今季海外メジャー4戦目となるエビアン選手権(7月27日~30日/フランス)で、日米のツアーを通じて6戦ぶりの予選通過を果たした渋野日向子(最終順位は59位タイ)。翌週のスコットランド女子オープンでは、初日に米ツアーでの自己ベストタイの「6…

 今季海外メジャー4戦目となるエビアン選手権(7月27日~30日/フランス)で、日米のツアーを通じて6戦ぶりの予選通過を果たした渋野日向子(最終順位は59位タイ)。翌週のスコットランド女子オープンでは、初日に米ツアーでの自己ベストタイの「64」をマークして単独首位発進。3日目に「77」と崩れて最終的には16位タイに終わったものの、復調の兆しを見せた。

 はたして渋野は、ここ数年のスイング改造やケガなどからくる不振状態から完全に脱出することができたのだろうか。そして、まもなく開幕する今季最後のメジャーとなるAIG全英女子オープン(8月10日~13日/イングランド)で再び躍動できるのか。

 昨シーズン、藤田さいきを11年ぶりのツアー優勝に導くなど、多くの女子プロを指導しているプロコーチの大本研太郎氏に話を聞いた――。



アプローチショットは安定していたという渋野日向子

 まずは、2019年に全英女子オープンで優勝し、同年の日本女子ツアーでも4勝を飾った渋野が、その後、徐々に下降線をたどっていったことについて、大本氏なりの見解をうかがった。

「全英女子に勝った時は、まだ20歳。"怖さ"を知らない段階だったので、自分がやろうと決めたスイングやゴルフがナチュラルにできていたと思います。

 でもそこから、次第に周囲からの声などもあって、新しい知識や理論を身につけたくなってくるわけです。プレーヤーとしたら、新しい理論に基づいた"正しい"スイングを身につければ、いいパフォーマンスができると思うわけですが、"正しい"スイングなんて、人それぞれ違うもの。そもそも、何が正しいかなんて、わからないものです。

 ですから、本来は(自分が)ナチュラルに、スムーズに打てれば、いいパフォーマンスが出る、ということが大事。だとすれば、渋野プロも自分のナチュラルなスイングを"改造"するのではなく、"アップデート(追加、修正)"を加える方向でいけたら、よかったのかなと思いますけど。

 スイング改造というのは、(モノになるまで)『最低3年は必要』と言われています。全英女子を勝ってプレーヤーとして一番大事な数年間を犠牲にしてまで、それをやらなければいけないのかどうか、というのは本人の考え方次第ですが、難しいところですよね」

 渋野が取り組んできたスイング改造は、トップで左手がフラットの位置で掌屈(手のひら側に折れる)。切り返しでフェースを閉じた状態(シャットフェース)で、コンパクトにスイングするというもの。これで、飛んで曲がらないスイングを目指してきた。

 しかし、なかなか結果が出ないまま、今季からはプロ入り前から渋野を見てきた青木翔コーチと再びタッグを組んで、新たなスイング改造に取り組んできた。そうして、先のスコットランド女子オープンでは復調気配を見せたが、これまでとは何が変わったのだろうか。その点について、大本氏はこう語る。

「(スイング改造に取りかかってからの)以前のスイングでは、ダウンスイングでシャロウ(緩やかな軌道)に入ってきたクラブの軌道を、フォローでは縦方向に抜いていくのが目立ちしました。おそらくこれは、球が引っかかるのを嫌って、フォローで縦方向に抜く動きにつながっていたのだと思います。

 フォローを大きく縦に抜くのは、選手としてはいい感覚なのでしょうが、それで常にいいパフォーマンスが残せるかというと、私はどうかな? と思っています。

 縦に抜けるというのは、クラブの構造的にはフェースが開きやすくなるので、球が右に出やすくなるというデメリットがありますし、それを嫌がることによって、左へフック系の球が出るということもあります。要するに、出球にバラツキが出るということです。

 そこから、スコットランド女子オープンでは多少変化が見られました。

 アプローチショットのクラブの動きは、ダウンスイングでシャロウに入ってきたものが、フォローでもシャロウに抜けていましたね。いくつかミスもありましたが、ほぼ安定したショットが打てていたと思います。それはつまり、ダウンスイングとフォロースイングの軌道がそろっていた、ということです。

 ただ、フルショットではまだ、フォローサイドは縦に抜けていました。それでも、渋野プロは感覚的には"天才"なので、それなりに高いパフォーマンスを出せると思いますが、ショットの安定が4日間持つかどうかがポイントになるとは思います。

 アプローチのような感覚でフルショットも振っていけたら、先週よりもさらに上の位置でのフィニッシュも期待できると思います」

 いよいよ迎える全英女子オープン。渋野は復調の兆しを見せたスコットランド女子オープンをきっかけにして、さらなる飛躍ができるのか。フォロースイングに注目しながら、その行方を見守っていきたい。

大本研太郎(おおもと・けんたろう)
1974年1月18日生まれ。18歳からゴルフを始め、研修生、ミニツアーを経験後、PGAティーチングプロA級取得。初心者からプロまで、個々のレベルや体のタイプに合わせたスイング解析やスイング改善などのレッスンに定評がある。藤田さいき、東浩子、臼井麗香など、多くの女子プロを指導。(株)スポーツラボ代表取締役。GPC恵比寿ヘッドコーチ。