熱戦が続くラグビーワールドカップ(W杯)フランス大会。選手の口元を見ると、チリ戦で2トライを決めたFWアマト・ファカタバ選手やFW稲垣啓太選手も、前歯を白い「マウスガード」で覆っている。ほかのスポーツでも見かけるこのマウスガード、どのよう…

 熱戦が続くラグビーワールドカップ(W杯)フランス大会。選手の口元を見ると、チリ戦で2トライを決めたFWアマト・ファカタバ選手やFW稲垣啓太選手も、前歯を白い「マウスガード」で覆っている。ほかのスポーツでも見かけるこのマウスガード、どのような効果があるのだろうか。

 マウスガードとは、ビニール系の材料を使って上の歯を覆うことで、接触が多いスポーツの選手の歯を衝撃から守るもの。

 ラグビーのタックルは、軽トラックにぶつかるのと同じぐらいの衝撃とも言われる。成人が強く歯をかみしめると自分の体重ほどの力がかかる。100キロを超えるラグビー選手だと、100キロ以上の力がかかることもあるという。

 普及を進める歯科医の宇津宮幸正さんは、上と下の歯が強く接触しないようにすることで、衝撃を受けたときの歯の破損や脱臼、あごの骨折の危険性を低減することができる、と話す。接触のある競技では「絶対につけた方がいい」と強調する。

 2019年ラグビーW杯日本大会では、福岡堅樹選手のマウスガードを歯科医である福岡選手の父親が作っていたことが話題になった。

 最近では、大相撲や柔道、サッカー、野球でも使う選手が増え、バスケットボールでも、日本代表がパリ五輪出場を決めたW杯で選手が装着していた姿は記憶に新しい。

 ただ、ラグビー界でもかつてはつけている選手は少なかった。ラグビー協会歯科委員会の1989年の調査では、高校ラグビーで各都道府県のベスト4かそれに準ずる113校の部員5964人のうち、使用していたのは13・4%。高校生で装着が義務化されたのは2006年のことだ。

 宇津宮さんは「日本の認識は海外に後れをとっていた」と話す。

 歯に健康保険医療が適用されない国では、歯に関する意識が高い。一方、日本は保険で治せる。そうした環境も認識が低かった要因の一つだと分析する。

 ニュージーランドでは、1998年からプロを含めたすべてのラグビー選手に使用を義務づけている。この結果、約20年間でラグビー選手の傷害保険請求数が43%減ったという論文もある。

 W杯フランス大会の日本代表選手の多くは、別の歯科医と協力したNeutral社製のマウスガードを使っている。(江戸川夏樹)