加熱するパリ五輪代表選考レースに絡むミキハウス所属の4選手が6月、卓球世界最強国の中国に渡り甲Aリーグに参戦した。中国から打診を受け出場した大会は「2023年度中国卓球クラブ甲リーグ」<6月21~28日>。日本が誇るカットマン佐藤瞳と橋本帆…

加熱するパリ五輪代表選考レースに絡むミキハウス所属の4選手が6月、卓球世界最強国の中国に渡り甲Aリーグに参戦した。

中国から打診を受け出場した大会は「2023年度中国卓球クラブ甲リーグ」<6月21~28日>。日本が誇るカットマン佐藤瞳と橋本帆乃香、ドライブ主戦型の芝田沙季と大藤沙月の4人がTリーグNOJIMA CUP(17~18日)を終えた翌日に日本を発ち、21日から27日まで同大会に出場した。

甲Aリーグは中国最上位の超級リーグのすぐ下に位置し、さらに下部には甲B、C、D、乙A、Bが続く。

4人は佐藤と大藤が「寧波大学」、芝田と橋本が「深圳大学」に分かれて出場。寧波大学が2位、深圳大学は見事、優勝を果たした。

現在、パリ五輪代表選考レースで185ポイントを獲得し4位の佐藤は、カットマンの少ない中国では「カット打ちが上手い選手はあまりいなかった」と言うものの、「ボールの回転量や質が高く、ボール自体も中国人選手が使い慣れているダブルフィッシュ(双魚)だったこともあって調整に少し時間がかかった」と振り返る。

とはいえ、佐藤といえば2019年のITTFワールドツアー・ジャパンオープン荻村杯とグランドファイナルの大舞台で、元世界女王の丁寧(中国/2021年に引退)から2勝を挙げた実績の持ち主。今回、甲Aリーグの選手からもマークされる中で全勝した。

「今、海外ツアーにほとんど出ていないので、やったことのない選手とたくさん試合をしながら練習にもなりました。かつて中国国家チームにいたカットマンの選手も出ていて、いくつか参考になったこともあります。例えばネットミスが続いた時のラケット角度の調整とかは今後に生かせそうです」

佐藤によれば、日本でもTリーグ参戦で知られる袁雪嬌や海外ツアーに出場している元世界ジュニアチャンピオンの石洵瑤らシニアで活躍中の選手もいたが、多くは中国国家チームを引退した選手とジュニアの選手が中心だったとのこと。

そうした環境下でベテラン選手が若い選手たちを指導する姿も層の厚い中国リーグならではだと感心したという。

佐藤とともに寧波大学チームの一員として戦った大藤は自身の課題克服の足がかりを掴んだ様子だ。

「自分は回転量の多いボールへの対応が課題なのと、何本でも打ち返してくる選手と試合をするのが苦手。中国人選手はそれが上手いので、たくさん試合をしてだいぶ対応できるようになりました」と話す。

さらに、中国人選手は「基礎がしっかりしていて体の使い方が綺麗」とも。かく言う大藤は姿勢が前屈みになり過ぎて打球のタイミングが合わず、前後の動きでミスが出ることがあるという。

その点、中国人選手は「ボールをしっかり引きつけて、正しい姿勢で打つので簡単なミスが少ないと思った」と分析する。

ユニークな感性の持ち主である彼女は中国人のメンタリティにも独自の視点で言及。

「みんな性格的にさばさばしていて選手同士、言いたいことを言い合っている。自分は例えばダブルスでミスをするとパートナーに申し訳ないと気落ちしてしまうけど、中国人はあまりそういうのがなくていいなと思いました」と語った。

今春、四天王寺高校を卒業したばかりの18歳で伸び代たっぷりの大藤。中国での経験がプラスになったことは言うまでもないが、唯一、悔やまれるのは最終日に体調を崩し欠場したことだ。

久しぶりの海外で慣れない環境だったのと、中国へ行く前日までTリーグNOJIMA CUPの激戦でベスト4に勝ち上がった疲れもあった。コンディショニングも今後の課題と言えるだろう。

中国側からカットマンと試合経験を積みたいという要望があったため、橋本は全試合、相手チームのエースと対戦して全勝。優勝に大きく貢献する中で大藤と同じように、中国人選手の姿勢の良さに自身のプレーを改善するヒントを得たという。

また、最後まで相手に食らいつく中国人選手の気持ちの強さにも感化された。

「勝利に対する執念がすごくて、カット打ちに慣れていない選手も最後まで試合を捨てません。自分は試合数が増えてくる後半戦、どうしても疲れが出て集中力やプレーの質が落ちてしまいやすいんですけど、『負けられない』という気迫が湧いてきました」

橋本は昨年7月、世界ランクが無い状態でWTTフィーダー ヨーロピアン サマーシリーズ(ブダペスト)に出場し、約2年ぶりの海外ツアーで中国人3人を撃破し決勝へ進んだ。

決勝では中国でトップ10を争う何卓佳にゲームカウント2-4で敗れたものの、カットマンの進化を見せつけた。

国内でも直近のTリーグNOJIMA CUPで伊藤美誠(スターツ)と準々決勝で対戦し、フルゲームの死闘の末に敗れたがベスト8に食い込むなど安定した成績を残す。

今回、中国で受けた刺激は百戦錬磨の橋本にさらなる進化をもたらすはずだ。

芝田もまた全勝でチームの優勝に貢献した。

TリーグNOJIMA CUPでは2回戦で笹尾明日香(日本生命)に攻め込まれ反撃できずに終わり、落胆は大きかった。だが、直後に中国で試合三昧の日々を過ごしたことで、思いのほか早く気持ちを切り替えられたそうだ。

「中国で1週間、試合をさせてもらったおかげで、日本へ帰ってきてから男子のトレーナーさんのボールを受けてもそんなに威力で押されなくなりました。あと中国の選手は回転量の幅も広いなと感じました」

芝田が中国遠征に掲げたテーマは、思い切った戦術転換だ。

「自分は攻めるより(ボールを台に)入れる卓球になりやすいので、相手のプレーや展開次第でもっと思い切って戦術を変え攻めていけるようにしたいと思っています。中国では勝ち負けを意識しながらも内容を重視し、これまで練習してきた技術や戦術を一つ一つ出せた手応えがありました。そういう意味で中国へ行って良かったし、モチベーションも上がりました」

こうして息を吹き返した芝田(選考ポイント8位)は佐藤、橋本(選考ポイント10位)、大藤(選考ポイント12位)らとともに第5回パリ五輪代表選考会の「2023全農CUP東京大会」<7月22~23日/東洋大学赤羽キャンパスHELSPO HAB-3>に出場する。
 
それぞれ1回戦は芝田が森さくら(日本生命)、橋本は張本美和(木下アカデミー)、そして佐藤と大藤はチームメート同士の対戦となる。
中国から持ち帰った成果をここ一番で発揮できるか。選考会のみどころは尽きない。


(文=高樹ミナ)

■女子 2024年パリ五輪選考ポイント
女子上位10名(2023年7月22日現在)

順位 選手名 合計ポイント
1位 早田ひな 497.5P
2位 平野美宇 312P
3位 伊藤美誠 275.5P
4位 木原美悠 228P
5位 佐藤瞳185P
6位 長﨑美柚 180P
7位 張本美和 170.5P
8位 芝田沙季 143P
9位 森さくら 128.5P
10位 橋本帆乃香 106P