7月15日、『いつも、気づけば神宮に 東京ヤクルトスワローズ「9つの系譜」』(集英社刊)の出版記念トークイベントが東京・新宿の「週プレ酒場」で開催された。著者の長谷川晶一氏が進行役をつとめ、ゲストに”ヤクルト一筋47年&#…

 7月15日、『いつも、気づけば神宮に 東京ヤクルトスワローズ「9つの系譜」』(集英社刊)の出版記念トークイベントが東京・新宿の「週プレ酒場」で開催された。著者の長谷川晶一氏が進行役をつとめ、ゲストに”ヤクルト一筋47年”の八重樫幸雄氏を迎えた。偉大なる”燕”OBは、選手時代、指導者時代、スカウト時代にまつわる数々のエピソードを披露。

 そしてファンとの交流を終えた八重樫氏に、あらためて今シーズンのヤクルトについて聞くと、開口一番「僕も昨年までスカウトとして編成に関わっていましたので……責任を感じています」と言うのだった。



独特の打撃フォームを披露しながら、古巣ヤクルトを熱く語る八重樫幸雄氏

── 今季、ヤクルトはDeNAとの開幕3連戦を2勝1敗と勝ち越し。その後、勝ち星は先行しないものの、懸案だった投手陣は安定。先発のクオリティ・スタート(QS)がリーグ1位の時期もありました。しかし、シーズンが進むにつれて10連敗以上の”大型連敗”を2度経験するなど、現在、断トツの最下位。正直、ここまで厳しい戦いになるとは思っていませんでした。どこに原因があると思われますか。

「まず故障者が多いことは当然ですが、やはり山田哲人の不調じゃないですか。ヤクルトはどちらかといえば打線が投手陣をカバーするチームです。今年はそれができなくなっている。川端慎吾、畠山和洋がケガで長期離脱し、一時はバレンティンや雄平も登録抹消されました。そこに山田の不調……。投手たちが、昨年までは『同点になっても(打線が)なんとかしてくれるだろう』とある程度、余裕を持って投げられていたのに、今季は『ここは絶対に抑えなければ』となっているのではないでしょうか。それで余計な力が入り、ボールが甘くなり、カウントも悪くなってしまう。まさに悪循環ですよね」

── 山田選手の不調の原因は、どこにあると思われますか。

「昨シーズン終盤に受けた(背中への)死球の影響はあるでしょうね。山田のいいところは、ボールに対して迷わずに向かっていくところでした。そこに強いリストがあって、ホームランが打てた。相手バッテリーとしては、山田に2年連続でトリプルスリーを達成されて、それを恥と感じていますから、攻め方もきつくなってくる。その厳しいボールに、山田の体が反応しているのがわかります。思い切って、真ん中から外のボールを捨て、内角だけを狙ってみてはどうか。今の状況を打破するのは”気持ち”しかないと思います」

── 今季は多くの主力選手が欠けることで、若手にレギュラー奪取のチャンスが訪れています。谷内亮太、西浦直亨、藤井亮太、奥村展征、山崎晃大朗、廣岡大志……。彼らがチームを活性化してくれれば、勝ちも増えていくと期待を寄せましたが。

「僕としては、特にチャンスを与えられた若手野手の使い方が不満なんです。何試合か使って、成績を残せないとすぐ二軍に落としてしまう。一軍での自信がつかないうちに二軍に戻ると、気持ちの面でなかなか這い上がれないんですよ。あの広岡達朗(1976~79年までヤクルトの監督)さんでも、若手を一軍に上げたら2カ月は試合に使っていました。そのなかで結果を残せなかったら、また二軍で鍛え上げる。今は中心選手をケガで欠き、チームの成績もこういう状況なので、なおさら我慢して使ってほしいところなんですが……」

 八重樫氏はそう話すと、「ただ、長いスパンで使ってもらって結果を出せないのは、本人たちの責任です」と言った。

「結局、二軍に落とされるのは、打つこと、守ること、走ることで印象を残せなかったということ。打席でもあっさり見逃し三振とかが多い。思い切り振って三振するのは構わないんですよ。そうすることで『ここから曲がってくるのはボールなんだ』といったように、いろんなことがわかってくる。バッテリーというのは、打者に粘られるのは嫌ですよ。僕も現役時代に代打で全盛期の津田恒美(元広島/故人)を相手に、20球以上ですかね、粘っているうちにタイミングが合って、センター前にヒットを打ったことがありました」

── 若い選手たちを叱咤激励するとしたら、どんな言葉をかけますか。

「野球を始めた頃の新鮮な気持ちで、基本に戻ってみたらどうかと。今は細かいデータが出すぎているんですよ。『次はこのボールがくる。いや、この球種だ』とか考えているから、打席でバットが出ないんです。結局、バッターというのは調子が悪いときは悩むので、そこにデータを詰め込んでもダメなんです。大胆だけど、1週間はデータを無視して、打者の意識を解放させてあげたらどうでしょうか。たとえば、この打席では真っすぐだけに狙いを絞って1球で仕留めるとか。

 交流戦が導入されたとき、パ・リーグの投手のことはほとんど白紙に近い状態だったんですよ。一応、ビデオは見るけど『このカウントではこの球種だ』といったデータはありませんでした。それで、パ・リーグの投手は真っすぐをどんどん投げてくるので、外国人選手が強くてね。ラミレス(現・DeNA監督)なんかは交流戦で成績を上げていました。一度、そういうところに戻ってみればいいと思いますね」

── 正直なところ、明るい兆しが見えないなかで、シーズンは後半戦に突入しました。

「ここから借金を返していくには、ほとんど全勝でいかないといけない。大変ですよ。打線に関しては、それこそ1試合ごとでオーダーが違う印象なので、ある程度、固定して戦ってほしいですね。それで機能しなければ変えればいい。特に、下位の打者を次の試合では1番や2番に置いたりするでしょ。下位から上位に上げられると、すごく負担がかかるんですよ。選手たちも落ち着かないでしょうし」

── ここ数年、強力だった打線もチーム打率はここまでリーグワーストと低迷しています。ただ、椎間板ヘルニアで開幕から登録を抹消されていた川端選手が、二軍の試合とはいえ復帰を果たしました。

「完全に治って戻ってくるのか。問題はそこですよね。一軍と二軍では、気持ちの入り方が違ってきます。そういうことも考えると、二軍で長いイニングを何試合か出場して、『もうフルイニング大丈夫だ』という状態になっているのかどうか。最近は、一軍のレギュラーがケガをして、調整のために二軍の試合に出場しても1試合か2試合程度で一軍に上げることが多く、それがケガの再発につながっていると感じている部分もありました」

── 投手陣を見ると、シーズン途中で抑えを任された小川泰弘選手が先発に戻ることになりました。

「先発で長いイニングを投げて、最少失点でしのいでいく。小川の持ち味はそこにあります。先発を任せることが、彼のためにもチームのためにも、いいことだと思います。投手陣は……ここ数年のドラフトで即戦力候補として獲得した投手をどんどん使ってみればいいんじゃないですか。使ってみて、結果が出なかったら終わりです。それだけの責任を持たせてやらなきゃ。そこでチャンスを掴むかもしれないんだから」

── 残りのシーズン、選手たちにはどんな戦いを見せてほしいと思いますか。

「若い選手たちにとっては、今がいちばんのチャンスです。若手の成長は、来年、再来年へとつながっていきます。本当に必死になって『ポジションを獲ってやる!』という気持ちがほしい。凡打になったとしても、一生懸命プレーすれば、監督やコーチ、そしてファンにも伝わっていきますので……」


ポスターには

「NO OPEN, NO LIFE」。オープンスタンスじゃなければ、人生じゃない!

 オールスターが終わり、プロ野球は後半戦がスタートしたが、ヤクルトはいまだ長いトンネルから抜け出すことができず、7月21日の阪神戦にも敗れて14連敗となった。一体、どこまで過酷な戦いは続くのか、そして八重樫氏の熱い想いはスワローズナインに届くのだろうか……。

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