南魚沼市の特設コースで、Jプロツアー第13戦「南魚沼ロードレース」が9月18日、開催された。今年も、このレースは年間のリーグの中で最重要レースである「経済産業大臣旗ロードチャンピオンシップ」としての開催となった。最高位の「プラチナ」にレイテ…

南魚沼市の特設コースで、Jプロツアー第13戦「南魚沼ロードレース」が9月18日、開催された。今年も、このレースは年間のリーグの中で最重要レースである「経済産業大臣旗ロードチャンピオンシップ」としての開催となった。最高位の「プラチナ」にレイティングされており、優勝すれば850ポイントが与えられ、個人総合順位が大きく入れ替わる可能性がある。各チームの選手たちが、入念に作戦を練り、ミーティングを経て臨む、緊張感のある大会だ。



南魚沼市の特設コースで開催



地形を生かした美しいコースでは、毎回様々なドラマが生まれる

このレースは、Jプロツアーで唯一、チーム対抗の団体戦という切り口でも表彰があり、優勝チームには真紅の経済産業大臣旗、通称「輪翔旗」が与えられる。エースのみを勝たせるのではなく、複数のメンバーを上位でフィニッシュさせ、団体としての優勝を目指すという目標もあり、通常とは異なる形でレースが展開することもある。

例年、9月の同時期に開催されているのだが、今年の新潟は、この時期でも酷暑に見舞われており、真夏の気温下でのレースとなった。コースは南魚沼市東部にある三国川ダムに設定された1周12km。スタート地点から約2kmは、高低差約200mを一気に下る。厳しい展開に持ち込まれ、サバイバルレースになることも多い。
カーブが連続する区間が長いことから集団が有利とも言えず、力のあるメンバーが先行した場合、大きな集団との差は広がりやすく、また、追い上げにくいコースとも言える。この日は、この周回を12周する144kmの設定で競われた。



うねるようにカーブが連続する12kmのコース

昨年度は入部正太朗(弱虫ペダルサイクリングチーム)が優勝し、団体優勝も同チームが獲得した。開会セレモニーでは、弱虫ペダルサイクリングチームから輪翔旗が返還された。



輪翔旗の返還



安原理事長とともに、全員が五十嵐洸太選手への黙祷を捧げた。五十嵐は、このレースにも出場予定だった

9月、レース中の事故で命を落とした五十嵐洸太選手(弱虫ペダルサイクリングチーム)に、全員で黙祷を捧げた。

個人総合成績で首位を守り、リーダージャージを着る中井唯晶(シマノレーシング)と、U23首位の岡本勝哉(チームブリヂストンサイクリング)が最前列に並ぶ。朝は雨が降ったが、天気が好転し、気温も急上昇。照りつける太陽の下で、スタートの号砲が鳴った。



赤いリーダージャージを着る中井唯晶(シマノレーシング)と、U23首位の白いリーダージャージ姿の岡本勝哉(チームブリヂストンサイクリング)を先頭にスタート



三国川ダムの周辺道路はカーブと細かなアップダウンが連続する。各チームが積極的に仕掛けあった



オープン参加のEFエデュケーション・NIPPOデヴェロップメントチームの留目夕陽がペースを上げていく

2周に渡るアタック合戦ののち、6名の集団が先行する。顔ぶれは、過去にツール・ド・フランスで個人総合4位に輝いた経験を持つ「超級ベテラン」のフランシスコ・マンセボ(マトリックスパワータグ)、2021年度の全日本チャンピオンである草場啓吾、欧州での経験も豊富な石上優大(以上 愛三工業レーシングチーム)、風間翔眞(シマノレーシング)、スプリント力のある孫崎大樹(キナンレーシングチーム)、海外チームに所属しオープン参加となる留目夕陽(EFエデュケーション・NIPPOデヴェロップメントチーム)と、非常に有力なメンバーが揃っている。序盤から非常に大きな動きが起きたと言える。



序盤から集団先頭で動きを見せるフランシスコ・マンセボ(マトリックスパワータグ)



ダム湖のカーブに沿って進んでいく集団



有力選手を多く含む6名の先頭集団

メイン集団との差は、4周目完了時に1分50秒、5周目完了時には3分50秒まで開く。
多くのチームが先頭にメンバーを送り込んでおり、メイン集団を引き上げる積極的な動きが生まれないまま、前半戦を終えたが、7周目に入るとキナンレーシングチームがメイン集団を牽引し始め、4分以上まで開いた差を一気に2分まで縮めた。



キナンレーシングチームがペースアップし、差を一気に縮めた



先頭集団の後方に追走するメイン集団が迫る

さらに8周目を終えるまでに1分10秒まで縮め、9周目終盤には、先行する6名を視界に捉える距離まで詰める。この追い上げで、メイン集団からも多くの選手が脱落し、集団はすでに20名ほどまでに小さくなっていた。
ここで先頭は吸収され、仕切り直しか、という次の展開を考える空気が漂ったが、メイン集団が目視で先頭をとらえるところまで差を詰めた10周目、吸収されることを嫌ったマンセボが飛び出した。反応できたのは、石上、孫崎の2名だけだった。



先行するフランシスコ・マンセボ(マトリックスパワータグ)、孫崎大樹(キナンレーシングチーム)、石上優大(愛三工業レーシングチーム)

3チームのメンバーを含む新たな動きに対応するメイン集団のペースアップがまとまらず、先頭との差は再び1分40秒まで開く。その後は差が縮まることはなく、勝負は先行した3名に絞られた。
最終周回に入ると、疲れを知らないマンセボが、次の手を打ち出した。キレのいいアタックを仕掛けたのだ。この動きに2名は付いていくことができず、差がじわじわと開いていく。



マンセボ(マトリックスパワータグ)がアタック、石上は遅れてしまう。孫崎は辛くも食らいついたが、じわじわと引き離されてしまった



フィニッシュに向け独走するマンセボ

さらにチームメイトのホセ・ビセンテ・トリビオ(マトリックスパワータグ)も集団から飛び出し、強烈なペースで先頭を目指し始めた。雨が降り始め、過酷な状況下でもマンセボは単独でフィニッシュを目指す。
マンセボは残り約10kmを単独で逃げ切り、喜びを噛み締めるように、何度もガッツポーズを見せながら、2019年以来3度目となる南魚沼ロードレースの優勝を決めた。



降り出した雨の中、最終周回を丸々逃げ切って優勝を決めたマンセボ

終盤にメイン集団から抜け出したトリビオが、強烈な追い上げを見せ、2名をかわし、2位でフィニッシュ。マトリックスパワータグはワン・ツーフィニッシュを決め、団体優勝も手中に収めた。団体優勝と輪翔旗を獲得するのは、2020年以来、3年ぶりだ。
この頃には、視界も悪くなるほどの土砂降りになっていたが、集団は、先行する2名に迫っていた。孫崎が迫る集団から意地のスプリントで逃げ切り、3位表彰台を死守した。



3位争いは追い上げた集団から競り勝った孫崎大樹(キナンレーシングチーム)が逃げ切った

中井は追い上げた集団の2番目に入り、5位を獲得。ポイントを積み増し、個人総合首位を守った。U23では、津田悠義(キナンレーシングチーム)が上位に入り、シーズン序盤に着ていたリーダージャージを取り戻す形となった。



優勝したマンセボ、2位のホセ・ビセンテ・トリビオ(マトリックスパワータグ)、孫崎の表彰台



個人総合首位は中井が守り、U23首位の座は、津田悠義(キナンレーシングチーム)が奪還した

マトリックスパワータグは、「大好きな赤い輪翔旗が戻ってきて、とても嬉しい」とメンバー全員で喜びを爆発させていた。「Jプロツアーから目標を引き上げ、今季はUCIレースへ向けての活動に向けていた」というが、なかなか結果に結びつかない状態が続いていたとのこと。そんな中で「大舞台での勝ち星をあげることができ、心の底から嬉しい」と語った。



団体賞の表彰式。輪翔旗はマトリックスパワータグが獲得

残すレースは4レースで、ここまでの個人総合は、首位の中井から、2位の石原悠希(シマノレーシング)までが176ポイント。石原と3位の孫崎との差はわずか41ポイント。今年から、9~11月には、UCI(国際自転車競技連合)認定の国際レースが立て続けに開催され、この重要レースが続く終盤に、Jプロツアーでは、どのような展開があるのか。注目が集まった。

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【結果】
南魚沼ロードレース(144km)

1位/フランシスコ・マンセボ(マトリックスパワータグ)3時間38分22秒
2位/ホセ・ビセンテ・トリビオ(マトリックスパワータグ)+56秒
3位/孫崎大樹(キナンレーシングチーム)+1分18秒
4位/金子宗平(群馬グリフィンレーシングチーム)+1分20秒
5位/中井唯晶(シマノレーシング)+1分20秒

【Jプロツアーリーダー】
中井唯晶(シマノレーシング)

【U23リーダー】
津田悠義(キナンレーシングチーム)

画像: JBCF(一般社団法人全日本実業団自転車競技連盟)

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