出雲駅伝は、駒澤大学が圧倒的な強さを見せて優勝を果たし、大会2連覇を達成した。 毎年、出雲駅伝は、各区間の距離が短いこともあり、各大学の有力ルーキーが出走、衝撃的なデビューを果たすケースが多い。今年は、例年よりもやや少ないものの1年生が駅…

 出雲駅伝は、駒澤大学が圧倒的な強さを見せて優勝を果たし、大会2連覇を達成した。

 毎年、出雲駅伝は、各区間の距離が短いこともあり、各大学の有力ルーキーが出走、衝撃的なデビューを果たすケースが多い。今年は、例年よりもやや少ないものの1年生が駅伝ビューを果たした。



1年生ながらアンカーを任された早稲田大学の長屋匡起

 一番期待が大きかったのが、13分22秒99の5000m男子高校記録を持つ吉岡大翔(順大1年)だった。駅伝デビューとなる出雲駅伝では、重要な1区を任された。長門俊介監督も「夏前は連戦で少し疲れが見えたけど、今は好調でやってくれると信じています」と、絶大な自信を持って送り出した。吉岡自身も「調整の1週間前から調子が良くて、コーチや先輩からも『調子いいね』と言われていました」と、自分に期待しているところがあった。

 スタート当初は、その調子の良さが見えた。ポジションを前目に取り、走る姿からは「勝負するぞ」という気迫にあふれていた。

「最初は、先頭集団にいて、ペースが遅かったので、自分が引っ張っていくぐらいの気持ちでずっとついていったんです。でも、途中から......」

 3キロを超えてから異変が起きた。

「急に差し込みが起きて......。過去も差し込みはあったんで、ここまでひどくはなかったんです。今回はなかなか治まらなくて、そのままズルズルと落ちていってしまいました」

 4キロ地点で先頭を行く駒澤大、青学大、早大からどんどん離れていった。そのまま順位を落とし、トップの駒澤大と1分18秒差の10位で2区に襷を渡した。走力の問題というよりは差し込みによるペースダウンなので、この結果が吉岡の実力というわけではない。実際、レース後は、先輩たちからは「こういう日もあるよ。気にするな」と声を掛けられていた。

 だが、吉岡はまったく表情を崩さなかった。

「大学で初めての駅伝で、情けない走りをしてしまったので......。高校の時は、自分でいうものなんですが、5000mの記録を持っていて自分が一番だという自信を持ってレースに入れていたんです。大学でも5000mのタイムは良い方ですけど、それ以上の距離になるとまだうまく走れないんです。短い距離だとごまかしも効くんですけど、距離が長くなればなるほどごまかしが効かなくなってしまいますし、甘くない。長い距離への準備がまだ足りていないので、それをこれからしっかりやっていきたいと思います」

 大学駅伝の厳しい洗礼を受けたが、箱根駅伝については「自分が」という強い思いがある。

「自分は任された区間でちゃんと走りたいと思いますが、1区はもうこりごりです(苦笑)。自分は、誰かと競り合うというよりも単独走が好きなので、その自分の力を発揮できる区間で走りたいと思います」

 長門監督もその能力の高さは認めており、「主要区間を任せられる存在」と言い切る。次の全日本、そして箱根では出雲の経験を糧に、「大物ルーキー」と呼ばれるのに相応しい走りを見せてくれるだろう。

 吉岡と同じように今回、出走した多くのルーキーが厳しいレースを強いられた。

 工藤慎作(早稲田大1年)は、花田勝彦監督の好評価を得て、4区を任された。花田監督は、「工藤は、塩尻(和也・富士通)君みたいなタイプ。失礼な言い方だけど、パっと見は速そうに見えないけど、走ったらめちゃめちゃ速い。工藤も普段はふわっとしていて、そんなに強そうに見えないんですけど、走ったら怖いくらいの強さを見せられる選手」と、駅伝での走りに期待していた。その期待を背負った工藤は、トップの駒澤大から1分39秒差の6位で襷を受けた。6秒差で前を行く國學院大の姿が見えたので、とにかく前を追った。

「襷を受けた時の順位が6位だったので、焦って最初に早く入り過ぎてしまって......。それで足を使って、後半、まったく伸びなくなってしまいました」

 中盤以降、ペースが上がらずもがいた。

 最終的に順位は6位をキープしたが区間10位とふるわず、レース後は、「実力不足でした。全日本に向けて修正していきたいと思います」と、厳しい表情だった。

 5年ぶりの優勝を狙った青学大は、鳥井健太(青学大1年)が5区に抜擢された。夏合宿の練習消化率が100%に近く、9月24日の絆記録会の5000mでは13分36秒73の好記録を出し、その勢いと好調さを評価されての起用だった。レースは、いい流れで襷を受けた。4区の山内健登(4年)が区間賞の走りで順位を4位から3位に押し上げ、鳥井がどこまで順位を上げられるのか、期待が膨らんだ。序盤は悪くなかったが、中盤以降、頭が振れ、ペースが上がらない。結果的に区間10位、順位も一つ下げて4位でアンカーの鶴川正也(4年)に襷を任せることになり、苦い駅伝デビューになった。

 一方、デビュー戦で、上々の走りを見せた選手もいた。

 小池莉希(創価大1年)は、9月24日の絆記録会5000mで13分34秒82というU20 歴代9位のタイムで叩き出した。7月のホクレン深川大会で出した自己ベスト を20秒も短縮し、好調を維持して出雲駅伝に起用された。2区に起用された小池は、昨年、同じく出雲でデビューし、今回1区5位と好走した石丸惇那(2年)から襷を受け、区間5位の攻めの走りで5位の順位をキープし、試合の流れを作った。小池が順位をキープしたことで、3区のリーキ・カミナ(3年)が一気に2位まで順位を上げると、創価大は4区唯一の4年生の山森龍暁 が区間賞の走りで順位を守り、総合2位でのフィニッシュを果たした。

 長屋匡起(早稲田1年)はロードの強さを評価されてアンカーとして起用された。6位で襷をもらい、前をいく國學院大と青学大を追った。10.2キロの最長区間だが淡々と走り、最後は、鶴川正也(青学大)の背中が見えるところまで迫った。

「自分は、長い距離とか、今日みたいに風が強いとか、日差しが強くて暑いとかそういうコンディションが好きなので、最初はけっこういい感じで走れました。鶴川さんをずっと追って行って、だんだん近づいて行ったんですけど、どうしても行き切れなくて......。そこは、まだまだ甘いところだなと思いました」

 花田監督は、「途中まで平林君(國學院大3年)と同じぐらいのラップで行って、鶴川君にも迫ったけど、最後引き離されたので、まだこれからですね。ただ、長屋は本当に真面目な選手。トレーニングも細かく組み立てて、夏前までは練習をやり過ぎて貧血が出たりしたんですが、夏を越えてから強くなりました。練習でも先輩と同じく前に出て、引っ張っているので、上級生になった時に早稲田のエースになってほしい」と高く評価していた。

 長屋もエースになるべく、自覚を持って練習や試合に出ている。

「各大学のエースに近づいていきたですし、いずれ早稲田のエースになりたいです」

 出雲駅伝はそのための第1歩として、得るものが大きかった。

「今回は、鈴木(芽吹・駒澤大4年)先輩と同じレースを走れましたし、平林(清澄・國學院大3年)さんや鶴川さんという学生でもトップの強い選手と一緒に走れて、すごく刺激をもらいました。レース中もレース後も自分のタイムを見て、まだまだ力不足なんだなって思いました。まだ大学1年ですけど、うかうかしていられないと思うので、次の全日本、箱根とさらに活躍できるように、今日の経験を活かして行きたいと思います」

 長屋は、今日のレースも細かく分析して、次の練習に活かし、全日本大学駅伝や箱根駅伝に向けて準備していくのだろう。自己分析に長ける選手は成長が早く、しかもロードに強い。駅伝では今後も主要区間に置かれるのは間違いない。

 箱根駅伝は、希望区間があるのだろうか。

「どこの区間を走りたいというのは特にないです。やっぱり高低差のあるところでの区間が自分は強いと思うので、自分の持ち味を生かせる区間で活躍していきたいですね。2区を走るほどの実力はないので、そこは力をつけていずれと思っています」

 箱根までは、まだ2カ月以上ある。1年生は、伸びる時は右肩上がりで恐るべき成長を見せる時がある。いずれ世界をという視線は、佐久長聖-早稲田大の先輩である大迫傑(NIKE)に通じる強さがあり、今後が楽しみだ。

 今回の出雲駅伝は、ルーキーにとっては明暗を分けた結果になったが、それでも彼らはまだ1年生で、伸び代しかない。良い経験も苦い経験も今後の糧にして、全日本大学駅伝や箱根駅伝で、さらに成長した姿を見せてくれるだろう。