■古瀬レフェリーの目 ラグビーのルールや判定の背景を、日本ラグビー協会のA級公認レフェリーで昨季のリーグワンでベストホイッスル賞を受賞した古瀬健樹さん(早大4年)が解説します。 ワールドカップ(W杯)フランス大会の視察のため、2泊5日で現地…

■古瀬レフェリーの目

 ラグビーのルールや判定の背景を、日本ラグビー協会のA級公認レフェリーで昨季のリーグワンでベストホイッスル賞を受賞した古瀬健樹さん(早大4年)が解説します。

 ワールドカップ(W杯)フランス大会の視察のため、2泊5日で現地に行ってきました。日本―イングランドなど2試合を観戦し、現場の雰囲気を体感してきました。

 当たり前ですが、W杯はファンの声援や反応の大きさが普段の試合とは違います。ブーイングも飛び交う中で一貫した笛を吹き続けられるか。この舞台に立つためにはメンタルの強さが不可欠だと痛感しました。

 レフェリーも人間なので失敗します。一つのミスに引きずられまいと気持ちを切り替えることは大切ですが、忘れようと思いすぎて逆に引きずられることもあります。重圧といかに向き合うか。そんな心のマネジメントが大切です。

 主審は孤独と向き合う職業ではありますが、自分の判断を一緒に確認してくれる態勢があれば必要以上に孤独を感じずに済みます。そのためにも、サイドラインで試合を見るアシスタントレフェリー(AR)や映像で確認してくれるテレビジョン・マッチ・オフィシャル(TMO)との連係はとても重要になります。

 日本―イングランドでは、イングランドのマーラー選手の頭に当たって球が前にこぼれた「ヘディングトライ」が話題になりました。あの時、主審のニカ・アマシュケリさんは「プレーオン(プレーを続けて)」とコールしていました。

 直後にARは「僕もそう思うけど、一応確認した方がいいよ」とニカに助言を送っていました。私たちは審判団の声が聞こえる映像で試合を振り返ることができますが、こうした後押しで、より自信を持った判断につながると思います。

 ジョージア出身のニカは近年トップレベルで頭角を現し、W杯の主審に今回初めて選ばれました。

 ラグビー伝統国以外の出身者がW杯の笛を吹くのは簡単ではありませんが、ニカは重圧下でも判断がぶれず、一貫した強さを持ってレフェリングをしていました。母国語ではない英語で選手たちとしっかり対話していました。日本―イングランドで互いの反則が六つずつと少なかったのは、選手の規律の高さと同時に、彼が試合をコントロールできていた証拠です。

 29歳の彼は学年で私の七つ上。焦りはないですが、英語をより磨く必要があるし、強さを持った判断を下すための経験値も身につけていきたい。気持ちを新たにするW杯となりました。(日本ラグビー協会公認A級レフェリー)