夏日は続くが、暑さのピークは過ぎたようだ。酷暑を避けていた間に衰えた脚力を取り戻そうと、「ノルディックウォーキング」に挑戦してみた。ウォーキングと比べて、全身運動効果が高いのが魅力だ。 挑戦に格好の場所が、栃木県さくら市の喜連川(きつれが…

 夏日は続くが、暑さのピークは過ぎたようだ。酷暑を避けていた間に衰えた脚力を取り戻そうと、「ノルディックウォーキング」に挑戦してみた。ウォーキングと比べて、全身運動効果が高いのが魅力だ。

 挑戦に格好の場所が、栃木県さくら市の喜連川(きつれがわ)温泉の3施設だ。喜連川温泉は斐乃上(ひのかみ)温泉(島根県)、嬉野(うれしの)温泉(佐賀県)とともに「日本三大美肌の湯」と呼ばれる。浴場を備えた道の駅きつれがわ、市営もとゆ温泉、市営露天風呂には、無料でレンタルできるノルディックウォーキング用のポールが置いてある。

 那須烏山市在住で、日本ウオーキング協会主席指導員の碓氷正和さんにポールの使い方を教わった。

 傘寿を迎えた碓氷さんは、ドイツ製ポールを手に毎日6キロ歩いている。起源はクロスカントリースキー選手の夏の練習なので、左右の手に握ったポールは体の前でなく、体の脇で地面をついて推進力を得る。引きずり上げるように前へ持ってきて再び地面をつく。

 頭でわかったつもりで数メートル歩くと、「右手と右足が一緒に出ている」と碓氷さんに注意された。

 ポールを引きずり上げることに意識を向けていたら、「足は引きずらないで」と指摘され、さらに「おばあちゃんスタイルになっているよ」。碓氷さんによると、ノルディックウォーキングは習得するまでに半年かかるという。

 歩く前と後の体操も教わった。「心臓から遠く眠っている筋肉をほぐすように。歩く前にしっかりやらないと、疲労回復が遅れる」

 体操後には水を飲む。「渇く前に飲む」が鉄則だ。技術家庭科を教えてきた元中学校長の碓氷さんは、ハチミツと岩塩を溶かした自家製飲料水を持参していた。

 歩く姿勢も教えてもらった。「頭が糸でつりあげられているように背筋を伸ばす。ひざも伸ばし、自分に向かってくる人へ靴の裏を見せるように、かかとから着地。そうするとつまずかない。転倒予防になる」

 かかとを動かすことで「第二の心臓」と呼ばれるふくらはぎのヒラメ筋が動くので、血流がよくなるのだという。

 歩いた後に温泉が楽しめるのが、ここの魅力だ。市営の入浴料は一般300円。もとゆ温泉には午前7時から入れる。

 翌日、復習のため市営露天風呂へ。こちらは午前9時から営業している。受付でポールを借りると、2本とも左手用だった。交換をお願いして出てきた右手用はほこりをかぶっていた。拭いてもらったが、職員は「借りる人がいないので……」。

 道の駅きつれがわでも週に1度、常連客1人が借りに来るくらいだという。もとゆ温泉では年2回、碓氷さんによる指導教室を開いて周知に努めているが、教室以外の利用はほとんどないそうだ。

 ポールは、2020年度に市が120組を購入した。各施設に10~15組を置き、残りは市役所に置く。購入費の54万7800円は、国の新型コロナ地方創生臨時交付金で賄った。

 コロナ禍で外出機会が減った高齢者の健康増進策だったが、市役所へ借りに来る人も少ない。21年度は6件(延べ104組)、22年度は9件(延べ57組)だったという。

 碓氷さんは「人生締めくくりの『八十路坂(やそじざか)』をのぼる脚力をつけるため、早くから、正しい姿勢で歩く習慣を身につけたい」。もとゆ温泉は来月25日、碓氷さんの指導教室を開く。歩き終えた後の温泉を楽しみに、また参加してみよう。(小野智美)