寺田夏生が東海の強豪・皇學館大学の陸上部監督に就任――。  7月1日に流れたニュースは、大きな注目を集めた。寺田は國學院大時代、1年時に出場した箱根駅伝でアンカーとして出走、最後の交差点でコースを間違えるもギリギリの10位でゴー…

 寺田夏生が東海の強豪・皇學館大学の陸上部監督に就任――。

 

 7月1日に流れたニュースは、大きな注目を集めた。寺田は國學院大時代、1年時に出場した箱根駅伝でアンカーとして出走、最後の交差点でコースを間違えるもギリギリの10位でゴールし、初のシード権獲得に貢献した。卒業後、JR東日本ではマラソンを主戦場として走り続け、昨年3月に現役を引退した。それからわずか1年3か月後、東海地区の強豪校の監督となり、箱根駅伝の予選会の舞台に立とうとしている。予選会の厳しさを知る若き指揮官は予選会をどうとらえ、どう戦おうとしているのか。

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箱根駅伝予選会、地方からの挑戦

第3回・皇學館大学 前編




箱根で名勝負を演じた寺田夏生が監督として箱根に戻ってきた

――7月に正式に皇學館大学の監督に就任されましたが、経緯について聞かせてください。

 

「國學院大の前田(康弘)監督からお話をいただきまして、4月に一度、大学見学に来たんです。その際、監督が不在の中でも学生たちのモチベーションは高く、それぞれがやるべきことをしっかりとやっていた。この学生たちと一緒に上を目指したいと思い、家族とも相談して最終的に監督をやらせていただくことになりました」

 

 箱根駅伝の予選会出場は、日比勝俊前監督の意向で、昨年度中に出場を明言していた。だが、3月に監督が退任して以降、出場の話は浮いたままになっていた。寺田が練習などを見る際、箱根予選会について学生に話を聞くと、あまり現実的にとらえていないことがわかった。

 

――箱根を走るメリットなどについて自身の経験からお話をされたりしたのですか。

 

「自分の経験の話はしていないです。今回はこのタイミングで在籍している学生しか走れない100回記念大会という特別なものなので、そういう縁を感じてほしい。予選なのにあれだけの規模の中で走るチャンスは東海ではほぼないので経験してほしいという話をしました。出ることで、たぶん関東の大学の選手にボコボコにされると思うんですけど、自分の立ち位置やレベルを知ってほしい。もう勝てないと思うのか、それとも少しでも関東のレベルに近づけるように頑張らないといけないと思うのか、どちらでもいいんですけど、そういうことを感じてほしいと思っています」

 

――関東の大学の学生たちと箱根に対する熱量の差を感じますか。

 

「うちの学生は出雲や全日本を重視しているので、箱根には現実味がないんですよ。だから予選会への意気込みも違う。関東の学生は予選会落ちしたその日から、あるいはシード落ちした日から死に物狂いで、それこそ人生を賭けて予選会突破に向けて頑張っていきます。そういう学生たちを7月からの3か月で倒せるかというとかなり難しい。それを知るだけに今回、突破しますとは軽々しくは言えないですね、さすがに」

 箱根駅伝の予選会に出場するからには、「失礼にならないように13位内を目指す」と寺田監督は言う。そのためにハーフを走り切れる練習メニューを組み込み、夏合宿も2回行なった。だが、「圧倒的に時間が足りない」と厳しい表情だ。

 

――夏合宿は、強化の手応えを感じられたのでしょうか。

 

「長距離は数か月で強くなるものではないので、夏は走り込みをしつつ、予選会に向けてモチベーションを上げていく感じで進めました。7月からの就任だったので、夏の合宿地はもう決まっているのかなと思っていたのですが、決まっていなかったんです。すぐに動いたのですが場所がなかなかなくて、近場の伊勢志摩で起伏があるコースを仮想予選会として走り込みました。この時は5泊6日、次は御嶽合宿で1週間です。本来なら関東の大学のように1か月以上、あちこちで合宿したいのですが、予算もあるので難しかったですね」

 

――クラウドファンディングを始めたのは、強化費用を確保し、学生に還元するためですか。

 

「大学にすべてをお願いするというのは難しいので、自分たちでできることを増やしていかないといけない。クラウドファンディングもそのひとつですし、応援してくださる企業も見つけていかないといけないと学生と話をしています。OBの数や支援者、支援する企業の大きさを考えると、関東の大学と地方の大学の違いをすごく感じますね」

 

 寺田監督は昨年の3月に現役を引退した。その後、所属先のJR東日本に残って仕事をしていた。今回、皇學館大の監督になるまでコーチなどの指導経験はないが、いきなり指導の最前線で手腕を振るうこととなった。

 

――チーム作り、練習メニューなどについて、どのように考えていたのでしょうか。

 

「大学時代や実業団での経験や勉強したことが主ですが、困った時には前田監督に連絡をしてアドバイスをいただいています。就任する前も國學院大でちょくちょく練習を見学させていただいたんですけど、雰囲気がうちとは全然違う。練習なのに試合のような雰囲気でバチバチやっているんですけど、前田さんはそこでやらせすぎないようにうまく調整していました。そういう厳しさの中で練習しているからこその強さなので、うちの学生を来年は連れていって経験させたいですね。僕自身も1年の時、駒澤大学さんと一緒に合宿させていただいたり、実業団の合宿に参加させていただいたりしたのですが、違うチームに行くと学ぶことしかなく、すごく楽しかったので」

 

――まだ、現役を引退されたばかりですが、学生と一緒に走りながらチーム作りをしていくことを考えていますか。

 

「記録会とかでは引っ張ってあげたいと思います。僕は一緒に走るというよりも走るのを見るのが好きなんです。今はまだ学生たち全員の走りをしっかりと把握できていないので、そこをインプットしてから個々にアドバイスをしていけたらいいなと思っています」

 寺田監督が就任し、3か月が経過した。外側から見ていた時と内部で指導をするとではまた違うものが見えてくる。毛利(昂太)主将を軸に新体制でスタートさせ、夏を越えてきたが、寺田監督の目には、チームはどう映っているのだろうか。

 

――選手の気質とか、カラーは國學院を始め、関東の選手とはかなり異なりますか。

 

「うちの選手は、チームや周囲の選手を気にする癖があるんです。気にしなくてもいいのに、タイムとか、名前でビビってしまう。そういうのをなくてして、自分に集中して走るようにならないと来年も勝てない。練習でも設定タイムに対して『これ、早くないですか』ではなく、そのくらいやって当たり前ぐらいに思って取り組んでほしいのですが、まだまだですね」

 

――チームのレベル、意識はすぐには上がらないということでしょうか。

 

「レベルは、今の皇學館大と僕が1年生の頃の國學院大とではそんなに変わらないです。僕の1年時はまだシード権を獲ったことがなかったんですけど、4年生が獲るぞみたいな雰囲気を作ってくださった。僕が4年生になり、キャプテンになった時、そういう雰囲気を作れたかというと作れなかった。先輩たちの偉大さを感じましたね。やっぱり先輩が目標を口に出して、動くことが大事で、それがチームの雰囲気を作っていくんですけど、今の皇學館大は4年生がひとりなので、3年生が中心になってチームを作っていかないといけない。僕は今の3年生はラッキーだなと思うんです。普通は4年生の時しか好きなようにチーム作りができないけど、今の3年生は来年も自分たちのチームを作れる。そのことに気づいている学生がほとんどいないんです。ルールさえ守れば自分たちの好きなようにチームを作って行けばいいのに流れに任せているのは、もったいないなぁと思います」

 

――自分を出して、チャレンジする姿勢は予選会でも大事ですね。

 

「調子のいい学生が数名いるので、そういう子たちは最初からうしろについて慎重にというよりも臆することなく、先頭集団に入って勝負してほしいですね。そこについて行って5キロを14分50秒というラップを見ると固まってしまうかもしれないですけど、それも経験です。そのラップで通過すれば、あいつに出来たなら俺もできるみたいな雰囲気がうまれるかもしれないし、次に10000mを走った時、5キロを14分台で通過してもビビらなくなると思うんです」

 

――13位内を目指すことと同様に、予選会の経験を次にどう活かすのかも大事ですね。

 

「予選会で関東の大学と走ることでまずは個々の視野を広げて、意識を高めてほしいですね。走って経験したことをチームに持ち帰って、チーム全体の意識を高めてほしい。来年は箱根の予選会がないので、自分たちは全日本の予選会が重要になってきます。そこでギリギリの優勝ではなく、ぶっちぎりの優勝を目指しているので、そこに今回の経験を繋げていきたい。そうして東海地区の大学を相手にするのではなく、関西の強豪校を倒していく。その後、関東というふうに目線を高く、目標に向かっていけるチームにしていけたらと思っています」

後編に続く>>箱根駅伝の予選会出場は「出雲、全日本への踏み台」 皇學館大・主将が語る「監督不在の3カ月」と挑戦までの経緯