元日本代表FWでフランスでのプレー経験がある日野剛志選手(静岡ブルーレヴズ)が、当地のラグビー事情や日本代表の選手について語ります。■フランスの生活に浸透するラグビー ワールドカップの夜のメインゲームはフランス時間の午後9時キックオフです。…

元日本代表FWでフランスでのプレー経験がある日野剛志選手(静岡ブルーレヴズ)が、当地のラグビー事情や日本代表の選手について語ります。

■フランスの生活に浸透するラグビー

 ワールドカップの夜のメインゲームはフランス時間の午後9時キックオフです。日本のラグビー観戦に慣れた方からすれば、遅いと感じるかもしれません。

 フランスの文化として、夕食を午後8時ごろに食べ始める人が多く、ラグビーの国内リーグ「トップ14」の試合開始も午後9時や7時。ファンは食事を取りながらテレビ観戦したり、スタジアムに出かけて声援を送ったり。試合が終わっても、翌日午前2時ごろまで酒を飲みながら盛り上がる光景が日常です。

 フランスの方々はアフターファイブに自分の好きなことをする時間を本当に大切にします。夜の楽しみ方の一つとして、ラグビーが広く浸透していると感じます。

■トゥールーズの仲間の活躍

 自国開催のフランスは1次リーグ2連勝としました。スタッド・トゥールーザンで共に戦った選手も活躍しています。なかでも、思い入れがあるのはFBトマ・ラモス選手です。開幕戦ではPGを5本決めて勝利に貢献しました。

 私が4年前に所属していたのは、日本でのW杯開催時期。ラモス選手は大会直前にフランス代表のメンバーから漏れ、トゥールーズに戻ってチームに合流しました。

 特別に体が大きいわけでも、めちゃくちゃ足が速いわけでもない。けれど本当に技術が高く、パス、キャッチ、キック、ラン、全てにおいてスマートな選手です。彼がいるといないとでは、チームの攻撃の質がまるで違いました。「これでフランス代表に入れないのか……」と驚いたのを覚えています。

 当時は相当な悔しさがあったはずです。でも彼は感情を表にすることなく、チームに戻ってからも高いパフォーマンスを出し続けていました。大人の選手というか、調子の波がない選手だなと。

 ラグビー選手にとってそれはすごく大事なことです。前回大会のことを知っているので、彼がW杯の舞台に立つ姿を見ると本当にうれしい。フランスがこの先、頂点を狙うには、彼のような選手が重要になってきます。ぜひ、注目してください。

■日本がイングランドに勝つためには

 日本はチリとの初戦を制し、いよいよ大一番のイングランド戦を迎えます。昨秋に聖地・トゥイッケナムで対戦した遠征には私も参加していたので、その強さを間近で感じました。

 強くて大きなFWを武器に、キックを中心に攻めてくるスタイルは基本的に変わりません。横綱相撲です。言い方は悪いですけど、相手をいじめぬくというか、自分たちの形でとことんたたきつぶしに来るチームです。

 ポイントは先発するフッカーの堀江翔太選手だと思います。日本はラインアウト、スクラム、モールで後手に回らないことが勝利への前提条件。本来は後半に登場する経験豊富な堀江選手を先発させたのは、そのためです。まずは互角のFW戦を展開したい。

 互いにトライを取り合うような流れでは、日本は苦しくなる。堅い試合運びで、松田力也選手のPGで先行するのが理想。でも、キックだけでは接戦はできても上回ることは難しい。

 私が期待を寄せるのは、CTB長田智希選手です。今、日本の中で一番ラインブレークできるにおいがします。ディラン・ライリー選手がリザーブに控えていますし、何もプレッシャーを感じず、思い切って自分のプレーができる状態で試合に臨めるはずです。

 世界の舞台で強敵を倒す時というのは、自分たちの予想像を超えるプレーをしてくれる選手が出てくるもの。サッカーW杯や野球のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)でもそうでしたよね。いわゆる「ヒーロー」の出現が、ラグビーの母国から初勝利をもぎとるためには欠かせません。(構成・松本龍三郎)