ラグビーワールドカップバトンを継ぐ者たちへ~日本代表OBインタビュー第3回・真壁伸弥 前編ラグビーワールドカップ2015、スコットランド戦で奮闘する真壁伸弥 4年に一度の楕円球の祭典にして、王者を決める頂上決戦。今回で節目の10大会目となる…

ラグビーワールドカップ
バトンを継ぐ者たちへ~日本代表OBインタビュー
第3回・真壁伸弥 前編



ラグビーワールドカップ2015、スコットランド戦で奮闘する真壁伸弥

 4年に一度の楕円球の祭典にして、王者を決める頂上決戦。今回で節目の10大会目となるラグビーワールドカップ2023フランス大会が9月8日(現地時間)に待ちに待った開幕を迎え、日本代表は初戦のチリ戦(日本42-12チリ)を白星で飾った。

 10大会連続10回目出場の日本代表は、2015年大会でプール戦3勝1敗(8強には届かず)、そして前回、2019年の日本大会では4戦全勝でプール戦をトップ通過、初の決勝トーナメント進出を果たし(その後は準々決勝で敗退)、2大会連続で新たな歴史を築き上げた。

 今回はその歴史的な2015年大会に出場し、初戦で世界の最強国の一角である南アフリカに対してスポーツ史上でも屈指のアップセットを起こしたひとり、元日本代表LO(ロック)真壁伸弥さんにインタビュー。当時のチームと劇的勝利の裏側、そして現在の日本代表への思い、ワールドカップという大会について、自身の経験から率直に語っていただいた。

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──真壁さんが出場された2015年のワールドカップの初戦、日本代表はフィジカルの強い南アフリカに真っ向から勝負して勝利を収めた歴史的な試合となりました(南アフリカ32-34日本)。

「いまだにあの試合がすごかったと思えるところは、ペナルティが少なかったことですね(日本8回。南アフリカ12回)。2019年大会のアイルランド戦もペナルティはあったにしても修正できていましたので、勝利につながりました(日本19-12アイルランド)。勝つ試合ってそういうものなんですよね。

 今の代表もペナルティが多発していましたが、規律は意識で変えられるはずです。その意図、目的を持って取り組めばチームはすぐに変わります」

──2015年大会の直前にジョージアと対戦しましたが、そこで日本代表が勝った(13-10)ことが南アフリカ戦の勝利につながったと言われています。

「あの試合で特に感触をつかんだのはFW(フォワード)ですね。その前の年、2014年の11月のジョージア(当時グルジア)戦で、スクラムで土の中に足が埋もれるぐらい押されてしまいました。それだけ大きな差があったのですが、それでも4年間かけてスクラムを日本の武器にしよう、というテーマを掲げていました。

 それ以前は"スクラムで真っ向勝負を避ける"という考え方から"スクラムで(相手から逃げることなく)立ち向かって、どう勝つか"という考え方にメンタルチェンジをさせるために、エディーさん(エディー・ジョーンズHC。現オーストラリアHC)は意図的にジョージアのようなスクラムが強いチームと試合を組んでいたんです。

 2015年大会の直前にジョージアから勝利を収めた結果、世界と勝負できると感じられたことが自信につながりました。ですから今回の大会直前に行なわれるイタリア戦も非常に重要でした(イタリア42-21日本)。日本代表は何をやってきたのか、それを活かしてどう結果を出すのか。そういったことを試合で出すのが僕は大事だと思っています」

──南アフリカ戦の勝因として、ペナルティが少なかったこと以外にも挙げられることはありますか?

「相手が自信にあふれたプレーをしてこなかったのも大きかったですね。その要因は前半、日本が相手にかなりのプレッシャーをかけたことです。向こうは日本代表SO(スタンドオフ)の(小野)晃征を狙ってアタックしてきましたが、晃征はタックルで相手をしっかり止めていました。彼だけではなくCTB(センター)立川理道も、LO(ロック)トンプソン ルークもみんな体を張っていました。それが勝利につながったのだと思います。

 特にフィジカルの強い南アフリカとの試合は球技というよりも、格闘技の領域にあり、もはや恐怖を感じるレベルです。あのステージでずっとやってきた選手でないと急には戦えません。キャップ数の少ない選手が果たして彼らのような相手と戦えるか、というと、やはり厳しいと思います」

──そんな南アフリカを相手に真壁さんは後半13分から最後まで出場しますが、それまではどのような思いでベンチから試合を見ていたのでしょうか?

「基本的には"スクラムとモールでどう対抗するか"ということを考えていました。後半になると南アフリカはなおさらスクラムとモールでゴリ押ししてくるので、日本代表はそれに耐えられるメンバーを用意しておいて後半から投入する必要がありました。与えられたミッションが遂行できてよかったと思いましたね」

──逆転決勝トライの起点になった後半42分過ぎの最後のスクラムに代表されるように、4年かけて鍛え上げられたスクラムは常に安定していました。

「やはり最後のスクラムが注目されがちですが、その少し前の後半35分、自陣ハーフウェイライン付近の相手ボールのスクラムでめちゃめちゃしっかり押すことができて、FWの気持ちが一気に高まりました。そこで押せたからこそ最後のゴール前(での相手ペナルティ)でどう(プレー選択)するか、となった時にFW全員が『スクラムでいける!』という感覚になったんです。

 あの場所(敵陣ゴール前)では(相手のシンビンもあり)人数的にも、そしてそれまでの練習を考えても、スクラムを選択するのみでした。"ここで勝負だ、俺たちはやるぞ"という思いでしたね。もちろんFWだけではなくその前にBK、特にCTB立川がボールを大きく前に運んでくれたのも大きかったです」

──それが最後のアタックにつながり、WTB(ウイング)カーン・ヘスケス選手が逆転トライを決めます。

「あの場面で本当にすごかったのはキャプテンのFL(フランカー)リーチ マイケルですね。最後のアタックだけで3回ボールタッチして、3回ともインゴールに迫っていました。キックオフからずっと走ってきて、何度もスクラムを組んで、最後にあの脚力が出せたというのは何よりもすごいことです」

──選手たちは喜びを爆発させていました。ただ、映像では歓喜の輪の周辺では真壁さんの姿を確認することはできませんでした。

「ああ、勝ったんだなあ、とその場で思いながら10秒ぐらい経ってから『出遅れた!』と我に返ったのを覚えています(笑)」

後編に続く>>元ラグビー日本代表・真壁伸弥が唱えるイングランド戦勝利のカギ 相手の長所と「真っ向勝負」

【profile】
真壁 伸弥(まかべ・しんや)
1987年3月26日生まれ、宮城県仙台市出身。現役時代のポジションはLO。仙台工業高校でラグビーを始め、恵まれたサイズを活かして高2でU17東北代表に選出。その後U19日本代表にも選ばれキャプテンも務めた。中央大学でも活躍しサントリー(現、東京サンゴリアス)に加入すると、主力として、またキャプテンとしてチームを牽引。トップリーグ4回、日本選手権5回の優勝に貢献した。2009年に日本代表デビューし、2015年のラグビーワールドカップに出場。南アフリカ戦を含む3勝の立役者のひとりに。スーパーラグビーのサンウルブズでもタフな働きを見せた。2019年11月、現役引退を表明。日本代表37キャップ。現在はサントリーの社員、東京サンゴリアスのパートナーシップ、解説者、ウイスキープロフェッショナルなど様々な立場で活躍中。