卓球Tリーグ・日本ペイントマレッツの芝田沙季(ミキハウス)が8月31日、出身地の千葉県旭市でこども卓球台の寄贈と卓球教室を開いた。「ここ旭市で卓球を始めて、今、選手としてプレーしています。今日は思い出に残る一日になったらなと思います」「はー…

卓球Tリーグ・日本ペイントマレッツの芝田沙季(ミキハウス)が8月31日、出身地の千葉県旭市でこども卓球台の寄贈と卓球教室を開いた。

「ここ旭市で卓球を始めて、今、選手としてプレーしています。今日は思い出に残る一日になったらなと思います」

「はーい!」

イベントに集まった保育園児、中学生、一般の愛好家ら202人に芝田が挨拶をすると、すかさず子どもたちの元気な声が返って来る。すると緊張気味だった芝田の表情と会場の空気は一気に和んだ。

昨季のノジマTリーグレギュラーシーズンでMVPに輝いた芝田。

その賞金100万円の一部を卓球の普及に生かせないかと考えた彼女は、まず7月にミキハウス本社と卓球チームが本拠地を構える大阪府八尾市のハッピーチルドレン保育園に、角を丸く仕上げた子ども向けの卓球台を寄贈した。

そして夏休み最後のこの日、故郷の旭市総合体育館にもう1台、同じタイプの卓球台を贈った。

「昨シーズン後半戦、自分がなかなか勝てなくて、それがチームの勝敗にも繋がってしまうことが多かった。納得のいくMVPとは言えなかったので、いただいた賞金も活用の仕方があるんじゃないかと考えました。その時、日本ペイントマレッツがこども卓球台の寄贈をしていたので少しでも協力できればと思いました」

主将として戦った昨シーズン、芝田はシングルス13勝7敗、ダブルス7勝3敗の成績を挙げチームをけん引した。

芝田沙季 写真:T.LEAGUE/アフロ

ところがプレーオフ進出をかけた最終戦で日本生命レッドエルフに惜敗。勝ち点と勝利数は同じだったものの得失マッチ数わずか1で日本ペイントマレッツは初のプレーオフ進出を逃した。

「本当にすごく悔しい思いをした」と芝田。今でも当時の屈辱がよみがえる。

自身は8月25日に26歳の誕生日を迎えた。

卓球は必ずしも年齢で実力を測れない競技。選手としてのピークも人ぞれぞれだが、中堅からベテランの域に入りつつある昨今、「あと何年、選手として成長できるだろう」という思いが時折、芝田の頭にもよぎる。

だが、もともと根気強い性格で黙々と練習するタイプ。向上心を失わず、競技経験豊富な男子のベテラン選手から技術や戦術の手ほどきを受けるなどして成長を続ける。

そんな練習の虫は今回のイベントで約2時間半、参加者とラリーや3ポイント制のゲームで交流を楽しんだ後、すぐさま東京へ向かい夕方から都内で個人練習に励んだ。

聞けば、実家に戻ったのも実に7年ぶりというが滞在はわずか1晩だけ。束の間の家族だんらんは日頃の感謝を込めて芝田が用意した和牛で焼肉を楽しんだ。

「実家の雰囲気とか田舎の風景とか、やっぱり落ち着きますね」と相好を崩す芝田。
 
旭市にいたのは小学5年生まで。6年生からは千葉市内にある卓球の強豪クラブに在籍するため親元を離れ下宿生活を送った。

以来、今もなお大阪のミキハウスで寮生活を送るが、かつて通った地元の保育園や小学校、6歳で卓球を始めた市内の卓球クラブの思い出が色褪せることはない。

「卓球を教えてもらった先生とか保育園の先生がイベントに来て下さって、懐かしい気持ちと嬉しい気持ちでいっぱい。ちょっと成長した姿を見せられたかな」と照れ笑いする。

そして、イベントで触れ合った子どもたちが自分のように「卓球、楽しいな。続けたいなと思ってくれたらすごく嬉しい」と目を細める。

同市では2011~2013年に女子、2014~2016年に男子、2017年からは男女合同で世界ユース選手権(2019年まで世界ジュニア選手権)の代表選考会が開催され、今年8月上旬にはパラ卓球ナショナルチームの合宿地になるなど日本卓球との関わりが深い。

芝田も「旭市の皆さんには本当にお世話になっている。今回のイベントで少しは恩返しができたかなと思います。今度は強化に貢献できるよう少しレベルの高い人向けの講習会ができたら」と話した。

この日は奇しくも、9月3日に開幕するアジア選手権(~10日/韓国・平昌)に向けて日本代表選手団が成田国際空港を飛び立った。

アジア選手権には芝田も2019年と2021年に出場し、2019年のインドネシア・ジョグジャカルタ大会では女子団体銀メダルと女子ダブルス銅メダル、2021年のカタール・ドーハ大会では女子団体金メダル、女子シングルス銅メダルを手にしている。

トップ選手を育む土壌づくりの第一歩は、今回のイベントのような草の根の普及活動にもある。しかも芝田のような現役選手が自発的に関わっていく影響力は、特に若い世代に対して大きい。

そのことは初めてラケットを握った子どもたちの笑顔と歓声、目を輝かせて芝田にミニゲームを挑む中学生たちが物語っていた。

(文=高樹ミナ)

※こども卓球台:リオデジャネイロおよび東京オリンピック・パラリンピックの公式卓球台に採用されたことで知られる「三英(SAN-EI)」が製造を手がける。小さな子どもがプレーしやすいよう公認卓球台の高さより10cm低く、サイズも30%小さい。また四つ角を丸めて万が一、体をぶつけた時の衝撃を緩和している。2016年のリオオリンピック後に発売され現在までに約300台を販売。全国の幼稚園や保育所などを中心に普及が進む。