日本人唯一のウイルソン・オフィシャル・ストリンガーとしてコロナ禍の「全仏オープン」に参加した細谷氏先日、幕を閉じた全仏オープン2020。ウイルソンにとって、今大会は特別なものだった。というのも公式ボ…

日本人唯一の
ウイルソン・オフィシャル・ストリンガーとして
コロナ禍の「全仏オープン」に参加した細谷氏

先日、幕を閉じた全仏オープン2020。ウイルソンにとって、今大会は特別なものだった。というのも公式ボールサプライヤー、公式ストリングサプライヤーとなったからだ(これでお膝元・USオープンに続いてグランドスラム2大会目となる)。新型コロナウイルスの問題もあり、開催時期が秋に移行となったものの、大会は無事終了。シングルスは男子がラファエル・ナダル(スペイン)、イガ・シフィオンテク(ポーランド)の優勝で幕を閉じた。


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その大会の裏、ウイルソン・ストリンギング・チームの一員として、張り続けていたのが日本人で唯一のウイルソン・オフィシャル・ストリンガーである細谷 理氏(神奈川・茅ヶ崎「On Court(Racquet)」オーナー)。コロナ禍の開催は、率直にどんなものだったのか。


細谷「パリに行ったことはあるのですが、全仏オープンに来たのは初めてでした。だから見るものも新鮮でしたが、何より印象的だったのは雨ですね(笑) 結局、大会期間中、毎日降ってしまいました…。

秋ということもあるし、毎日どんより曇っているから、気温も低い。ご覧になっていてわかるかもしれませんが、選手たちは、寒さ対策に苦労していましたね。

その寒さのせいもあってなのか、テンションは全体的に低めになっていました。1ポンドないし2ポンドは下げている選手が多かったです。日本でもニュースになったようですが、普段テンションを変えないタイプのナダルも、25.0kgから0.5kg(≒1.1ポンド)下げていたくらいですからね。

その件で、ウイルソンのボールが…というのもニュースになりましたが、アレに関してはボールへの慣れがあると思いますよ。寒いから余計重く感じるという不運もありました。皆さん、ご存知の選手は、逆にボールがよく飛ぶと言っていましたし。こればかりは、選手の感じ方なので、難しいところです」






大会を彩ったガストンは
ポリ・ストリングで
ドロップショットを放っていた

今回の全仏は、国内の新型コロナウイルス感染状況により、当初予定していた観客数5,000人が1,000人での開催となった。第2波が到来している中、どんな配慮がなされていたのか。

細谷「もちろん、PCR検査は行っています。最初に受けて、期間中にも受けていました。幸い陽性となることはありませんでした。

ストリンギングに関しては、システムはUSオープンなどと変わりはないですね。ただ、ウイルス対策として受付にはパーテーションが設けられていて、受け渡しはケースに入れて行なっています。すでにビニール袋は撤廃されていますが、選手に戻す際は、対策の一環としてグリップに袋をかぶせて選手に渡していました。

ローラン・ギャロスならではと感じたのは、長い試合が多いので、先を見越してオンコート・ストリンギング(試合中にストリンギングを依頼すること)を依頼する選手が多かったことです。

(ヒューゴ・)ガストン(フランス)なんかは、2セット終了時に3本出してきたり。フルセットのための準備をしていたんでしょうね。ちなみに彼が使用していたのは、ルキシロンの『オリジナル1.30mm』でした。テンションは46、47ポンドあたり。ドロップショットで話題になりましたが、あれだけのタッチをポリ・ストリングで出すのですから、すごいですよね(笑)」





正に、ガストンのドロップショットは、今大会のトピックの一つ。それが、ルキシロンのポリの中でも硬めである「オリジナル」を張っていたとは驚きだ。さて、全体的にテンションが緩めだったという今大会、その他、何か特徴はあったのか?

細谷「依然として、ルキシロン『アルパワー』の使用者が本当に多いですね。最も多いのはノーマルの『アルパワー』。多くは言えませんが、『アルパワー』は合わせやすいので、他社のラケットでも張っている選手は多いです。

次いで『4G』に関しては使用者が増えましたね。『エレメント』の使用者は錦織選手くらいでした。柔らかいので、プロにとっては制御しにくいのかもしれませんね。ゲージに関しては、圧倒的に1.25mmです。細くても1.20mmで、ナダル(1.35mm)のような1.30mmオーバーは、ほぼいませんでした。

また、ポリに関しては2本張りの選手が多いです。2本張りの場合、打球感が柔らかくなるというメリットがあります。一般プレーヤーなら、テンションロスが低い1本張りが主流ですが、プロの場合は、テンションが落ち始めたあたりで新しいラケットに変えられるので」




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グランドスラム復帰を果たした
錦織圭選手、そのストリンギングから
細谷氏が見たものとは…

1種類ならば1本張りという一般プレーヤーの常識を破る2本張り。プロならではの張り方である。さて、今大会というと、2019年のUSオープン以来となるグランドスラム出場を果たした錦織選手がいる。2回戦S.トラバグリア(イタリア)に敗戦となったが、そのショットは決して悪いものではなかった。サポートする立場として、細谷氏はどう見ていたのだろうか?

細谷「僕自身が感じていたのは、錦織選手は、そんなに調子が悪くないということ。少なくともメンタルの部分は大丈夫だと思っていました。しかし、体、特にフットワークがまだ100%ではないんだと思います。
ストリングに関しても、迷いは感じられませんでした。迷いがある時は、様々なテンションを用意していたのですが、今回は、そういったことがなかったのです。

大会中、錦織選手のラケットは、マックス・ミルニーコーチが(ストリンギング・ルームに)持ってきていました。それでオーダーを受けるのですが、細かいところは『本人(錦織選手)とSNSで相談してほしい』と。そういう感じで、張っていました。2回戦で敗れてしまったのは、流れが掴めなかったこともありますよね。

本人も言っていましたが、まだ試合数が少ないんだと思います。ちなみに張っていたのは、変わらずメインにウイルソン『ナチュラル1.30 mm』、クロスにルキシロン『エレメント1.25mm』です。とにかく、これからですよね。楽しみです」






新ラケットで出場のセリーナは
なんと通常時より「約20ポンド」も
テンションを下げていた

<今までの中では一番いい試合で、感覚としては良かった>と敗戦後に語っていた錦織選手。ストリング面でも、そういった復調ぶりは伺えたようだ。その他、ウイルソン契約選手については、どうだっただろうか?

細谷「衝撃的だったのはセリーナ(・ウイリアムズ)ですね。先日発表となった『ブレードSW102オートグラフ』を使用していましたが、なんとテンションが20ポンドくらい下げてきたんです。

2回戦を前に棄権(左足アキレス腱の故障のため)となってしまいましたが、『ブレードSW104オートグラフ』の時は67くらいだったのですが。寒さは一つ考えられますが、その場合は、下げても数ポンドというのが多いですからね。ケガの影響だったかもしれませんが、20ポンドを一気に下げてきたというのは驚きました。




それとストリンギングとは異なりますが、(ステファノス・)チチパス(ギリシャ)はかなり安定してきているなというのは現地で感じました。それだけでなく若手の選手の成長し、安定感を示してきた大会だったなと感じています。

ウイルソンとは外れてしまうのですが、ヤニック・シナー(イタリア)に驚きましたね。ストリングの頼み方にしてもそうですが、振る舞いに本物感があります。それと腕が長くて、チチパスのように軸が本当にブレない。メンタルも安定していますよね。近い将来、必ずトップに来ると思いますよ」


新型コロナウイルスの影響もあって、従来通りにはいかなかった全仏オープン。そこで見られたストリンギングの流れは、今後どうなるのか? 2021年、細谷氏は3月のマイアミオープン、5月の全仏オープン、9月のUSオープンと3大会でオフィシャル・ストリンギングを行う予定。そこで見ることができる変化にも、また注目してみたい。



細谷 理(SPIKEY)
テニスショップ「On Court(Racquet)」オーナー。2001年、雑誌『テニスクラシック』に掲載されていた当時ツアー・ストリンガーの先駆者JAY SCHWAID氏の記事を読み、ツアー・ストリンガーを目指す。その後、USオープンやマイアミ大会、アジアの主な大会などにオフィシャル・ストリンガーとして参加。2006年からウイルソン・オフィシャル・ストリンガーとして活動。またNYに所在地を置く、RPNY TENNIS(シャラポワやロディックなどのプライベートストリンガー)のストリンガーとして、チャイナ・オープンにも参加。錦織圭、添田豪など日本選手の信頼も厚い。
ショップURL:https://oncourtracquet.com/

次回(2020/10/21更新)は「ウイルソンの特許技術<Sラケ>ラインナップ」 乞うご期待!!



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