韓国の平昌で9月3~10日に開かれたアジア選手権。その男子シングルス2回戦で世界ランク2位の王楚欽(中国)を撃破し世界最強の中国に衝撃を与えた田中佑汰(個人)は、卓球のパリ五輪日本代表レースで3位に躍り出た。アジア選手権ベスト8の活躍により…

韓国の平昌で9月3~10日に開かれたアジア選手権。

その男子シングルス2回戦で世界ランク2位の王楚欽(中国)を撃破し世界最強の中国に衝撃を与えた田中佑汰(個人)は、卓球のパリ五輪日本代表レースで3位に躍り出た。

アジア選手権ベスト8の活躍により、世界ランクは73位から60位(現在は61位)にランクアップ。「年内に世界ランク20位まで駆け上がるのが目標」と豪語する。

飛躍の兆しは昨年11月、第3回パリ五輪代表選考会として開かれた全農CUP TOP32船橋大会での準優勝にあった。

そして、今年に入ると5月の全農CUP平塚大会(第4回選考会)で4位、7月の全農CUP東京大会(第5回選考会)で3位と立て続けに上位入り。次々に高得点をマークして、じわじわと順位を上げてきた。

国際大会でも、今年2月のWTTフィーダー デュッセルドルフIIで男子シングルス優勝。

4月のWTTスターコンテンダー バンコクでは2回戦でオフチャロフと対戦し、ゲームオール9本の大接戦で惜敗したものの、東京五輪銅メダリストを崖っぷちに追い詰める高い競争力を見せていた。

その素顔は「いつも自分で考え行動したい」という自立心旺盛な22歳の青年。実際、コーチやトレーナー、練習相手を自分で探し交渉する。そのスタンスは今回のアジア選手権でも吉と出た。

王楚欽から大金星を挙げた大一番。

王が勝負どころでよく使う巻き込みサーブの球質について、すでに団体戦で対戦していた張本智和(智和企画)から球質についてアドバイスをもらった田中は特に第2ゲーム以降、レシーブで苦戦する場面が少なかったが、実はもうひとつ勝利につながる周到な準備があった。

「今回、日本大学の加山裕選手に練習相手をお願いして平昌まで来てもらったんです。彼は左利きで中国ラバーを使っているので、同じく左利きで中国ラバーの王楚欽選手に対し、ものすごくいい準備をして試合に臨めました。また、李龍飛コーチとも相談して試合前にレシーブ練習の時間を多めに取ったことも、第2ゲームという早い段階で、回転を読みにくい王楚欽選手のサーブに対応できた要因だったと思います」

今年4月から師事している李コーチとは、母校の名古屋電気学園(愛知工業大学名電中学校・高等学校、愛知工業大学を含む)ほか張本の指導でも知られる董崎岷コーチ(美崎クラブ)を介して出会った。

「2月に董さんに自分の考えを伝え、『コーチを探しているんです』と相談しました。中国人コーチにこだわったわけじゃないんですけど、僕が知っているのはやはり名古屋電気学園の指導法で、それだけだとどうしても他の選手とプレースタイルが似てきちゃうので、別のチョイスが欲しいなという思いがありました」

大学3年生でドイツ・ブンデスリーガ1部、大学4年生でフランスリーグプロAに参戦。成長の場を海外に求めプレーの幅を広げてきた田中らしい発想である。

かつて中国ナショナルチームの選手で、現在は大阪市内で「Dream卓球クラブ」を主宰する李コーチから学ぶことは多く、「中国の指導法は基本に忠実。自分には基本能力が足りていないと感じていたので、特にフットワークや足の使い方についてアドバイスを受けています」と話す。

得点源のバックハンドも、「まだ不安定なところがあるので、もう少しコースの精度や回転量を上げて磨きをかけたい」と貪欲だ。

アジア選手権では10年ぶり4度目の優勝を果たした馬龍(中国)のレシーブが勉強になったという。

「僕は準々決勝で林昀儒選手にサーブ・レシーブで崩されてしまい、フォア前のサーブに対してネットミスを何度もしてしまった。でも、準決勝で林昀儒選手と対戦した馬龍選手はナックルサーブを1本浮かせてぐらい。それ以外は完璧にレシーブをして、その後の待ちも素晴らしかった」

昨年9月からは香川英信トレーナーについてフィジカルの強化に励み、体のケアにも努める。

「実は8月からずっと痛かった腰も香川さんに体のバランスを戻してもらったおかげで、すごくいい状態になりました」

「本当は選手自身でベストな状態に持っていけるのが理想ですが、自分はまだまだ未熟なところがあるので、香川さんがフィジカルの土台づくりをして下さって、技術面を李コーチと調整していくという流れでやっています。フィジカルトレーナーとコーチがいるのといないのとでは天と地の差です」と2人の強力なサポートに感謝する。

こうしてパリ五輪の代表候補に名を連ねてもなお、田中の所属先探しは続いている。海外遠征費などの活動資金も十分でなく、クラウドファンディングで支援を募る。

可能性を模索し、臆することなく我が道を突き進む。それが田中流だ。

田中佑汰クラウドファンディング 明治安田生命「地元アスリート応援プログラム」

「僕がパリ五輪の代表になるには2位以上でないと可能性がない。そういう気持ちで選考レースが始まった時から戦っているので、2位に入り自力で代表を勝ち取りたいです」

現在、パリ五輪代表選考レースのトップは569.5ポイントの張本、2位は404ポイントの戸上、3位に302ポイントの田中が続き、これを4位の篠塚大登(愛知工業大学)が273ポイントで追う展開。

トップの張本はこのまま抜け出しそうだが、もう1席、シングルス代表の座を確保できる2位争いは戸上、田中、篠塚による三つ巴の様相を呈している。

ポイント対象大会の最後となる年明け1月の全日本選手権まで、デッドヒートが予想される代表争いの終盤戦。厳しさを増す戦いを前に「むしろ、ここからの自分が楽しみ」と言う田中に余計な気負いはない。


(文=高樹ミナ)


※2023年の国際大会(個人種目)中国トップ3選手に勝利 7ゲームマッチ 1勝15点/5ゲームマッチ 1勝10点


■2024年パリ五輪選考ポイント
男子上位10名(2023年9月10日現在)

順位 選手名(合計ポイント)世界ランク
1位 張本智和(569.5)4
2位 戸上隼輔(404)41
3位 田中佑汰(302)60
4位 篠塚大登(273)29
5位 吉山僚一(208)224
6位 曽根翔(207)254
7位 宇田幸矢(183)44
8位 吉村真晴(170)77
9位 及川瑞基(152.5)47
10位 横谷晟 134(-)
※世界ランク updated on 12/9/2023

■2024年パリ五輪 日本代表選考ポイント