スペイン・バルセロナで開催されている「バルセロナ・オープン・バンコサバデル」(ATP500/4月18~24日/賞金総額215万2690ユーロ/クレーコート)の男子シングルス決勝で、第2シードの錦織圭(6位/日清食品)は第1シードのラファ…

 スペイン・バルセロナで開催されている「バルセロナ・オープン・バンコサバデル」(ATP500/4月18~24日/賞金総額215万2690ユーロ/クレーコート)の男子シングルス決勝で、第2シードの錦織圭(6位/日清食品)は第1シードのラファエル・ナダル(5位/スペイン)に4-6 5-7の接戦の末に敗れ、準優勝に終わった。

 ナダルの同大会優勝は3年ぶり9回目(2005〜09年と2011〜2013年)で、これはナダルにとってクレーコートの大会での49回目のタイトルでもある。

 「確かにアンフォーストエラーをおかしすぎたかもしれない。ボールはそこにあって、ポイントにけりをつけられたはずなのに、僕は多くのチャンスを逃してしまった」と錦織。「でもそれはまた、ラファ(ナダル)がいいプレーをしていたからでもある。彼はすべてのポイントで、すべてのボールを返してくる。彼からポイントを取るのは決して簡単ではないんだ。また今日は彼にとってラッキーなポイントもいくつかあった。僕は今週を通して、自分がやったテニスをうれしく思っている。今日の試合は負けはしたが、次のマドリッドとローマでまた大きなチャンスがやってくるから、次の2週間のためにしっかりと準備をしたい」。

 試合後の英語の記者会見で、悔しさを押し殺し、錦織が語ったこの言葉が、この決勝の様相と意味をおそらくもっとも的確に表現しているだろう。

 毎ポイント、毎ゲームが闘いだった。ミスを最小限に抑えながら、リスクをおかして厳しいコースをついていく。錦織が連続的に攻撃的なショットを打ち込んで、ラリーの主導権を握る場面は多々あったが、ディフェンス・スキルではトップ5の中でも一、二を争うナダルは、おそろしくしぶとかった。

 打ち込まれても耐えて深く切り返し、少しでも甘い球がくれば叩いてくる。第1セット第4ゲームで、決めにいこうとした錦織のミスにつけ込み、最初のブレークを果たしたのはナダルのほうだった。しかし続く第5ゲームでは、今度は錦織が決意に満ちた猛攻を仕掛け、3ブレークポイントを奪取。ナダルの巻き返しにフォアハンドのクロスでけりをつけ、すぐさまブレークバックした。

 交互に相手のサービスゲームを脅かしながら試合は進むが、おそらく錦織にとって悔やまれるのは第7ゲーム、連続でいいリターンを打ち込んで手にした0-40からの3ブレークポイントを、ものにできなかったことだろう。

 ここは落とせないというところで、激しく集中力を高めてくるナダルの能力のせいでもあったが、錦織は試合後、「あの(失った)重要なポイントのうち、いくつかを取っていたら、試合の行方も変わっていたかもしれない」と悔しさをにじませている。

 「ナダルとやるときにはほぼいつもそうだが、彼のしぶといディフェンスを前になかなか決めきれない。今日はいつも以上に彼の返球が深かったので、自分が常に攻めるというわけにはいかず、アップダウンがあった。自分の通常のテニス以上にアグレッシブにプレーしていたので、その分、ミスも出てしまった」と錦織は振り返る。

 相手のサービスゲームでも、そのほとんどでデュースに至る激しい闘いを繰り広げた末、錦織は4-5から自分のサービスゲームを迎える。ナダルによれば勝負の鍵は、この第1セットの最終ゲームにある。ナダルは粘り強いプレーで錦織に無理な攻撃を強い、ミスを引き出すことに成功。それとちょっぴりの運のおかげでブレークを果たし、非常に拮抗したこのセットをものにした。

 「第1セットは激しい競り合いで、より厳しかった。圭とプレーしていて、ことをコントロール下に置くのは不可能だ。彼相手には、常に自分を限界まで追い込んでプレーしなければならない。僕は幾度もブレークポイントを握られながら、何とかサービスでしのいでいたが、どうやってポイントをプレーしているのか、はっきりわかっていなかった。でも第1セット5-4からのゲームでは、いいプレーができたと思う。大事なポイントでアグレッシブにいくことができたんだ。5-4以降は、いいプレーができたと自負している」とナダルは試合後に振り返った。

「圭のようなハイレベルな選手を相手に戦う場合は、ときに勝負は一瞬、1ポイントの違いによってわかれる。今日の僕は重要なポイントにしっかり対処することができたことをうれしく思う」

 ちなみに第1セットで、ナダルは握られた8本のブレークポイントのうち7本をセーブしたが、錦織は与えた2本のブレークポイントの双方を奪われていた。試合後、錦織は「相手が勝負強いというのもあるが、どちらかといえば今日は自分のほうがその点で悪かった。先にミスをしてしまったり、力んでしまったりで、たくさんのブレークチャンスを取り損ね…、大事なポイントでの自分からのミスが多かったことが、本当にもったいなかった。自分が焦ってしまったのが一番の原因だったと思う」と言って自分を責めている。

 大事なポイントをどちらが取るかーー錦織が目指すトップ5の戦いは、このせめぎ合いでもある。この半歩、一歩の差を埋め、追い越すための探求こそが今、錦織が取り組んでいることなのだ。今日見えた差を埋めるには何をすべきかと聞かれた錦織は、「ナダルはディフェンス能力が高く、あれだけ打っていってもなかなか決められない。もう少し辛抱強さを持ち、ポイントによって、少しゆっくりいくポイントなどを混ぜられたらよかった」と話した。

 とはいえ、この試合を見て、錦織のここ2年の成長ぶりに感銘を受けた者も少なくなかったはずだ。この日、危険を承知でライン際に打ち込む錦織のショットを見たスペインの観客たちの口から、「ケ・ブエナ(なんてすごいショットなんだ)」という言葉が漏れた回数は数えきれないほどだった。

 実際、スリル溢れる戦いは、最後の最後まで続いた。 「ああやって1セット目を落としたが、プレーの作戦、プレー内容は悪くはないと思っていたので、自分から主導権を握るスタイルを続けるよう努めた」と錦織は言った。第2セットでは、最初のナダルのサービスゲームのブレークに成功した錦織だが、その後、ナダルが2度にわたって錦織のサービスをブレーク。それでも、錦織は最後まであきらめなかった。

 「1-4になって気持ちが吹っきれて、より打っていくことができた」と後に明かした通り、錦織は数本のいいショットを組み合わせ、2-4からのブレークバックに成功。最終的には、ナダルが6-5リードからの錦織のサービスを崩し、試合に終止符を打つのだが、競り合いながら4-4、5-5と最後まで食いついていった。

 錦織はオーバヘッドを決めきれずにミスをしたときには、フラストレーションを露わにもしたが、そこに見えた課題は、次につながる何かでもある。 「ここにきて4試合、いいテニスはできている。今日は悔しい部分のほうが多いけれど、なるべくポジティブな部分を探し、直すべきところは直し、自信をつけてマドリッドとローマに臨みたい。大事な2週間に、いい結果を出せるように頑張りたい」と錦織は言う。このバルセロナは、長いクレーシーズンの皮切りに過ぎないのである。

(テニスマガジン/ライター◎木村かや子、構成◎編集部)