「故郷に帰ってくるチャンスが得られて嬉しいよ。キャリアを通じてサポートしてくれた、あなたたちを愛している。フィリー(フィラデルフィアの愛称)はいつでも僕の心の中にあるんだ」 7月16日、「3×3(スリー・バイ・スリー)バスケ」の新たなプ…

「故郷に帰ってくるチャンスが得られて嬉しいよ。キャリアを通じてサポートしてくれた、あなたたちを愛している。フィリー(フィラデルフィアの愛称)はいつでも僕の心の中にあるんだ」

 7月16日、「3×3(スリー・バイ・スリー)バスケ」の新たなプロバスケットボールリーグ「BIG3」の試合がファラデルフィアで行なわれ、元NBAのスーパースターであるアレン・アイバーソンがファンの前でスピーチした。その瞬間、ウェルズファーゴ・センターに集まったファンは大歓声。現役時代に76ersのエースとして絶大な人気を博したアイバーソンの”帰郷”に、フィラデルフィアは久々に沸き返った。



フィラデルフィアでファンの声援に応えるアイバーソン

 6月25日にアメリカでスタートした「BIG3」。ラッパーや俳優として活躍するアイス・キューブの陣頭指揮で、多くの元NBAプレーヤーが参加することになった全8チームが、10週にわたって全米各地で毎週日曜にゲームを行なう。

 最大の目玉はアイバーソンだが、他にもチャンシー・ビラップス、ジャーメイン・オニール、ラシャード・ルイス、マイク・ビビー、ケニオン・マーティンといったビッグネームが顔を揃える。

 さらに、各チームを率いるヘッドコーチ陣も豪華だ。ジュリアス・アービング、ジョージ・ガービン、ゲイリー・ペイトン、クライド・ドレクスラー、チャールズ・オークリー、アイバーソン(選手と兼任)、リック・バリー、リック・マホーン……。そうそうたるレジェンドたちがサイドラインに立つことに、感激するオールドファンは多いはずだ。

 今後、フィラデルフィアでのアイバーソンほど盛大ではなくとも、各地でゆかりのある元スターたちが歓待を受けることになるだろう。たとえば、NBAチームが存在しなくなってしまったシアトルで、かつてスーパーソニックスの看板スターだったペイトンやルイスがどんな形で迎えられるかも楽しみだ。

「引退後は、チームメイトたちとの友情やつながりが恋しくなる。それを取り戻すことができたのを嬉しく思う。他にも多くの元スター選手とBIG3について話していて、みんな参加に興味を持っているよ」

 オニールがそう述べていたのをはじめ、選手たちは実に楽しそうにアリーナでの時間を過ごし、ファンは総じて笑顔を浮かべていた。

 最安で25ドル、コートサイドでも750ドルというリーズナブルなチケット料金もあって、開幕戦が行なわれたブルックリンに集まった観衆は 1万5177人。3週目のタルサ(オクラホマ州)も1万人以上と、ここまでの観客動員は上々だ。新旧のレジェンドが集結する新イベントは、まずはファンから好意的に迎えられていると言っていい。

 しかし、「真剣勝負」を謳うこのリーグには、現時点で突っ込みどころが少なからずあることも否定できない。

 人呼んで、”NBAのシニアツアー”。30代、40代の引退した選手ばかりなのだから、プレーの質は最高級とは言えない。筆者は6月25日の開幕戦と、今回フィラデルフィアで行なわれた4週目の2大会を取材したが、「毎週でも見たい」と感じるようなレベルのゲームではなかった。

 開幕戦では、かつて”ホワイトチョコレート”の愛称で親しまれたジェイソン・ウィリアムスが右膝を痛め、全治6~8週間のケガを負った。今週もマーティン、ビラップスは欠場。コーチとして「3’sカンパニー」というチームの指揮を執ったアイバーソンも、ドクターストップで選手としてはプレーしなかった。

 明らかなコンディション不良による欠場者の続出には、がっかりするファンも少なくない。肝心のゲームの質が上がらない限り、「BIG3を真剣なスポーツイベントして捉えるのは難しい」という声も出てくるはずだ。

 ただ、産声を上げたばかりの新リーグに対し、現時点でそれほど厳しい判断を下すべきではないようにも感じる。プレーの質に関しては、これから徐々に上がっていく可能性を秘めているからだ。

「今年にリーグが始まり、今後に僕たちの方もトレーニングの方法がわかってくる。ここまでは手探りだったからね」

 オニールがそう述べる通り、このイベントがモチベーションになり、今後はより真剣に体調維持に努める元NBA選手も出てくるに違いない。また、大会の基盤が確立すれば、NBAを引退直後に飛び込んでくる若いプレーヤーも増えるだろう。

「BIG3でのプレーが先につながるといい。(NBA復帰を)諦めたわけでなく、代理人とは今後についての話もしているよ」

 2年ぶりのNBA復帰を目指す38歳のラシュアル・バトラーは、フィラデルフィアでの試合後にそんな意気込みを語っていた。このバトラーや、昨季はBリーグの三遠ネオフェニックス(愛知)でプレーしたジョシュ・チルドレスのように、まだまだ元気なプレーヤーもBIG3に属している。

 スポーツ・エンターテインメントなのだから、さまざまな立ち位置の選手がいてもいい。現役を長く離れていたアイバーソンのようなレジェンド、ポール・ピアース、ケビン・ガーネットのように引退直後の元スター、そしてまだ将来がある選手たちがバランスよく混ざれば、BIG3はよりハイレベルで華やかになる。そんな方向に向かっていけるか、この大会をもう少し長い目で見る必要があるだろう。

 また、たとえ今と変わらないレベルに落ち着いたとしても、それはそれで悪くはない。開催は10週間のみで、毎週1戦ずつ。しかも、それぞれの街では年に一度のサマーゲームとなる。かつて一世を風靡した元スターとファンが久々に邂逅(かいこう)する場としてだけでも、このイベントには存在価値があるように思えるのだ。

 大ベテランミュージシャンのライブツアー同様、全盛期のパフォーマンスを期待すべきではない。最高レベルではなくとも、そこには残り香のような魅力がある。ローリング・ストーンズやイーグルスのツアーに多くのオールドファンが集まるのと同様に、BIG3は今後も多くのファンを引き寄せ、1年に1日だけでも、人々に幸福な時間を届けてくれるに違いない。