7月8日~9日に富士スピードウェイで開催された全日本スーパーフォーミュラ選手権の第3戦は、気温30度という真夏日のコンディションになったことも影響してか、波乱の展開となった。ファステストラップを叩き出して2位に食い込んだローゼンクヴィ…

 7月8日~9日に富士スピードウェイで開催された全日本スーパーフォーミュラ選手権の第3戦は、気温30度という真夏日のコンディションになったことも影響してか、波乱の展開となった。



ファステストラップを叩き出して2位に食い込んだローゼンクヴィスト

 レースはポールポジションからスタートした昨年の年間王者、国本雄資(P.MU/CERUMO・INGING)が序盤からリードを広げ、今季初優勝は確実かと思われた。ところが、ピットストップを終えた直後の32周目にマシントラブルでスロー走行となり大きく後退。結果、リタイアとなってしまった。代わってトップに立ったのは、チームメイトで一昨年の年間王者、石浦宏明(P.MU/CERUMO・INGING)。そのままチェッカーフラッグを切って今季初優勝を飾り、ポイントランキングでもトップに躍り出た。

 第3戦・富士では、他を圧倒する国本と石浦のふたりが際立っていた。だが、それ以上に注目を集めたのが、今年から参戦している25歳のフェリックス・ローゼンクヴィスト(スウェーデン/SUNOCO Team LeMans)の走りだ。10番グリッドのスタートながら、前回の第2戦・岡山でのRace1に続いて今季2度目のファステストラップを記録。新人らしからぬ速さとレース戦略で、2位表彰台を獲得した。

 今年は5人のルーキードライバーがスーパーフォーミュラに参戦しているが、なかでも開幕前から注目されていたのは、昨年のGP2王者で将来F1へのステップアップも期待されているピエール・ガスリー(フランス/TEAM無限)だった。しかし第3戦を終え、ローゼンクヴィストの評価が日に日に高まっている。

 スウェーデン出身のローゼンクヴィストは2008年にアジアン・フォーミュラ・ルノーで4輪レースデビューを飾ると、2010年にはF3へとステップアップし、ドイツF3選手権やヨーロッパF3選手権などのカテゴリーで合計6シーズンを戦ってきた。その間、かつてアイルトン・セナやミハエル・シューマッハらが優勝し、「F1への登竜門」とも言われていたマカオF3グランプリを2014年・2015年と2年連続で制している。この時期のマカオF3には、現在F1で活躍するエステバン・オコン(フランス/フォースインディア)やランス・ストロール(カナダ/ウイリアムズ)も参戦していた。

 2016年は電気自動車で争われる「フォーミュラE」への参戦を開始したほか、インディカー・シリーズのひとつ下のカテゴリーにあたるインディ・ライツや、ドイツツーリングカー選手権(DTM)にもスポット参戦する。そして今年6月に行なわれたル・マン24時間レースにはLMP2クラスからエントリーし、12位で完走を果たした。

 このようにローゼンクヴィストは、25歳ながら実にさまざまなレースカテゴリーを経験しているドライバーだ。今年はフォーミュラEをはじめ、他のレースと兼務しながらスーパーフォーミュラにも参戦できるということで、日本にやってきた。

 開幕前のテストはスケジュールの都合で参加できない日もあり、走り込み不足が影響したのか初戦の鈴鹿では11位と苦戦した。しかし、第2戦の岡山では本来の実力を徐々に発揮し、土曜日のRace1ではファステストラップを記録。さらに日曜日のRace2では、15番手から11台抜きを演じて4位でフィニッシュしている。特にそのレース終盤では、2011年王者のアンドレ・ロッテラー(ドイツ/VANTELIN TEAM TOM’S)を最後まで追い回すなど、アグレッシブな走りを見せていた。

 そして今回の富士で、予選こそ10番手と上位に食い込めなかったものの、スタートでポジションを上げると、またもファンや関係者の印象に残るレースを披露する。上位集団の背後についてチャンスをうかがい、10周過ぎからライバルが早めのピットインで給油やタイヤ交換を済ませるなか、ローゼンクヴィストはレース後半まで周回を重ねてからピットストップを行なう作戦に出た。

 ライバルのピットインで前がクリアになったローゼンクヴィストは、自分のペースで無理なく周回していった。そして36周目、2番手まで順位を上げたところでピットイン。給油とリアタイヤ2本を交換してピットアウトすると、序盤にローゼンクヴィストの前方を走っていたライバルたちを逆転し、そのまま2位のポジションを手に入れることに成功した。

 その後もローゼンクヴィストの勢いは止まらず、トップを快走する石浦に近づこうとペースアップ。46周目には1分25秒581を記録し、ファステストラップを叩き出した。最終的には石浦を逆転できなかったが、7.2秒差に迫る2位でチェッカーフラッグを受けた。

 2戦連続で後方グリッドから大逆転劇を見せたローゼンクヴィストだが、喜びを爆発させるようなことはなく、表彰式でもクールなまま。ただ、着実にスーパーフォーミュラへの手応えは掴んできているようだ。

「優勝することが目標だけど、このカテゴリーはドライバーのレベルが非常に高く、そう簡単に上位にいくことはできない。今日の2位は予想以上にいい結果だったね。今の僕たちの課題は予選。そこで上位にいけないと、レースも苦しい展開になってしまう。予選でのパフォーマンスを上げられるかが、後半戦の課題となるだろう。

 岡山では(Race1とRace2でそれぞれ)14番手と15番手からのスタートだったし、今日も10番手と決していい位置からのスタートではなかった。これが5番手以内でスタートできるようになれば、優勝も狙えるだろう。でも、徐々によくなってきているよ」

 今年からスーパーフォーミュラに参戦するローゼンクヴィストにとって、日本のコースはすべて初体験だ。最近ではシミュレーターで事前に練習して本番に臨む若手ドライバーも増えているが、ローゼンクヴィストはコースを覚えるためにそれを活用することはほとんどないという。最近の若手ドライバーのなかでは、非常に珍しいケースかもしれない。

「シミュレーターで練習しても、僕はあまり有益な情報が得られないと思っている。それよりオンボード映像をとにかく繰り返し見るようにしているよ。このコース(富士)はF1も開催されたことがあったし、以前から知っていたけどね。

(次戦の)もてぎはハードブレーキングが必要なコースで、今回とはまたキャラクターが違う。真夏の暑いレースにもなりそうだしね。今回の富士ラウンドに集中していたから、もてぎについてはまだ詳しく調べられていない。これからもっと勉強しないといけないね」

 レース後、次回の第4戦・ツインリンクもてぎについても、そのように展望を語ってくれた。

 今回の2位で、ローゼンクヴィストのポイントランキングは5番手まで浮上。展開次第ではチャンピオン争いに絡める可能性も出てきた。ただ、本人は「欲を言えば早いうちに優勝したいとは思っているけれど、(スーパーフォーミュラは)非常にレベルが高くてタフなのは確か。僕も苦労している部分はあるよ」と冷静に語る。

「岡山では予選で他のマシンに引っかかって本来のパフォーマンスを引き出せなかったし、予選でのタイヤの使い方やウォームアップの仕方についても、もっとうまくできるようにならないといけない。クルマについても、まだまだ学ばなければいけないことがたくさんある。特に僕はルーキーなので、今の自分のポジションをしっかり考えながら、1戦1戦に臨んでいきたいね」

 シリーズ後半戦、25歳のスウェーデン人が台風の目になることは間違いないだろう。課題としている予選でのパフォーマンスが改善されれば、チャンピオン候補に一気に名乗りをあげる可能性は十分にある。