【ネーションズリーグからの変化と収穫】 女子バレーボール日本代表が9月24日、「FIVBパリ五輪予選(OQT)/ワールドカップバレー2023」の最終試合でブラジルと対戦し、フルセットで敗れた。1敗同士で勝ったほうが五輪への出場権を獲得する重…

【ネーションズリーグからの変化と収穫】

 女子バレーボール日本代表が9月24日、「FIVBパリ五輪予選(OQT)/ワールドカップバレー2023」の最終試合でブラジルと対戦し、フルセットで敗れた。1敗同士で勝ったほうが五輪への出場権を獲得する重要な試合だったが、あと一歩及ばなかった。



パリ五輪の出場権獲得は来年に持ち越しとなった女子バレー日本代表

 今大会の日本は、サーブで崩してラリーを制するという意識が徹底され、開幕からペルー、アルゼンチン、プエルトリコ、ブルガリア、ベルギーと5戦連続で失セットゼロという快進撃。序盤は世界ランキングが低い国との対戦もあったが、眞鍋政義監督も「完全に予想外」と話すほどだった。

 先んじて行なわれたネーションズリーグ(VNL)では、昨年度の得点源のひとりだった井上愛里沙の得点が伸び悩み、新しい戦力として光が見えたミドルブロッカーの荒木彩花がケガによって離脱するという影響もあり7位だった。

 そのネーションズリーグと違ったのは、チームとしては攻撃枚数が増え、ラリー中のバックアタックもよく見られるようになったこと。さらに、井上を完全にサーブレシーブから免除して攻撃に専念させたこともそうだった。それによって井上は「苦手なサーブレシーブで崩されてスパイクも不調になる」という悪循環に陥ることがなくなり、昨年度と同じか、上回るくらいの決定率を残すことができた。

 また、ベテランのミドルブロッカー、渡邊彩が存在感を示したことも好材料だ。身長は176cmで、選考の際には「ミドルブロッカーとしては身長が低いのではないか」という声もあった。低身長でも機敏なミドルブロッカーは、国内リーグでは活躍できても国際大会では厳しいという傾向があったが、トルコやブラジル相手にもキルブロックを見せ、タッチも取っていた。

 これまで、所属していた2チーム(三洋電機レッドソア、仙台ベルフィーユ)が廃部になるという苦難を乗り越えて掴んだ代表のポジション。眞鍋監督も「渡邉は非常によくやってくれた」と称えた。ミドルブロッカーでは山田二千華もサーブで連続得点を挙げるなど大きく貢献しただけに、来年度はポジション争いが激しくなるだろう。

【あと一歩に迫った、強豪国との戦いで見えた課題】

 そうして強豪のトルコ(第6戦)とブラジル(第7戦)も善戦したが、同時に課題も見えた2敗となった。

 今大会で最終的に首位になったトルコにはVNLで勝利していたが、トルコは日本をよく研究してきており、攻守の要である林琴奈を徹底してサーブで狙ってきた。その一方で、トルコはVNLで温存されていた、キューバから帰化した絶対エースのメリッサ・バルガスが調子を上げていった。1セット目は相手にミスが目立ち日本が先取したが、次第にバルガス以外の選手の決定率も上がっていき、日本はブロックの的を絞れなかった。

 ブラジルは今も強豪国だが、北京、ロンドン五輪で金メダルを獲得した時のような絶対的な強さはない。昨年の世界選手権でも、1次ラウンドでは日本が勝利している。ただ、ブラジルは5戦目のトルコ戦の直前に、北京五輪金メダリスト、バレウスカ・オリベイラの訃報があった。そのトルコ戦は落としたものの、主将のガビを中心に「バレウスカのために戦った」とチームがまとまり、激戦となった日本戦は気迫でもぎとった。

 トルコ戦、ブラジル戦での敗因について、眞鍋監督は「サーブレシーブが崩されたことと、メンタルですね」とコメントした。

 サーブレシーブに関しては、今回のリベロ起用の意図も影響したかもしれない。今大会は"スパイクレシーブ型"の福留慧美の起用が多かったが、ベルギー戦をはじめサーブレシーブが崩れた際には、"サーブレシーブ型"の西村弥菜美と福留が併用される形になった。

 ほとんどの国際大会はメンバーが14名だが、五輪本戦は12名しかベンチに入れず、リベロはひとりしか登録できない。眞鍋監督としては、どういったリベロを据えるかを決めたい狙いもあっただろうが、トルコ戦、ブラジル戦では2人ともレシーブで崩されたり、サーブのインアウトのジャッジをミスしたりする場面も。リベロに関しても、来年度に向けて注目のポジションになりそうだ。

 メンタルについては、20点以降の勝負どころや、セットポイントを握った場面で決めきれないところも目立ったように思える。単純な「根性論」ではなく、技術や実力が拮抗した相手に対して、存分に力を発揮するために気持ちをどう持っていくか、ということだろう。ブラジル選手たちの鬼気迫る表情とプレーを見ると、よく耳にする「勝とうとする気持ちが強かったほうが勝つ」というコメントにも重みが増す。

 ただ眞鍋監督は、「技術は向上させるのに半年や1年かかりますが、メンタルは1秒で変われます。専門スタッフにもついてもらっていますし、向上していけたらいいと思います」と冷静に述べた。来年度はパリ五輪の出場権をかけて"後がない"状況で試合を迎えるケースも考えられるが、そこで真価が問われることになりそうだ。

【日本がパリ五輪出場を決めるための条件は?】

 主将の古賀紗理那は大会を通してほぼフル出場し、チームを鼓舞し続けた。しかし、ブラジル戦の第3セット途中では、プッシュなどでブロックをかわそうとした結果、ラリーとなって相手に決められることも増えた。

 すると眞鍋監督は、第4セットで古賀を下げて石川真佑を投入し、最後までサイドは石川、井上、林で回した。試合後、会見で交代について問われた古賀は「コンディションの問題ではありません」と唇を噛んだが、この悔しさも先につながるだろう。

 パリ五輪の出場権獲得は持ち越しとなったが、林が「この大会のことをネガティブでなくポジティブに捉えています。強豪国ともわたり合えた手応えはありました」と振り返ったように、多くの選手が手応えも感じているようだった。2000年から2016年まで続いた「最終予選」は、その大会で出場権を獲得できなければ"終わり"というプレッシャーがあったが、チャンスはまだ残されている。

「私が監督に就任した時から、OQTで切符を取って、余裕を持って五輪に臨むことは目標にしていました。でも、(OQTで出場権を得られなかった場合は)最後は世界ランキングで決まることもわかっていたので、五輪翌年に行なわれる、他の国が世代交代を図るために若手を使ってくるだろうネーションズリーグでは"勝ち"を優先しました。そのおかげで、今は貯金が少しある状態です」(眞鍋監督)

 五輪の出場枠12カ国のうち、開催国のフランスに加え、OQTで6カ国が出場権を獲得。残りの切符は、来年のVNL予選ラウンドが終了する2024年6月17日時点の世界ランキングにおいて、上位の5カ国が手にする。

 現在の日本は世界ランキング9位で、すでにパリ五輪への出場が決まっている国を除くと上から3番目。ただ、今回のOQTで出場権を獲得できなかった「アジア・オセアニア大陸」と「アフリカ大陸」の最上位国に優先で1枠ずつ割り当てられるため、日本はVNLで中国(同6位)を上回るか、中国を上回れなかった場合は残る「3枠」をイタリアやオランダなどと争うことになる。

 世界ランキングが変動する大会は来年のVNLまでないため、各選手たちは所属チームに戻ってリーグを戦い、進化を目指す。今シーズンは、石川が兄・祐希と同じイタリア1部で、セッターの松井珠紀もブラジルリーグでプレーするなど海外リーグで揉まれる選手も増える。今大会で得られた経験を生かし、それぞれの地で成長した選手たちが、来年のVNLで躍動する姿に期待したい。