9月8日にラグビーワールドカップ開幕を控えるラグビー日本代表(世界ランキング12位)は、7月29日に国内5連戦の4試合目を大阪・花園ラグビー場で行なった。 オールブラックスXV(フィフティーン)との2連戦(6-38、27-41)とサモア代…

 9月8日にラグビーワールドカップ開幕を控えるラグビー日本代表(世界ランキング12位)は、7月29日に国内5連戦の4試合目を大阪・花園ラグビー場で行なった。

 オールブラックスXV(フィフティーン)との2連戦(6-38、27-41)とサモア代表戦(22-24)に破れ、日本代表は3連敗。「リポビタンDチャレンジカップ2023 パシフィックネーションズシリーズ」の2試合目として、トンガ代表(同15位)を迎え撃った。



アマト・ファカタヴァはトンガ出身の28歳

【最終メンバーは8月15日発表】

 試合は、練習で強化してきたダブルタックルが機能し、身体の大きなトンガ代表を止め続けた。一方、課題だったアタックも、過去3戦とは見違えるような出来だった。

 前半はセットプレーやターンオーバーからWTBジョネ・ナイカブラ(29歳/東芝ブレイブルーパス東京)とLOアマト・ファカタヴァ(28歳/リコーブラックラムズ東京)がトライ。後半序盤は相手にペースを握られたものの、スクラムを起点に地元・花園近鉄ライナーズ所属のWTBセミシ・マシレワ(31歳)がトライを決めて21-16で逃げきった。

※ポジションの略称=HO(フッカー)、PR(プロップ)、LO(ロック)、FL(フランカー)、No.8(ナンバーエイト)、SH(スクラムハーフ)、SO(スタンドオフ)、CTB(センター)、WTB(ウイング)、FB(フルバック)

「最終的に勝ててチームを誇りに思います。松島幸太朗が何度も立ち上がってタックルする姿や、ハードワーク後のファカタヴァのタックルには、必死にチームを助けようとする姿勢が見られた。これは私たちが進むべき道にとって、いい兆候だと思う」

 日本代表を率いるジェイミー・ジョセフHCは、今季初勝利に安堵の表情を見せた。

 選手たちはワールドカップに向けてチーム全体の強化を図りつつ、8月15日に発表される最終スコッド33名への生き残りを賭けたポジションも争っている。そんななか、この試合を含めて4試合連続で出場して大きくアピールできたのは、トンガ出身のファカタヴァだろう。

【鉄人トンプソン引退後のLO】

 2キャップ目を獲得した今試合の対戦相手トンガは、28歳のファカタヴァにとって母国。トンガ代表のメンバーに従兄弟が3人いたこともあって「本当に特別な思いでした。とても幸せな時間で、エキサイティングな気持ちでした」と笑顔を見せた。

 ファカタヴァは20歳の時、現在ブラックラムズでチームメイトの双子の兄(ファカタヴァ タラウ侍)とともに大東文化大学に進学。フィジカルと攻撃的センスのあふれる選手として評価が高く、昨季のリーグワンではFLとして全試合に出場。そして今春、初めて日本代表に招集された。

 日本代表では所属クラブとは違うLOのポジションを託された。しかしながら、初キャップの試合でもいきなり躍動し、今回もトライを挙げてワールドカップ出場に大きく前進した。

 11歳でラグビーを本格的に始めた時も、ニュージーランドに留学した時も、大東文化大学に進学した時も、そして今も、ファカタヴァは兄と一緒にいる。初めて兄のいないチームでラグビーをしている環境に、ファカタヴァは寂しいと本音をこぼした。

「常にタラウと一緒にいたくて、今まで同じチームを選んできました。ずっと一緒にトレーニングしてきましたので、タラウがそばにいないのは寂しい......。でも、いつでもつながっていますし、僕をサポートし続けてくれています」

 ワールドカップ過去4大会に出場した「鉄人」トンプソン ルークが引退したLOのポジションは、ずっと人材難に苦しんでいた。21歳のワーナー・ディアンズ(東芝ブレイブルーパス東京)はケガで出遅れているだけに、復調してきたジェームス・ムーア(30歳/浦安D-Rocks)とともにファカタヴァの存在はチームにとっても頼もしい。

「ファカタヴァは週を追うごとに成長している。将来、日本を担う選手になるだろう。非常にスマートで力強く、彼も自身のポテンシャルに気づきはじめていると思う」

 ジョセフHCも、ファカタヴァが日本代表の中軸のひとりになる可能性を示唆する。

【福岡堅樹が抜けたWTBの穴】

 一方、福岡堅樹が引退したWTBのポジションも同様だ。新たな人材を欲している。

昨季リーグワンで16トライを挙げた木田晴斗(24歳/クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)、シオサイア・フィフィタ(24歳/トヨタヴェルブリッツ)のふたりはケガでコンディション不良、松島幸太朗(30歳/東京サントリーサンゴリアス)はFBでの出場機会が多くなっている。

 そんな状況のなか、WTBの穴を埋める活躍を見せたのが、今回の試合でトライを挙げたナイカブラとマシレワだった。

 サモア戦で初キャップを得た29歳のナイカブラは、フィジーの200人ほどの村出身。7歳で競技を始め、ニュージーランド留学後、摂南大に進学した。2017年から7人制ラグビー日本代表として活躍し、2018年にはセブンズのワールドカップにも出場した俊足ランナーである。

 所属する東芝ブレイブルーパス東京では15人制に専念し、2021年=6トライ、2022年=9トライ、2023年=10トライとコンスタントに活躍し続けた。2021年から日本代表に呼ばれるようになり、今夏ようやくチャンスが回ってきた。

 関係者の誰に聞いても、ナイカブラの印象は「シャイ」という答えがかえってくる。それがプレーにも影響していたのだろうか。ひとりでトライを取りきる力を持ったWTBだけに、やっと日本代表にフィットしてきた。

「このチームでプレーを重ねてきて、ようやく自信がついてきました。ワールドカップに向けての競争は激しいですが、基本的なことをしっかりとやって、チームと一緒に成長していくことが大事」

 試合後のナイカブラからは、シャイとは思えぬ強気な発言も聞けた。

 そしてWTBのもうひとり、マシレワもフィジー出身の31歳。ニュージーランドの高校を経てオーストラリアのフォースで活躍後、2017年から花園近鉄ライナーズに所属している。ランとステップが武器で2018年はサンウルブズでもプレーした経歴を持つ。

【選手層の薄さも4年前の敗因】

 マシレワがトライ後に見せる「エガちゃん(江頭2:50)ポーズからのスネーク(蛇)ポーズ」は、すっかりファンにもお馴染みである。ひざをケガした影響もあって代表から遠ざかったが、トンガ相手に地元の花園ラグビー場でトライを挙げて存在感を示した。

 マシレワは「ワールドカップに手を挙げていきたい。夢に対してベストを尽くすだけ」と先を見据える。ナイカブラとマシレワは8月5日に行なわれる母国・フィジー代表戦でさらなるアピールを見せ、ぜひともワールドカップの切符を掴み取りたいところだ。

 ジョセフHCは最終メンバー33人の絞り込みについてこう語る。

「選手をチームから離すか、もしくは残すのか......この2、3週間で決断しなければならないのは本当に難しい。しかし、それが仕事でもある。ワールドカップに向けて万全の準備をして、最高のパフォーマンスを見せるためにベストの選手を選ぶ」

 選手選考は、いよいよ佳境に入っていた。

 2019年ワールドカップで日本代表がベスト4に進出できなかった要因のひとつとして、選手層が薄く、特定の選手を起用し過ぎてしまったことが挙げられる。ファカタヴァ、ナイカブラ、マシレワという新戦力の台頭は、日本代表の選手層の底上げに必ずつながるはずだ。