「走り勝つ」  それは今シーズン前半戦、J1首位に立ったセレッソ大阪の変革を説明する手がかりだろう。走行距離は確実に増え、平均数値はリーグ上位。直近2試合は後半の逆転勝利で、粘り強さも出てきている。第18節、柏に逆転勝利を収めたセレッソ…

「走り勝つ」
 
 それは今シーズン前半戦、J1首位に立ったセレッソ大阪の変革を説明する手がかりだろう。走行距離は確実に増え、平均数値はリーグ上位。直近2試合は後半の逆転勝利で、粘り強さも出てきている。



第18節、柏に逆転勝利を収めたセレッソ大阪の水沼宏太と山口蛍(左)

 では、セレッソは単純な「走るトレーニング」によって、走り勝つことができているのか?

 今シーズンからセレッソを率いることになったユン・ジョンファン監督は、「走力」をひとつの代名詞にしてきた。
 
 2011~14年、ユン監督はサガン鳥栖を率いていた。選手が恐れるほどの練習量によってJ1に昇格させ、2014年はJ1首位に立つまで押し上げている(ただしシーズン半ばに事実上の解任)。試合前日の紅白戦や3部練習などの不条理を選手与え、チームを戦う集団に鍛え上げ、「朝日山の走り込み」は伝説となっている。

 しかし、セレッソで起こしている「革命」はそれとは大いに趣(おもむき)が異なる。

「鳥栖のときに比べたら、(体力的には)楽ですね。ユンさんがフィジカルトレーナーを信頼して任せているのはあるんでしょうけど。むしろFC東京での最後のほうが、きつい練習をしていたかもしれません」

 そう語ったのは、鳥栖でユン監督のサッカーの申し子としてプレーし、今シーズン、FC東京から移籍してきたMF水沼宏太だ。

「ユンさんは『反復が大事』って言います。『繰り返し、繰り返しやることで身につく。つまらない、飽きた、と思うかもしれないが、ひとつひとつ集中してやることで、試合の中で必ずその場面が出てくる』と。例えば、毎回のトレーニングでパス練習は30分間、みっちりやります。マーカーを置いて、当てて落として。その後に2人組でパス練習するんですが、ライナー、浮かし、巻き、とパスの種類を変え、少しずつ距離を離し、最後は両タッチラインから蹴る感じで。反復する中で、こいつはちゃんと蹴れる、いい回転がかかって止めやすい、とか、ディテールが出てきます。それを感じるのが大事なんだと思います」

 反復の中にある規律によって、選手の意識を高める。細部が大事だと気づかせる。日々の練習精度を上げ、試合での戦う力に変換する。このサイクルこそ、ユンイズムの基礎と言えるかもしれない。

「走ろうと思えば、走れるんですよ。みんなプロになっている選手ですから。気持ちの問題は大きいですね」

 水沼はそう明かすが、変革の種明かしは意外と言えば意外だろう。

 セレッソのクラブの色としてあった「ひ弱さ」は忽然と消えた。選手がうまさに依存しなくなりつつあるからか。さらに勝利が先行するようになってから、選手は自分たちの戦い方に確信を持てるようになった。関西の選手たちは”お調子者”の気もあるだけに、「これでやれる」という勢いを得ると強い。

 ユン監督は選手マネジメントの熱やタイミングも秀逸だ。基本に忠実に練習を行なっているだけではない。選手の状態や力量や立場に応じ、言葉のチョイスも巧みである。

「相手が怖いの? びびってんの?」

 例えばハーフタイムにそうやってけしかけることで、奮起を促すこともあるという。選手としても、チームとしても、「そこまで言うならやったるで」という気運が生まれる。韓国人指揮官は、そんな流れに持っていくのに熟練している。言葉だけなら真似できるのかもしれないが、そこには戦う集団を作り上げる熱がある。

「セレッソは、仲間を思う気持ちが強い選手が多いチームですよ。仲間がやられたら、絶対に許さないって。チームの中心になる(杉本)健勇や(山口)蛍なんかがそうですからね。そういう気持ちって、際どい勝負では重要になると思うんです」

 そう水沼は語る。戦闘集団になるベースはあったのだろう。

 セレッソは一昨シーズン、昨シーズンとJ2での戦いを余儀なくされ、どうにか昇格プレーオフを戦いきって、勝ち上がってきた。そのメンバーが中心だけに、必然的に連帯感も強い。そこに今シーズンは水沼、マテイ・ヨニッチ、清武弘嗣という実力者が加わった。

<9位以内>

 それはセレッソがクラブとして掲げた開幕前の目標で、今もあえて目標設定は変えず、大風呂敷は広げていない。優勝やアジアチャンピオンズリーグという欲が出てきたら、それに引っ張られるからだろう。簡単に自分を失う可能性もある。

「1試合、1試合の準備をし、戦う」

 ユン監督は、むしろぶっきらぼうに語っている。反復のルーティーン。その精度にユンイズムの真実はある。