バスケットボール男子日本代表トム・ホーバスヘッドコーチインタビュー 8月25日から沖縄、マニラ(フィリピン)、ジャカルタ(インドネシア)でFIBAバスケットボールワールドカップ2023が開催される。来年のパリ五輪の出場権もかかる大事な大会で…

バスケットボール男子日本代表
トム・ホーバスヘッドコーチ
インタビュー

 8月25日から沖縄、マニラ(フィリピン)、ジャカルタ(インドネシア)でFIBAバスケットボールワールドカップ2023が開催される。来年のパリ五輪の出場権もかかる大事な大会で、男子日本代表を率いるのはトム・ホーバスヘッドコーチ(HC)。東京オリンピックで日本女子代表を史上初の銀メダルに導いてから約2年、新たな挑戦として男子代表のカルチャーを変え、世界と戦うためのチームを作ってきた。

 ホーバスHCは戦うスタイルや考え方は女子代表のときと同じだという。それでもチーム作りの過程では、男子代表の現状に合わせて変えたこともある。

 そもそも、なぜ男子代表のヘッドコーチを引き受けようと思ったのか。女子代表と男子代表の違い、難しさ、そしてグループラウンドで対戦する3カ国の印象などについて聞いてみた。



この2年のチーム作りとともにW杯での目標について語ったトム・ホーバスHC

◇ ◇ ◇

──東京オリンピックでバスケットボール女子日本代表を銀メダルに導いてから約2年が経ちました。今も思い出すことはありますか?

「やっぱり選手たちとの関係が強かったなと。だから今でもみんなと話をします。(チームが)家族になったと思います。バスケでも勉強になったし、これよかったなと思うことがあります。だから、(あの時から)僕のコーチングスタイルはちょっと変わったと思います」

──金メダルを目標にして、結果は銀メダルでした。もちろん、すばらしい結果ですが、目標に一歩届かなかったわけで、悔しかったですか? それとも喜ぶことができましたか?

「最初はすごく残念だった。試合が終わってロッカールームに戻って、みんな負けたことにびっくりしていた。(優勝すると)信じていたから、『なんで負けたの?』という気持ちがあった。でも、銀メダルをもらったときのみんなの顔を見て、『よかったな、すばらしかった』と思いました。だから、残念(な気持ち)は全然ないです。金メダルを逃したのではなくて、銀メダルを勝ち取ったという感じです」

──あれだけのことを達成するうえで、何がカギになったと思いますか?

「とりあえず目標を作った。みんなからコミットメントもらいました。だから『この目標はできますか?』(という問いかけに)みんなが、『はい』と言って、みんなが自分の力とか、チームメイトの力を信じていた。それが一番大きかったかな。だから、決勝戦でアメリカに負けたときもびっくりした。アメリカはオリンピックでずっと負けていないんですよ。(東京五輪決勝で日本に勝って)オリンピック55試合連続で勝っているチーム。そんな強い相手でも終わってから、僕たちは『え? 負けたの?」っていう感じでびっくり。全員が、それぐらい信じていました。それがすごいと思います」

──同じ東京オリンピックで、男子代表は3試合全敗だったわけですが、男子の試合を見る機会はありましたか?

「はい、ありました」

──どんな感想を持ちましたか?

「3試合負けましたが、いいところも見ました。富樫(勇樹)のプレーとか。ベンドラメ(礼生)のプレーも。速いバスケを少しやっていて、『できるんじゃない?』と思った。でも、あの速いバスケを40分間全部はやらなかったじゃないですか。だから、ちゃんとやればできるかなと思いました」

──このチームを勝てるチームにできるという自信があって、男子代表のヘッドコーチを引き受けたということですね?

「はい。もし信じなかったら、違うチームに行ったと思います」

──なぜ信じられたんですか?

「力があると思った。(八村)塁と渡邊(雄太)もいたし、馬場(雄大)もいたし、富樫もいた。なんか、『できるんじゃない?選手もいるじゃない?』(と思った)。速いバスケをやるんだったら、相手にプレッシャーをかけられると思った。面白いかな、できるかなと思いました」

──男子代表のヘッドコーチになって、最初に変えたいと思ったことは何ですか?

「みんなの考え方。女子はWリーグに外国籍選手がいないじゃないですか。だから、みんながメイン選手(一番手の選手)です。みんなが『私がやらなくちゃ』と思っていて、その気持ちがメインです。男子は、Bリーグではみんなオプション3(三番手)やオプション4(四番手)。富樫はオプション1(一番手)だったけど、みんな、代表に入ってもオプション3の気持ちがあったんですよ。だから、そこを直しました。みんながオプション1に、もっとアグレッシブになった。自分のシュートとか自分のドライブとかを探すようになりました。それが一番大きいかなと思います」

──全選手が、「自分は『オプション1』だ」と思えるようになるのは、時間がかかりましたか?

「少し時間がかかりました。3回目の合宿からかな、みんなわかったと思いました」

──男子だと、アメリカで活動している選手が予選では合流できないという事情もあり、女子の時のように同じ代表メンバーで長い間練習するということはできなかったわけですけれど、そのへんの難しさもありましたか?

「それは思ったより簡単だった。最初は難しいと思ったけど、ウィンドウ(予選)のときに10日間~2週間ぐらい一緒に練習をやって試合、それから2カ月か3カ月ぐらい休んで、もう1回集まって。だから難しいなと思ったけど、6、7人ぐらい同じ選手が入っていたんですよ。だからウィンドウ3からウィンドウ4は、最初からやらずに(前からの)継続でやれたので、うまくなった。みんな、やりたいバスケットボールがだいたいわかってきたから。役割もわかったから、思ったより簡単になったんですよ」

──女子のときはヘッドコーチになってすぐに金メダルが目標って言いましたけど、男子に関しては、最初の頃ははっきりした目標は言ってなかったですよね? それはなぜですか?

「大事なことです。口だけはダメです。女子のときは僕が2010年からENEOS(当時はJXサンフラワーズ)に(アシスタントコーチとして)入っていたじゃないですか。だから、女子の選手たちのプレースタイルとかがわかっていたし、関係も作っていました。男子はゼロから始まったんです。だからみんなの気持ちとか、みんなのバスケ観とか私も勉強して、少しずつわかってきてから、目標を作りました」

──その目標とは?

「ワールドカップの中でアジア1位になりたいです」

──パリ五輪の出場権を取るっていうことですね。

「はい、そうです。それが僕らの目標です。2勝か3勝か、わからないけれど、とりあえず1位になりたい」

──渡邊雄太選手が、「オリンピックの出場権を取れなかったら代表をやめる覚悟でやっている」とコメントしていましたけど、それを聞いてどう思われましたか。

「彼、東京オリンピックの最後の試合で負けたときに、ベンチで泣いていたじゃないですか。僕はそれを見て『あぁ、なんかすごい(強い)気持ちがある』(と思った)。だから、それも男子のヘッドコーチになろうと思った(理由です)。あのぐらいの気持ちがあるんだったらいいかな。あのような選手のタイプに教えたいと思いました」

──ということは、渡邊選手がいなかったらヘッドコーチになっていなかったかもしれないんですね。

「そこまでではないですけれど、ただ、彼にはインパクトがありました。もしみんなが(オリンピックで)3試合負けても気にしていなかったら、(ヘッドコーチをすることは)難しいと思いました」

──そのワールドカップのグループラウンドでは3チームと対戦します。その3チームがどんなチームで、それに対して自分たちがやらなくてはいけないことや鍵となるプレーヤーがいれば教えてください。

「相手のキープレーヤーですか?」

──日本のキープレーヤーが知りたいのですが、言いにくかったら相手のキープレーヤーでもいいです。

「うちのキープレ―ヤーはみんな。みんながキーです。 (初戦の)ドイツはいいチームですよ。いい選手も集まったんですけれど、バランスがいいんですよ。だから、そこは日本にとって大きなチャレンジかなと思います。(デニス・)シュルーダー選手のペイントアタックは止めたい。3ポイントシューターも何人もいます。フランツ・ワグナーとか、モー(ワグナー)とか。バランスがすごいし、オフェンスリバウンドもよく取りにいっている。ドイツのことばかり考えています」

──東京五輪の女子のときも初戦が大事だと入念に対策を練っていましたが、今回も初戦のドイツのことばかり考えているのですね。初戦が大事なのはなぜですか?

「勝ったら、自信がつくじゃないですか。負けたら『あー』(と落胆する)。ワールドカップとかオリンピックは、弱いチームがいないんです。だから、少しでも自分たちの自信が下がったら大変で、スノーボールで(雪だるま式に)悪くなる。だから、第1ゲームに勝ちたいです」

──2試合目のフィンランドはどんなチームだという印象を持っていますか?

「フィンランドは、当たり前ですけれどローリー・マルカネンのプレーをよく見ています。彼がメインの選手です。フィンランドは世界ランキング24位かな。うちよりいい。他にもいい選手がいるけど、どうやってマルカネンにマッチアップするか、すごく考えています」

──最後に、オーストラリアは、同じアジア・オセアニア地区なので、この3チームのなかではよく対戦して、知っているチームですが、かなり強いですよね。

「もちろん強いです。オーストラリアはこの2年間、A代表もアンダーカテゴリ--も、だいたい同じセット(陣形)でやっています。もちろん(大会ごとに)少しアジャストメントするけれど、だいたい同じことをやっている。オーストラリアは第3ゲームだから、大会中に、オーストラリアの2試合をよく見て、スカウティングできます」

──ワールドカップで、男子日本代表はどんなチームになるのが理想ですか。

「女子と似ているよ。だから、日本チームが強いことは見せたい。だから女子のときの速さ、チームワークは男子も一緒です。他の国は身長のある相手がくるから、速さ、しつこいバスケ、足を止めないバスケ、技術の高いバスケをやりたいです。ファーストブレイク、トランジションのときに3ポイントシュートとかペイントアタックをする、そういうバスケをやりたいです」