フィギュアスケーター小松原美里選手(31)からの質問にドキリとした。 「卵子凍結について(妻と)しゃべったことはありますか?」 7月上旬、小松原選手が卵子凍結に向けて病院で受診するところを同行取材した際のことだ。 「いや、ないですね……」…
フィギュアスケーター小松原美里選手(31)からの質問にドキリとした。
「卵子凍結について(妻と)しゃべったことはありますか?」
7月上旬、小松原選手が卵子凍結に向けて病院で受診するところを同行取材した際のことだ。
「いや、ないですね……」
言葉に詰まったのは、卵子凍結の話を妻としたことがなかったという理由だけではない。仕事と妊娠・出産の両立について、妻の考えをどこまで聞けていただろうかと自問したからだ。
小松原選手が卵子凍結に興味を持っていると知ったのは昨年だった。アイスダンスで同年の北京五輪に出場して団体銅メダルを獲得。2026年の五輪を次の目標にする中で、人生設計をどうするか悩んでいた。
現時点で出産や子育てをしたいとはっきり希望しているわけではない。ただ、競技を続けることによって、その可能性を失いたくはない。卵子凍結が必ずしも妊娠を保証しないと理解した上で、一つの選択肢を残したいというものだった。
小松原選手の希望もあり、同じような悩みを抱えて卵子を凍結したスノーボードの竹内智香選手(39)とオンラインで対談してもらう機会を5月に設けた。その対談に臨む姿勢には驚かされた。
「経験者に聞くことができてすごくうれしいです。聞きたいことが七つほどありまして……」
紙に記した質問を次々に投げかけ、竹内選手の答えを熱心に書き留めていた。
「フィギュアスケートって10代の子が多いんです。私の年齢で現役を続けている選手がほとんどいない。(卵子凍結の)情報が全くないんです」
大半の選手が20代前半までにキャリアを終え、結婚や子育てを考えている現状と、悩みを共有できない不安を明かした。
話を聞いて、自分の仕事ぶりを顧みた。
10代の女子選手の活躍を大きく取り上げる一方、早くしてキャリアを終える選手がどんな思いを抱えているのか、しっかりと取材したことはなかった。
冒頭でも書いたように、日頃から女性ならではの悩みと十分に向き合えていなかったからかもしれない。選手と女性としての人生選択に迷いながら、引退を決めた選手もこれまで多くいたはずだ。
アスリートである前に、ひとりの人間。その心にもっと寄り添える記者になりたいと思った。(岩佐友)