「敵地でベスト8進出」という世界の壁は、やはり高く、険しかった──。 フランスでラグビーワールドカップ(W杯)を戦っているラグビー日本代表(世界ランキング12位)は10月8日、ナントでベスト4に過去2回入っている「南米の雄」アルゼンチン代表…
「敵地でベスト8進出」という世界の壁は、やはり高く、険しかった──。
フランスでラグビーワールドカップ(W杯)を戦っているラグビー日本代表(世界ランキング12位)は10月8日、ナントでベスト4に過去2回入っている「南米の雄」アルゼンチン代表(同9位)と激突した。
予選プールDに所属する2チームは、ともに2勝1敗。勝ち点9で並んでいたため、つまり勝ったほうがシンプルにベスト8に進出する決戦だった。
過去の対戦成績は、日本代表の1勝5敗。大きく負け越している世界的強豪に対して、"ブレイブブロッサムズ(勇敢な桜の戦士たち/ラグビー日本代表チームの愛称)"は前半から真っ向勝負を挑んだ。
試合後にチームメイトひとりひとりと抱き合うリーチマイケル
前半2分でタックルミスから相手に先制トライを許すも、前半16分にはカウンターからFLリーチ マイケル、LOアマト・ファカタヴァとつなぎ、ファカタヴァが蹴ったボールを自らキャッチし、トライを挙げて同点とする。
※ポジションの略称=HO(フッカー)、PR(プロップ)、LO(ロック)、FL(フランカー)、No.8(ナンバーエイト)、SH(スクラムハーフ)、SO(スタンドオフ)、CTB(センター)、WTB(ウイング)、FB(フルバック)
その後、FLピーター・ラブスカフニが危険なタックルでシンビン(10分間)中に8点を奪取されたが、前半38分にはスクラムを起点にワールドカップ初出場となったWTBシオサイア・フィフィタがブレイクし、最後はフォローしたSH齋藤直人がトライを挙げて14-15で前半を折り返した。
後半は、相手に得点を取られては追いかけるという展開に。SO松田力也のペナルティゴールやFBレメキ ロマノ ラヴァのドロップゴールなどで点差を詰め、後半25分には途中出場のWTBジョネ・ナイカブラのトライで27-29と2点差。十分に勝つ流れにまで持っていけた。
だが、大事なところでミスやペナルティを犯し、最後はトライとペナルティゴールを重ねられ、27-39でノーサイド。日本代表は善戦したものの、2大会連続のベスト8進出を逃した。
【スタッツだけを見ればどちらが勝者かわからない】
No.8姫野和樹キャプテンは目を赤くしながら、試合を振り返った。
「ここまで来るのに、本当にたくさんの犠牲を払って、みんな100パーセント努力してきた。そのことを誇りに思います。日本のファンに結果で恩返しすることができなかったですけど、僕たちの歩んできた道のりは無駄じゃなかったし、夢や文化、レガシーは受け継がれていく。日本ラグビーはまだまだ強くなれると信じています」
モールもハイボールも強く世界一のディフェンスを誇るアルゼンチン相手に、日本のプランは「80分間プレッシャーをかけ続ける」ことだった。そして攻撃で勢いが生み出せていない時はSHからやSOからのハイボールキックで相手陣内に攻め込み、相手の大きなFWを背走させてボールの再獲得を狙った。
焦点のひとつとなったFWのマイボールスクラムやラインアウトも安定し、反則数は6と試合を通して規律も高かった。前半は崩れた状態やスクラムを起点にBKの展開力でトライを挙げるなど、自分たちの形でもトライを挙げた。
攻撃のスタッツを見ても、テリトリーとボールポゼッションはともに50パーセント前後の五分。ゲインラインを越えた回数61、パス回数=153、ディフェンス突破回数29、オフロードパス7と、すべて相手より上回った。世界の強豪相手に互角の戦いを演じ、スタッツだけを見ればどちらが勝者かわからないほどだ。
この試合で勇退が決まっているジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)は、その内容を踏まえて選手を称えた。
「今日は全員がフィットし、精神的にも肉体的にもビッグプレーをする準備ができていた。おそらく過去4年間で最高のプレーをしたと思う。経験豊富なアルゼンチンに対し、我々の姿勢、意図、そして自分たちのラグビーをしようという意志において、私はチームをとても誇りに思う」
4度目のワールドカップを終えたHO堀江翔太は「やりきった感があります。取り合いになったところは、相手にうまいところがあった。悲観することはない」と胸を張った。リーチは「出しきってこれ(この結果)です」と振り返ったように、日本代表は今、持っている力をすべて出しきっての敗戦だったと言えよう。
【ジェイミーが残したレガシーはナンバーワン】
勝者と敗者の差を分けたものは、何だったのか──。
ジョセフHCが「ソフトな場面があった」と振り返ったように、前半2分はセットプレーからのタックルミスでトライを許してしまった。前半28分のトライも不用意なハイパントキックからの失トライで、「イージーなトライを与えてしまったことが響いた」(WTB松島幸太朗)。得点を取ってもすぐに失点し、試合を通して1度もリードすることはできなかった。
最終戦の結果、日本はプールDで3位となり2027年大会の出場権を獲得することができた。次のワールドカップの舞台はオーストラリア。今度こそアウェーでベスト8に入るためには、どうしたらいいのか。
「日本ラグビーの全力を尽くしての結果なので、このデカい壁をどう乗り越えるかが課題。終盤のラスト20分の戦いが日本代表の弱点。それが最後のピースですね。フィジカルもそうだし、最後の20分をどうコントロールするか......。ソフトな(失)トライが多かった」(リーチ)
「もっともっと、個人に成長することに突き詰めれば日本代表は上がっていける。(ベスト8との距離は)あと少し。(アルゼンチンとは)互角だったが、最後に取られて終わった。個人に目を向けてどうしたら差を埋められるか、自分に問いながらやってほしい」(堀江)
8年あまり続いたジェイミージャパンの旅は終わりを告げた。ジョセフHCとともに戦った時間を、リーチは振り返る。
「ジェイミーは熱意を持って準備し、選手だけじゃなくてチームを厳しく指導してきた。選手としてもサニックスや日本代表でやって、これまで来た外国人選手・コーチのなかで残したレガシーはナンバーワン。一生懸命、日本の力を引き出そうとした監督です。感謝しかない」
試合前、PR稲垣啓太は「2大会連続で決勝トーナメントに進むことは、日本ラグビーが一貫性をもって準備してきたことの結果として、すごく大きな意味を持つ」と話していた。その言葉は実践できなかったが、ワールドカップの舞台で"本気モード"のイングランドやアルゼンチンと善戦したことは、日本ラグビーの進化を証明したことにつながったはずだ。
【4度目のワールドカップを終えた堀江翔太の言葉】
試合後、堀江はしみじみと語った。
「何回もベスト8にいけるわけはない。(決勝トーナメントは)レベルが高いところにある。僕たちは僕たちのラグビーをして負けたので、そんなに悔いはない。(1勝もできなかった)2011年大会より胸を張って帰れるかな......」
コロナ禍もあったこの4年間、日本はワールドカップが始まるまで世界ランキング格上のチームに一度も勝つことができなかった。だが、大会に入ってからも成長し続けて、最終戦で一番のラグビーを見せた。
だが、世界の壁はやはり、高かった。