イギリス・ロンドンで開催されている「ウィンブルドン」(7月3〜16日)。 観衆は彼らの歴史を愛し、またロジャー・フェデラー(スイス)を愛している。そして彼らは何より、フェデラーが歴史に名を刻むのを見るのが好きだ。 自らの記録を破って11度…

 イギリス・ロンドンで開催されている「ウィンブルドン」(7月3〜16日)。

 観衆は彼らの歴史を愛し、またロジャー・フェデラー(スイス)を愛している。そして彼らは何より、フェデラーが歴史に名を刻むのを見るのが好きだ。

 自らの記録を破って11度目のウィンブルドン決勝進出を決めたあと、今、フェデラーは前人未到の8度目のウィンブルドン男子シングルス優勝まで、あと1勝と迫った。

 数週間のうちに36歳となる四児の父、フェデラーは、その復活のシーズンを続けている。彼は、2010年ウィンブルドン準優勝者のトマーシュ・ベルディヒ(チェコ)を7-6(4) 7-6(4) 6-4で倒すに十分なだけの輝きを生み出すことにより、このウィンブルドンにおけるストレートセットの進撃をも続けることになった。

「素晴らしいが、それが僕にタイトルを与えてくれるわけじゃない。今年、僕はこのためにここに来たのだから」とフェデラーは言った。「今、僕は本当に近くまで来ている。だから、ただ集中し続けなければならない」。

 彼は、今年のウィンブルドンでプレーしたすべてのセットを取り、準決勝では必ずしも相手を圧倒していたとは言えなかったとはいえ、決して大きな問題を抱えることもなかった。

 日曜日にフェデラーは、2014年全米オープン・チャンピオンのマリン・チリッチ(クロアチア)と対戦する。第7シードのチリッチは、25本のサービスエースと何本かの素晴らしいリターンの助けを借りて、第24シードのサム・クエリー(アメリカ)を6-7(6) 6-4 7-6(3) 7-5で下し、オールイングランド・クラブ(ウィンブルドン)で初めての決勝に駒を進めた。

「これ(ウィンブルドン・センターコート)は彼のホームコートなんだ」と、チリッチはフェデラーについて言った。「ここは彼が最高の気分を覚え、自分のベストのテニスをプレーできると知っている場所なんだ」。

 ウィンブルドンでの7番目のタイトルを獲得し、同大会の優勝回数でピート・サンプラス(アメリカ)、ウイリアム・レンショー(イギリス/1880年代に活躍した選手)と並んだ2012年以降に、フェデラーが今回と同じくらい8番目のタイトルに近づいたことはある。しかし2014年と2015年の決勝で、彼はノバク・ジョコビッチ(セルビア)に敗れていた。

 そして今、もう一度チャンスが到来した。

 もしフェデラーが優勝すれば、彼は1968年に始まったオープン化以降の時代で、最年長のウィンブルドン・チャンピオンということになる。現在彼は1974年に39歳で決勝に進んだケン・ローズウォール(オーストラリア)に次いで年齢の高い、ウィンブルドン決勝進出者だ。

「ロジャーが歳を取ったとか、そういうことを示唆する兆候は何も見えない」とベルディヒは言った(余談だが、ベルディヒは自分の通常のシューズの履き心地に問題があったため、この日は別のシューズを履いた。そのシューズはベロの部分にジョコビッチの顔のシルエットが入ったものだった)。

「彼(フェデラー)はただ、我々のスポーツにおける自身の偉大さを証明しつつある」

 特筆すべきもうひとつの点は、これがフェデラーにとって2017年2度目のグランドスラム大会決勝だということだ。フェデラーは、手術した左膝を完治させるため、昨年の後半を休養にあてた。リフレッシュし、万全の体調でカムバックした彼は、今年1月の全豪オープンで優勝。4年半ぶりの、そして自身18番目のグランドスラム・タイトルを獲り、自らの最多記録を更新していた。

「我々皆が今、見ているように、ときどき自分の体に休みを与えるというのはよいことだ」とフェデラー。「休みをとったことがよい効果を生んでうれしいよ。なぜって、少しの間、もう決して帰ってこられなくなるんじゃないかとか、もうウィンブルドンのセンターコートでプレーできないんじゃないか、といった疑念が頭に浮かぶこともあるものだからだ。でも僕はウィンブルドンのセンターコートに戻って来たし、今週はそれが何度も起きた」。

 そして、この試合を観戦した1万5000人の観衆のほとんどが、フェデラーを応援していた。必ずしも彼の最高傑作----素晴らしきフェデラーのベストテニスばかりが見られたわけではなかったこの日、そんな中でも出た幾つかのベストショットを歓迎した、割れるような拍手と歓声から、『いけ、フェデラー!』の叫びに至るまで、準決勝を通しての観客の一挙一動から、そのことは非常に明らかだった。

 そしてフェデラーも、観客を沸かせるに十分な、いくつかの際立ったショットを見せた。例えば第2セットでの、ベースライン上に着地したダウン・ザ・ラインへのパッシングショットのウィナー。チョークの粉が立つのを見たベルディヒは、上げた肩を、ため息とともにすとんと落とした。またその数ゲーム後の、見もしないで叩いたバックハンドのウィナー。こんなショットは、やってのけるどころかトライする選手さえ、そう多くはいないだろう。

 また、第3セット2-3、15-40からのブレークポイントで、彼が自分をピンチから救い出したときの見事さ。時速173kmのサービスエース、187kmのサービスエース、194kmのサービスからのウィナー、192kmのサービスエース。そしてその次のゲームで、彼はベルディヒのサービスをブレークし、逆に4-3とリードを奪ったのである。それが全容をほぼ物語っていた。

「僕は重要な瞬間にいいショットを生み出すことができていた」と、フェデラーは振り返った。

 チリッチは、第1セットのタイブレークでクエリーに対しそれをやってのけることができなかった。2009年以降にグランドスラム大会の準決勝に進んだ唯一のアメリカ人男子プレーヤー、それがクエリーだ。

 タイブレーク6-6から、具合が悪くなったらしい女性客が係員に助けられて席を立つという一幕があり、これによる数分のプレーの中断にチリッチは集中力を乱されたようだった。プレーが再開されたとき、チリッチは2本のバックハンドを打ち損なってミスし、クエリーにセットを献上してしまったのだ。

 しかしそこから、チリッチはクエリーのビッグサーブにかなりうまく対処しつつ、安定性を取り戻した。チリッチは第4セットで、3本の素晴らしいリターンにより、カギとなるブレークを果たす。時速127kmのセカンドサービスを攻撃した最後のリターンは、クエリーのバックハンドの打ち損ないと、「ノー!」という叫びを引き出した強烈なフォアハンドだった。

 チリッチにとっての次のテストは、これまででもっとも厳しいものだ----ウィンブルドンのセンターコートでフェデラーを倒すこと。彼らは昨年の準々決勝で対戦しており、そのときにはフェデラーが、最初の2セットを落としながらも挽回し、大逆転劇を演じて5セットの末に勝っている。この勝利でふたりの対戦成績はフェデラーの6勝1敗となった。

 チリッチの唯一の勝利は3年前の全米オープンで、彼が自身唯一のグランドスラム・タイトルを獲る過程で果たした、準決勝でのストレート勝ちだった。

「登るべき大きな山が立ちはだかっていることはわかっているよ」と、チリッチは言った。「ロジャーは現在、おそらく彼のキャリアで最高のテニスの一角と呼べるプレーをしている」(C)AP(テニスマガジン)

※写真は「ウィンブルドン」準決勝で第11シードのトマーシュ・ベルディヒ(チェコ)を倒し、大会11度目の決勝進出を果たした第3シードのロジャー・フェデラー(スイス)。(撮影◎小山真司/テニスマガジン)