大小の河川が入り組み、かつては水運で栄えた「水の都」の徳島市で、ハワイ発祥のマリンスポーツ「スタンドアップパドルボード」(SUP)が人気だ。専門店「ファンライド徳島」を営む南里尚志(なんりひさゆき)さん(58)は市内で、安全で気軽に楽しめ…

 大小の河川が入り組み、かつては水運で栄えた「水の都」の徳島市で、ハワイ発祥のマリンスポーツ「スタンドアップパドルボード」(SUP)が人気だ。専門店「ファンライド徳島」を営む南里尚志(なんりひさゆき)さん(58)は市内で、安全で気軽に楽しめる体験スクールを開き、地元のにぎわいづくりにひと役買っている。

 SUPはサーフボードよりひと回り大きい長さ約3メートルのボードの上に立ち、両手で握ったパドル(櫂〈かい〉)で漕(こ)いで進む。初心者でも操りやすく、揺れるボードの上でバランスを取るため体幹も鍛えられるという。

 南里さんは20代でウィンドサーフィンを始めた。SUPとの出合いは15年ほど前で、サーフィン関連製品メーカーの営業担当者からSUPのボードなどを紹介されたことがきっかけだ。

 「カヤックのように座って漕ぐのではなく、立っては初めてでスピードはゆっくり。ウィンドサーフィンのような派手さはないが、まったり感が面白かった」と当時を振り返る。

 その後、楽しさを伝えようと市内の河川で初心者向け体験スクールを始めた。市街地の水面に浮かぶ彩り豊かなSUPを見た人らが「乗ってみたい」と店を訪ねてくるようになった。市内は河川に親しめる場所が多く、コロナ禍前のピーク時は関東方面の大都市圏や海外などから月100人ほどが体験に訪れたという。

 南里さんは2022年度まで4年間、一般社団法人日本スタンドアップパドルボード協会(SUPA)の理事や安全普及部会長を務め、事故防止のための啓発活動に取り組んできた。

 SUPは手軽に始められるが安全対策を怠ると危険も伴う。体験スクールではライフジャケットの着け方や、命綱にもなる「リーシュコード」を使って自分の足首とボードをつないでおくことなども学んでもらう。

 水に落ちた時は、そのコードをたぐってボードを引き寄せて乗ることや、船が近づいてきた時は岸の方へ避難することも教わる。

 釣り船に乗るが、SUPは初心者の記者(49)も体験してみた。岸に寄せたボードの真ん中に正座して乗り、ゆっくりとボードの上に立ち上がる。水に落ちないようにと力んで、わずかな揺れに足元がおぼつかない。ただ慣れてくると力も抜けて、ボードの上に楽に立てるようになった。

 パドルを水の中に差し込んで漕ぎ出す。背中から押す風の力も相まって、スムーズに進めた。水面からの徳島県特産の青緑色の「阿波青石」を敷き詰めた護岸や、橋の下からのぞく街の景色は新鮮。まさに「水上散歩」といった趣だ。

 9月中旬、体験スクールに大学院生の4人組が参加した。南里さんらに付き添われながら満喫し、「水上から眺める街の景色は普段と全然違った」「最初はボードが揺れて怖かったが、慣れると一体になった気分で漕げた。楽しい」と興奮気味に話した。

 南里さんは欧州で人気の新たなマリンスポーツ「ウィングフォイル」も注目している。水中翼が付いたボードに乗り、「ウィング」と呼ぶ翼のようなセールで風を受けて水上を疾走したり舞ったりする。上級者向けだがSUPを機に、本格的にマリンスポーツを始めた経験者が、徳島市の小松海岸などで上達を目指して練習に励んでいるという。

 「SUPを通して人の輪がどんどん広がっていくのがうれしい。マリンスポーツから『水の都』を盛り上げていきたい」と意気込む。(吉田博行)

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 〈ファンライド徳島〉徳島市南内町3丁目の新町川沿いに店を構える。1時間のSUP体験スクールは大人4400円、中学生3300円、小学生2200円(いずれも用具のレンタル代と保険代、消費税込み、要予約)。営業は午前10時~午後7時半(冬季は午前11時~午後6時)で不定休。090・9772・7588。