53勝30敗。前半戦を、工藤監督就任3年目にして初めて2位で折り返すことになったソフトバンクではあるが、それでも、貯金を23個も作り出した。前半戦最後の直接対決で連敗し、楽天の後塵を拝しての前半戦ターンとなったものの、その強さ、選手層の厚さ…

53勝30敗。前半戦を、工藤監督就任3年目にして初めて2位で折り返すことになったソフトバンクではあるが、それでも、貯金を23個も作り出した。前半戦最後の直接対決で連敗し、楽天の後塵を拝しての前半戦ターンとなったものの、その強さ、選手層の厚さを存分に見せつけた前半戦だったとも言えるだろう。

■前半戦2位でターンしたソフトバンク

 53勝30敗。前半戦を、工藤監督就任3年目にして初めて2位で折り返すことになったソフトバンクではあるが、それでも、貯金を23個も作り出した。前半戦最後の直接対決で連敗し、楽天の後塵を拝しての前半戦ターンとなったものの、その強さ、選手層の厚さを存分に見せつけた前半戦だったとも言えるだろう。

 とにかく、ケガ人が続出した前半戦だった。セットアッパーとして計算されていたロベルト・スアレスが右肘のトミー・ジョン手術を受けて今季絶望。即戦力として期待されたドラフト1位の田中正義は右肩の違和感を訴えて、開幕前にリハビリ組へ。シーズンに入ってからは、和田毅が左肘の張りを訴えて離脱し、遊離軟骨除去の手術を受けた。武田翔太が右肩の炎症、千賀滉大も左背部の張りで一時、チームを離れた。

 交流戦中にも、内川聖一の頚椎捻挫、アルフレド・デスパイネの右太もも裏の軽い肉離れ、高谷裕亮が右手第三指末節骨骨折と、ケガ人が相次いだ。前半戦終了直前の今月11日には五十嵐亮太投手が左太もも裏肉離れ。ローテの中心を担う和田、武田、千賀の3人、勝利の方程式の一角となるはずのスアレス、さらに4番、5番と、チームの中核を担う選手が相次いでチームを離れた。普通のチームであれば、一気に崩れ落ち、低迷してもおかしくない事態だった。

 それでも、踏み止まることができた、いや、それどころか、きっちりと首位を争いながら、白星を積み重ねてきたのだから、恐れ入る。ケガ人によってできた穴を、他の選手たちが見事なまでに埋めてみせた。

■負傷者続出も首位争い演じられる要因は

 先発投手でいえば、東浜巨が完全に1人立ちし、大黒柱として奮闘。攝津正や中田賢一、寺原隼人といったベテラン組が不振の中で、石川柊太、松本裕樹という若い投手2人がローテに入った。石川は4勝、松本は2勝を挙げ、苦しい台所事情を救った。野手面も、デスパイネ、内川の2人を欠いた期間はそれほど長くなかったが、その間は川島や長谷川勇、明石、江川といった、普段は控えに甘んじる面々がスタメンに入った。

 これだけ負傷者が出て苦しい中で、首位を争えてきた要因は「競争」と「育成」の連鎖の賜物であると言えるだろう。

「競争」。これは、2015年に監督として就任した工藤公康氏が常々、口にしてきたことである。どれだけ期待されている若手であっても、力が劣っていながら、将来の育成のためにポジションが与えられる、といったことはない。あくまでも競争の上で、力でポジションを奪うしかない。今季定位置を掴んだ上林、甲斐も力で奪ったもの。ただでさえ、主力のレベルが軒並み高いソフトバンク。その主力を追い抜くためには、それ相応の努力が必要になる。

 となれば、選手たちは、練習するしかない。他球団よりも一際高い壁を越えるために、だ。そして、編成面においても、高い壁を次々に選手たちの前に置く。外国人では2015年にはバンデンハーク、2016年にはスアレス、そして今季はデスパイネ、ジェンセン、シーズン中にはモイネロ、コラス(ともに育成契約だが)の2人を補強。日本人でも昨季は和田毅、今季は川崎宗則をチームに加えた。

■「競争」と「育成」を可能にしているモノ

 もちろん、チーム力を強化するための補強が主目的ではあるのだが、こういった選手たちを越えなければいけないという状況を作ることにより「競争」を激しくさせ、それが結果的に「育成」に繋がるのである。また、トップ選手をチームに置くことは、乗り越えるべき壁を選手に見せ、さらにお手本とさせるという意味でも「育成」に繋がる。若い選手たちにとっては堪ったものではないだろうが、ここから抜け出すことができる選手だからこそ、1軍でも通用するのだろう。

 選手たちは、いつ巡ってくるか、分からないチャンスのために、努力を重ねなければならない。そして、成長していく。このチームでは、突然やってくるチャンスを掴めなければ、次のチャンスがいつやってくるかは分からない。もしかしたら、無いかもしれない。そのチャンスのために、選手は常に準備しなければならない。それができる選手は結果が出る。そして、生き残っていく。こういった循環が、チーム力を支えている。

 批判を覚悟で言う。「金満」とも言われるが、ソフトバンクは独立採算。親会社のソフトバンクからは、決まったスポンサー料だけしか入ってこない。ありがちな“補填”の類いは一切ないという。営業努力をし、収益を上げ、利益を出した上で投資をしている。「ある」から「使う」のだ。「強奪」とも言われるが、いい人材がいれば、組織に加えるのは、どこの世界では至極当然のこと。それはメジャーリーグでも、ほかのプロスポーツでも同じではないか。健全な企業活動の末に、チームを作り上げているといえないだろうか。

「競争」と「育成」、それを可能にしている経営とマネジメント。前半戦の窮地を救った他球団を凌駕する戦力層は、こうやって作られている。17日から後半戦がスタートするプロ野球。ソフトバンクは、本拠地ヤフオクドームに西武を迎え撃つ。勝負の後半戦。圧倒的な選手層で、首位の楽天を追撃する。 (福谷佑介 / Yusuke Fukutani)