第1回オールガールズクラシックを制した佐藤水菜(さとう・みな)【観客席から感嘆の声】 女王が敗れた。 敗れたばかりの一戦を振り返るコメントは、驚くほど潔かった。「もっと脚力があれば残れたんですけど、踏み直す足が残ってなかったし、全体的に力ん…



第1回オールガールズクラシックを制した佐藤水菜(さとう・みな)

【観客席から感嘆の声】

 女王が敗れた。

 敗れたばかりの一戦を振り返るコメントは、驚くほど潔かった。

「もっと脚力があれば残れたんですけど、踏み直す足が残ってなかったし、全体的に力んでたなって思います。まだまだ自分の脚力が足んないですね」

 そう話すのは、児玉碧衣(108期・福岡・28歳)。生涯獲得賞金額は1億円を突破し、ガールズケイリン史上最速で500勝を達成した、人気と実力を兼ね備えたスーパースターだ。

 ガールズケイリンは今年度から新たにGⅠ開催を3つ新設したが、その緒戦である『パールカップ』(岸和田競輪場)も児玉が制している。この日(10月4日)行なわれたのは『オールガールズクラシック』という最も格式の高いGⅠ開催。初代チャンピオンの座をめぐって、じつに42名ものガールズケイリン選手たちがトーナメント方式で争った。

 舞台となった松戸競輪場(千葉県)には、夏の残滓(ざんさい)を拭うような冷たい雨が打ちつけていた。決勝のレースが始まったのは20時35分。あいにくの空模様と遅い時間帯にもかかわらず、スタンドのあちこちからファンの熱い声援が飛ぶ。

 一瞬の静寂を経て、レースがスタート。ガールズケイリンは7車立て。つまり、7人の選手がバンクを5周(1682m)して着順を競う。先手を取ったのは伏兵の吉川美穂(120期・和歌山・30歳)で、児玉は中団の位置をキープ。最大のライバルとみられる佐藤水菜(114期・神奈川・24歳)は最後方から様子をうかがった。

 女王か、アジア王者か。注目を集めたのは、4つ年の離れた実力者対決だ。

 児玉とは異なる道を歩み、佐藤は頭角を現してきた。2020年にナショナルチームのメンバー入りを果たすと、世界選手権では女子ケイリンで2大会連続の銀メダルを獲得。現在、中国で開催中のアジア大会では女子ケイリンと女子スプリントで2冠を達成し、先月末に凱旋帰国したばかりだった。

 連戦による疲れも心配されたが、このトーナメントも予選、準決勝とトップで勝ち上がる。佐藤は「優勝に強くこだわりすぎるとよくないというのは自分自身がわかっているので、そこにはこだわりすぎずに、でも優勝できたらいいなと思って挑みました」と、闘志をうちに秘めて女王との直接対決に挑んでいた。

 勝負が動いたのは、残り1周半となってから。仕掛けたのは、児玉だった。ペダルを踏む回転数を上げると、あっというまに先頭に立つ。このまま逃げ切るかと思った矢先、後方から猛烈なスピードで追い込んできたのが佐藤だった。

 日本代表が見せる異次元のスピードに観客がどよめく。最終ストレートで雨風を一気に切り裂き、佐藤の自転車が大きな水飛沫を上げてゴールすると、今度は「強い!」という驚嘆の声が漏れた。

先頭でゴールに入る佐藤(3番車・赤)

 児玉(2番車・黒)は4着に

【グランプリの切符を獲得】

 奮っていたのは、新女王の優勝コメントだ。

「雨で自転車が勝手に進んでしまったところがあったので、道中は落ち着いてコントロールしなきゃなと思ってました。でも、だからこそ、どこから行ってもいいと思ったし、どこからでも行けるなって。ゾーンに入ったような感覚は今日もありましたね」

 ふだんは屋内のバンクを主戦場としている選手が、激しい雨をものともせずに勝ちきったのだ。他を圧倒するスピードもさることながら、この研ぎ澄まされた感性こそが佐藤の武器であるのだろう。

 見せ場を作りながら、最後は4着に敗れた児玉も、ライバルの力をこう讃える。

「年間を通してガールズを盛り上げているのは私たちなので、ナショナルメンバーに(優勝を)獲らせたくなかったんですけどね。(ラストの)1周半(逃げ切るの)はキツかったです。でも、脚力があればああやってどこからでも1着が獲れるから、やっぱり脚力なんですよ。この3日間を通して、もっともっと強くなりたいなって思いました」

 今回の勝利で佐藤は、年末12月29日の立川競輪場で開催される『ガールズグランプリ2023』の出場権を手に入れた(GⅠ開催の優勝者3名、賞金獲得上位者など計7名が出場できる)。11月下旬には3つ目の新設G1開催『競輪祭女子王座戦』があり、いよいよ年間女王の座をかけた一発勝負のグランプリへとなだれ込んでいく。

 今後の意気込みについて聞かれると、佐藤は引き締まった表情でこう答えた。

「これで次の競輪祭にはより前向きな気持ちで入れます。いい意味で結果を気にせずに、自分が新たにやりたい戦法なんかも試してみたい。まだ、現状には満足していませんし、もっともっと強くなっていきたいです」



佐藤はこの3日間、力の差を見せつけた

 今年のグランプリが佐藤と児玉の2人を軸に回るのは間違いない。だが、2着に入った吉川や、3着の久米詩(116期・静岡・24歳)の悔しそうな表情を見ていると、まだひと波乱もふた波乱も起こりそうな気配も感じられる。

 次の初代タイトルを獲るのははたして誰なのか。競輪祭にも熱戦を期待したい。