観光地や公園のレンタサイクルなどで見かける2人乗りの「タンデム自転車」。今年夏に東京都で公道走行が認められ、ついに47都道府県で公道を走れるようになった。愛好者らは「タンデム自転車元年」と位置づけ、魅力をアピールしている。「自転車のまち」…

 観光地や公園のレンタサイクルなどで見かける2人乗りの「タンデム自転車」。今年夏に東京都で公道走行が認められ、ついに47都道府県で公道を走れるようになった。愛好者らは「タンデム自転車元年」と位置づけ、魅力をアピールしている。「自転車のまち」を標榜(ひょうぼう)する宇都宮市や前橋市、「自転車に乗ってみたくなるまちづくり」をめざす水戸市など、北関東でも利用は広がっていくのか。乗りながら考えてみた。

 宇都宮市にはプロサイクルロードレースチーム・宇都宮ブリッツェンがあり、国際的なロードレース「ジャパンカップサイクルロードレース」も15日まで開催されている。

 宇都宮大学では9月30日、タンデム自転車のイベントが開かれた。「日本福祉のまちづくり学会」全国大会の一環で、タンデム自転車がもたらす多様性についてのトークセッションなどがあった。

 初めてタンデム自転車に乗る人などを対象にした体験試乗会に参加した。まず構造の説明を聞く。前のサドルに座る人は操縦を担う「パイロット」、後ろに乗る人は「ストーカー」と呼ぶ。つきまとい犯罪のstalkerではなく、機関車で石炭をくべる火手のstokerの意味だ。前のペダルと後ろのペダルは連動しており、いかに呼吸を合わせるかが重要になる。

 しっかりとヘルメットをかぶり、学生スタッフがパイロットを務める自転車にストーカーとして乗せてもらった。ハンドルはあるが、ただ握って体を安定させるだけで、左右には動かない。ブレーキのレバーもなく、不安になる。スタッフの「出発します」の声でこぎ出すが、ペダルを踏むタイミングを合わせるのもままならない。

 パイロットを信頼して操縦もブレーキも任せることが大事だと、途中から感じ始めた。ようやく安定して走れるようになったのは、数百メートルの体験コースの終盤だった。

 試乗を終えた人はみんな笑顔だった。宇都宮市の小学2年生多田祥子さんは「(1人乗りより)速くスイスイ走れて楽しい」と話した。

 学会全国大会の大会長を務めた宇都宮大学の池田宰学長(67)は、栃木県サイクリング協会理事長として、タンデム自転車の普及に取り組んできた。

 協会は9月23日にサイクルイベント「ぐるとち2023」でタンデム自転車コースを運営。10月29日には、第57回県民サイクリング兼タンデム交流大会を栃木県真岡市で開く。視覚に障害のある人も参加する。第10回大会から40年以上、継続している行事。初めて自転車に乗った人からは「すごく新鮮だった。風を感じて楽しかった」などと喜ばれているという。

 2人乗りのタンデム自転車には、ただの移動手段ではない魅力があるという。「前に乗ってハンドル操作をする人と、後ろでこぐ人のコミュニケーションが取れていないとしっかり走れない。それが特徴で、楽しいところでもある」。夫婦や親子、友人などの会話が弾むきっかけにもなるとみる。今後は一般への普及も視野に入れたいという。

 タンデム自転車は、宇都宮市の森林公園、栃木県栃木市のわたらせサイクルパーク、水戸市の千波湖、茨城県ひたちなか市の国営ひたち海浜公園などのレンタサイクルでも体験できる。(津布楽洋一)