。そう、なでしこジャパンも参加するアメリカ、ブラジル、オーストラリアと対戦するトーナメント・オブ・ネイションズが開幕するのだ。この日、大活躍したラピノーももちろんアメリカ代表として、宇津木のいるなでしこジャパンと対決することになる。トーナメント・オブ・ネイションズは27日(現地時間)からシアトル、サンディエゴ、ロサンゼルスで開催される。FIFAランク上位国対決は、なでしこジャパンの現在地を現す貴重な大会になるはずだ。