イギリス・ロンドンで開催されている「ウィンブルドン」(7月3〜16日)。「ロジャー! ロジャー!」の叫びが、オールイングランド・クラブ(ウィンブルドン)の夕べを満たした。試合後のストレッチのあと、ロジャー・フェデラー(スイス)はセンターコ…

 イギリス・ロンドンで開催されている「ウィンブルドン」(7月3〜16日)。

「ロジャー! ロジャー!」の叫びが、オールイングランド・クラブ(ウィンブルドン)の夕べを満たした。試合後のストレッチのあと、ロジャー・フェデラー(スイス)はセンターコートとつながるブリッジの上で足を止め、自分を賛美する観客たちに手を振った。

「人々が僕のためにそこに来てくれているのを見るというのは、独特なフィーリングだよ。実際、こうも大きなサポートを受け、すごく心を動かされた」とフェデラーは言った。「若いときには、自分がこんなことを経験するなんて想像していなかったよ」。

 36度目の誕生日まで1ヵ月足らずとなった今も、フェデラーは変わらずファンたちに、彼らが欲しているものを与えている。ウィンブルドンが始まったとき、フェデラーと、〈ビッグ4〉の残りのメンバーたち----ノバク・ジョコビッチ(セルビア)、アンディ・マレー(イギリス)、ラファエル・ナダル(スペイン)----は、過去14年のウィンブルドン男子シングルス・タイトルを彼らの間で分け合っていた。

 大会が準決勝に進んだ今、その中で残っているのはフェデラーだけだ。

 彼を〈ビッグワン〉と呼ぼうか。

「たぶん、違った選手たちを目にするのはいいことなのだろうが、僕は自分の夢の進撃が続いていることをうれしく思う」とフェデラーは言った。「そして、次に何が起こるか見てみよう」。

 フェデラーのここまでの歩みは、控えめに言っても印象的だった。

 彼はここ10日ほどの間にプレーしたすべてのセットを取っている。準決勝進出者の中で、そうできているのは彼だけだ。

 また彼は、この大会中にあった66のサービスゲームのうち63ゲームを取った。彼が直面したブレークポイントは14本に過ぎない。おかしたアンフォーストエラーは合計49本、つまり1試合10本以下ということになる。

 そのため、対フェデラーの準々決勝に4-6 2-6 6-7(4)で敗れたミロシュ・ラオニッチに投げられた最初の質問は、「フェデラーを倒すには何をしなければならないか?」というものだった。

「多くのことをやらなければならない。骨の折れる仕事だ」とラオニッチは言った。彼は昨年のウィンブルドンで、決勝でマレーに敗れる前に、準決勝でフェデラーを破っていた。「何をしなければならないかを知ることはできると思う。でもそれをただ"知る"より、実際"やる"ほうがずっと難しい」 。

 もちろん、そのことに気づいたのは彼だけではなかった。

 一年前にラオニッチに敗退させられたあと、フェデラーは、手術で修復した左膝をしっかりと治癒させるため、シーズンの残りの期間を休息にあてることを決めた。その時点で彼はすでに5月の全仏オープンを欠場しており、それによってグランドスラム大会連続出場記録は「65」で終止符を打っていた。彼はリオ五輪と全米オープンもスキップした。

 1月に戻ってきたとき、フェデラーはよい体調を謳歌し、活力に満ちていた。そして全豪オープンで、18番目のグランドスラム・タイトルを獲得した。

 それは、19勝1敗で3タイトルを獲得した彼の素晴らしい2017年序盤の一環だった。その後、彼はまた休養をとり、全仏オープンを含むクレーコート・シーズンを丸々スキップしている。

「昨年の僕は、どんなふうにフォアやバックを打つ必要があるかとか、対戦相手を困らせるにはどうすべきかを考える代わりに、膝がどんな具合かのほうに気持ちを集中させていた。そのため、決してのびのびとプレーすることできないでいた」と、フェデラーは言った。

「今年、僕はふたたび普通のテニスプレーヤーになった。今や僕は、戦略に集中することができる。それが違いなのだと思う。僕はすごくいいプレーをしている。休養をとったおかげで元気があり、活力を感じる。また、自信も感じている。そうなれば素晴らしいことも起こり得る」

 例えば1974年以降でもっとも年齢の高いウィンブルドン準決勝進出者になることも、そのひとつだ。

 おそらくテニス界の頂点にいる彼のライバルたちも、秘訣を書き留めるべきなのかもしれない。

 オールイングランド・クラブで3度優勝したジョコビッチは右肘の故障のため、しばらくの間、ツアーを離れて休養することを考えていると言った。その肘の痛みがあまりに強くなったがために、ジョコビッチは対トマーシュ・ベルディヒ(チェコ)との準々決勝を、第2セットの途中で断念しなければならなかった。

 2013年と2016年にウィンブルドンで優勝したマレーが、長い休養を考慮することもあり得る。サム・クエリー(アメリカ)に6-3 4-6 7-6(4) 1-6 1-6で敗れた試合の間、彼は目に見えて左腰の痛みにプレーを妨げられていた。

「我々はふたりとも、多くの試合、多くの感情を潜り抜け、多くのことが起きた、非常に長くてタフな年を送った」とジョコビッチは言った。「フィジカル的に、それが体に堪えたんだ」。

 次の試合で、第3シードのフェデラーは第11シードのベルディヒと対戦し、第24シードのクエリー----アメリカ人男子選手がグランドスラム大会準決勝に勝ち残ったのは、2009年以来のことだ----と、第7シードのマリン・チリッチ(クロアチア)が対戦する。トップ2シードのマレーとジョコビッチは、今年のウインブルドンからすでに敗退した。

 やはり2度優勝している第4シードのナダルも4回戦で敗れた。

「もちろん、彼らの敗退には驚いたよ」とフェデラーは言った。

 しかし誰も、フェデラーがまだ勝ち残っていることに驚いてはいないはずだ。(APライター◎ハワード・ヘンドリック)(翻訳◎テニスマガジン)

※写真は「ウィンブルドン」準決勝に進んだロジャー・フェデラー(スイス)。1月の全豪オープンに続く決勝進出を目指す。(撮影◎小山真司/テニスマガジン)