北海道から箱根駅伝の予選会突破を目指す札幌学院大のエースが渡邊隼翼(3年)だ。身長166㎝、45キロと小柄ながらバネのある走りが特徴で、負けん気も強い。福島県の清陵情報高校出身で、先輩には800mの中距離で活躍している安倍優紀(東海大)がい…

北海道から箱根駅伝の予選会突破を目指す札幌学院大のエースが渡邊隼翼(3年)だ。身長166㎝、45キロと小柄ながらバネのある走りが特徴で、負けん気も強い。福島県の清陵情報高校出身で、先輩には800mの中距離で活躍している安倍優紀(東海大)がいるが、「自分も全国レベルで活躍できる選手になりたい」と語る。

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箱根駅伝予選会、地方からの挑戦

第1回・札幌学院大学 後編

前編を読む>>箱根駅伝予選会に地方から参加する札幌学院大の歴史的チャレンジ「とにかく爪痕を残したい」



出雲駅伝6区を走る札幌学院大学の渡邊隼翼

――福島から、なぜ札幌学院大へ。

「高校は陸上ではそんなに有名なところではなかったですし、自分の5000mの自己ベストが15分59秒だったので、陸上をあきらめて就職しようと思っていたんです。そうしたら札幌学院大のスカウトさんからお手紙をいただいて。もう1回、チャレンジしたいと思って入学しました」

――大学に入学してからは、どんな種目をメインに考えていたのですか。

「最初は5000mと10000mで結果を出したいと思っていました。高校時代、駅伝は全国大会の経験がなかったので、そこまで思い入れがなかったですね。全日本大学駅伝もあまり興味がなくて、4年間で一度走れればいいかなって思っていました」

 渡邊の5000mの現在の自己ベストは14分14秒。3年間で1分45秒を短縮してきたことになる。地道に走り続けてきた結果、チームのエースに成長。その表情は精悍で、自信にも満ちているが、競技面でターニングポイントになったのは、今年3月の学生ハーフだった。

――学生ハーフは、どういう点でターニングポイントになったのですか。

「レースでは、65分02秒の自己ベストを出して、部記録も更新できました。関東の駒澤大や創価大の選手を抜いたりすることができて、ある程度のタイムを出せば関東の大学の選手とは張り合える、自分もやればできるんだと自信をつけることがでたんです。箱根駅伝の予選会もここから現実的になってきて、自分が走ればチームの支えになれるかもしれないと思いました。また、この時から目指すところが大きく変わりました。それまで視野が狭くて目先のことしか考えられなかったんですけど、今はインカレを始め、全日本大学駅伝や箱根駅伝予選会とか大きなレースで結果を出すためにどうしたらいいのか。先々の目標について、どうアプローチしていくのかを考えるようになりました」

――ライバルとか、気になる選手はいますか。

「関西大学の亀田仁一路選手です。大学3年で同級生ですけど、10000mで28分25秒のタイムを持っていて、関東に負けないぐらい強いですし、頑張っています。僕はまだまだ及ばないですけど、勝手にライバル視しています(笑)。あと、ライバルではないですが、吉岡大翔(順大1年)選手とか、下級生でも速い選手の走り方とか、すごく気になりますね」

 昨年、箱根駅伝予選会の全国化が決定した。それまで箱根駅伝に縁がなかった地方の大学にも走るチャンスが与えられた。賛否両論の声がとびかう中、地方大学の選手は、どう思っていたのだろうか。

――渡邊選手は、箱根駅伝が全国に門戸を開いたのを聞いて、どう思いましたか。

「僕は何がなんでも出たいという気持ちでした。ただチームとして参加するので、他の選手のコンセンサスも得ないといけない。それぞれいろんな考えを持っていますし、目指すものが違う部分があるけど、箱根の予選会に挑戦できるなんてすごい経験じゃないですか。大学生活はもちろん、人生でも一度しかないと思うんです。このチャンスを捨てるのはもったいない。予選会に出るだけでも幸せだなって思いましたね」

 チームは全日本大学駅伝の北海道予選会で優勝し、その後、箱根駅伝予選会への出場を決めた。渡邊は故障のために北海道予選を走れなかったが、すでにポイント練習にも戻ってきており、本番に向けて調子を上げていくという。

――関東の大学に一泡吹かせてやろうという意識はありますか。

「関東の大学は、うちの大学のことなんて目にも止めていないでしょう。だから、最初の1キロでもいいですし、5キロでもいいので、先頭に立って走り、なんでこんなところに(札幌学院大が)いるんだって驚かせたいです。そうして、少しでも多くの人の目に自分たちの姿を焼き付けたい。今年の箱根駅伝の1区で関東学生連合として育英大学の新田(楓)選手が飛び出して、すごく目立ったじゃないですか。あの走りで選手の名前も学校名も全国に知れ渡ったし、すごくインパクトが大きかった。僕はあの姿勢というか走りに憧れていて、やってみたいんです。そういう選手がうちからひとりでもふたりでも出て、レースを盛り上げていけたらと思います」

――予選突破は、どう考えていますか。

「現実的には難しいですね。もちろん、あきらめているわけではないですが、僕自身はその目標はともかく、予選会を走ることの幸せを感じてもらえるといいかなと思っています。めちゃくちゃ注目される大きな舞台で21キロを走ることなんてなかなかないですし、関東の大学と一緒に走れるのもすごくいい経験になると思うんです。予選会に出て、何も残せずに終わるのは嫌なので、個人としてもチームもしても何かを得たいです」

 予選会が終わると11月には全日本大学駅伝が待っている。昨年は19位に終わったが、今年も北海道代表として、関東や関西の強豪校と戦うことになる。

――今年の目標は、どこに置いていますか。

「18位よりは上で、出来れば16位まで上げていきたいです。9位から17位に入ると地区学連から出場枠が1校増えて2校になりますし、そのためには関東や関西の大学を一つでも多く喰っていきたいですね」

――自分自身の卒業後について考えていることがありますか。

「一番の目標は、実業団に行くことです。仕事をしながらでも陸上はつづけていきたいと思っています。競技は、トラックなのか、マラソンなのか、ちょっと迷っています。得意なのはトラックですけど、タイムが出て楽しいのはハーフなので、それは卒業してから考えようかなと。マラソンを走るにしても体作りをして、トラックの経験を積んでからでもいいかなと思っています」

 箱根駅伝予選会は、箱根を目指す大学にとって天国か地獄かの非常に厳しいレースになるが、選手はタイムを出して名を売ることができる。渡邊もそこでインパクトを与えられるような走りを見せることができれば、実業団から声がかかる可能性がある。

――箱根駅伝予選会を、どのように戦いたいと考えていますか。

「チームのこともありますが、まずは自分がやるべきことをしっかりやる。自分が頑張れないとチームも頑張れないと思うので、自分が先頭に立って引っ張っていきたいです。コーチにも『エースの自覚を持って』と言われているので、その期待に応えたいです」

――今年の箱根1区の新田選手のようにスタートから前にいく予定ですか。

「そうですね。どれだけスタートがうしろでも最初からとにかく先頭の方で走る。先頭に立って走れば、地方の大学でもここまでやれるんだぞっていうのを見せられると思うんです。途中でペースが落ちたとしても、とにかくチャレンジして前にいく。挑戦しないと意味がないと思いますし、やっぱり出るからは爪痕を残していきたい。『地方の大学、なめんなよ!』っていうのを見せたいですね」

 箱根駅伝の予選会、見慣れたユニフォームが多い中、発色の良いイエローカラーのユニフォームの選手が前に飛び出していくかもしれない。途中で脱落したとしても留学生や各チームのエースを従えて走る小柄なエースは、相当のインパクトを残し、きっと大きな爪痕を残してくれるはずだ。