角田裕毅にとって、2度目の凱旋帰国。 もちろん勝利を収めたわけではないが、F1ドライバーという成功を収めて母国の地に戻ってきたのだから、これを"凱旋""と呼ぶことに間違いはないだろう。 それも、初めての母国グランプリとなった昨年の日本GP…

 角田裕毅にとって、2度目の凱旋帰国。

 もちろん勝利を収めたわけではないが、F1ドライバーという成功を収めて母国の地に戻ってきたのだから、これを"凱旋""と呼ぶことに間違いはないだろう。

 それも、初めての母国グランプリとなった昨年の日本GPでは、母国大観衆の前で走るという環境が角田を人間的に大きく成長させてくれた。今年はそこからさらにひと回り大きく成長して、この鈴鹿に戻ってきたのだ。



帰国した角田裕毅は終始リラックスした表情

「鈴鹿自体が好きですし、今週末は天気もよさそうなので(雨の昨年とは違い)速い鈴鹿を久しぶりに走れるかなという気持ちと、さっそく東京でも日本のファンの方々に会えましたけど、今週末もたくさんの日本人のみなさんが応援してくれる景色はここでしか味わうことができませんし、そういった点も楽しみです。

 どのサーキットでも日の丸を目にすることはできましたけど、これだけ大勢の日本のファンのみなさんの前で走るというのは、なかなかありませんから」

 シンガポールGP決勝の翌朝に東京に飛び、プロモーションイベントに駆けずり回った多忙な2日間を過ごした。そのなかでも、大好物のモツ鍋を楽しむ余裕もあった。

 新宿・歌舞伎町で行なわれたF1のイベントでは、シンガポールで接触された相手であるセルジオ・ペレスと同席することになり、インシデントに関する話もしたという。

 しかし角田のなかでは、すでに結論は出ていた。

「向こうからちょっと話をしてきて、完全に謝るというわけじゃないけど、どっちかというと『悪かったね〜』的な感じで状況説明という感じですかね。僕ももうちょっとスペースを空けられたと思いますし、僕のなかでそれも自分の改善点として処理しているので。

 まぁ、それでもハードタイヤでソフトタイヤに挑んでくるほうがおかしいですけど、それでも自分がもうちょっとスペースを空けられたらよかったかなと思っています」

【自分のミスと認め、弱さと向き合えるようになってきた】

 ターン5のかなりインに飛び込んでこられたため、ミラーには映らない死角だった。

 しかし、それもターン3を立ち上がってターン5のブレーキングに入る前にミラーをチェックしていれば、ペレスがあのように動いてインに飛び込んでくる可能性を予測することはできたはずだった。

「けっこう内側から来たので(死角だった)。でも、その前にミラーを見ていればある程度(ペレスの動きや位置は)予測できたと思います。そこも次への改善点として捉えています」

 レース直後は「意味がわからない」と非難していた角田だが、相手に非があろうと結果的にレースを失ったことに違いなく、自分自身とチームの利益を考えれば、相手の無謀な動きを察知してそれに巻き込まれないドライビングが必要であること、それが可能なシチュエーションであったことを見詰め直した。

 相手の非を責めるのではなく、自分が改善できる点はないか──。

 そこに目を向けることができるドライバーでなければ、成長することはできない。逆に言えば、これはトップドライバーたちがみな、実践している思考方法であり、だからこそ、彼らは常に成長を続けられるのだ。

 シーズン後半戦に入ってから、角田は自分のミスは自分のミスと認め、弱さと向き合えるようになってきた。それによって強くなってきた。

 その角田裕毅の凱旋だ。

 シンガポールで投入された今季第3弾のフロアとサイドポッドが、鈴鹿でどんなパフォーマンスを見せてくれるのか、期待がかかる。

「クルマがどのくらいいいパフォーマンスをするのか、そこはまだ正直わかりません。シンガポールは低速コーナーばかりで、空力での戦いではないのでまだハッキリとはわかりませんし、今回はそういう評価をするためのグランプリですね」

 シンガポールでの好走は、同時に投入したダンパーの効果ではないかと角田は見る。

【最大のライバルは現在ランキング7位のウイリアムズ】

 チームの技術陣は手応えを感じている。テクニカルディレクターのジョディ・エギントンはこう語る。

「最大の焦点はダウンフォースだが、それと同時に我々の弱点であったコーナー進入時のスタビリティ向上にも取り組んでおり、その点でもしっかりと改善が確認できている。シンガポールではハイダウンフォースのリアウイングを装着しているが、日本GPでは新型リアウイングを投入するし、それもこの新型パッケージと一体となったものだ。

 だから鈴鹿では、シンガポールよりも一般的なサーキットでのダウンフォースレベルにおいても前進が果たせると自信を持っているよ」

 角田自身もシミュレーターでは好感触を得たという。シンガポールではそのシミュレーターの感触どおりに大きなゲインがあった。

「乗っている感じは悪くなかったと思います。もちろんそのフィーリングと実際にタイムが出るかどうかは別なんですけど、乗っていて走りやすいなというのは感じました。僕が乗りやすくても前に進むクルマとそうじゃないクルマがありますけど、期待はしています」

 チームとしては、シーズン中盤のアップデートで躍進し現在ランキング7位のウイリアムズと戦うことをターゲットとしている。

 アルファロメオやハースとの争いから抜け出し、ウイリアムズやアルピーヌを打ち負かさなければ入賞は見えてこない。それでも上位5チーム10台が順当に完走すれば入賞はできない。それが今のF1だ。

 トラックサイドエンジニアリング責任者のジョナサン・エドルスも、「2台揃ってQ3に進出するのは難しいだろうけど、もちろんトライする。コーナー進入時のスタビリティ向上は、シンガポールよりも鈴鹿のようなサーキットのほうがより高い効果を発揮するはずだから、好パフォーマンスを期待しているよ」と語っている。

 角田自身は、Q3進出と入賞を目標として掲げている。

 だが、最も重要なのは、マシンと自分自身の力をすべて出しきることだ。後半戦に入ってからのこの3戦、マシンにパフォーマンスがありながらも、それができていない。

「もちろんQ3とポイント。あとはもう、全セッションで自分のすべての力を出しきれればいいかなと思います」

 入賞であろうと入賞でなかろうと、すべてを出しきった結果であればそこに悔いはなく、最高の日本GPになる。

 母国・日本で、成長した角田裕毅のすべてを見せてもらいたい。