6月9~20日、UAE・ドバイで行われた車いすバスケットボール世界選手権。グループリーグを4位通過した女子日本代表は、準々決勝で東京2020パラリンピック銀メダルの中国と対戦した。結果は52-60で敗れはしたものの、ディフェンスでは中国を翻…

6月9~20日、UAE・ドバイで行われた車いすバスケットボール世界選手権。グループリーグを4位通過した女子日本代表は、準々決勝で東京2020パラリンピック銀メダルの中国と対戦した。結果は52-60で敗れはしたものの、ディフェンスでは中国を翻弄し、15ものターンオーバーを奪った。3Qでは一時逆転に成功するなど、しっかりと爪痕を残した中国戦を振り返る。


中国に善戦し、大きな成長を見せた女子日本代表

選手層の厚さで乗り越えたファウルトラブルの危機

「自分たちのベストを更新しよう!」
試合前、そう言ってチームメイトを鼓舞したというキャプテンの北田千尋(4.5)の言葉通り、日本は中国に対して臆することなく、堂々と互角に渡り合った。いや、試合内容からすれば自分たちのバスケットをさせてもらえずに苦しんでいたのは、明らかに中国と言ってよかった。


コート内外で声をかけ、チームを鼓舞し続けたキャプテン北田千尋

まずは1Qの前半、中国が最大6点のリードを奪った。しかし、そのうち得意とするハーフコートでのセットオフェンスからの得点は少なく、日本のオールコートのディフェンスをなんとかブレイクしてのレイアップシュートでの得点が多くを占めていた。

一方、ディフェンス面は狙い通りだった日本も、シュートが決まらずに得点が伸びなかった。しかし中盤に柳本あまね(2.5)の3Pシュートが決まると流れを引き寄せ、1点差にまで迫った。ところが残り2分間、日本のシュートが再びリングに嫌われている間に、中国に3連続得点を奪われ、15-22で1Qを終えた。

続く2Qは一進一退の攻防が続いたなか、中盤に先に中国がタイムアウトを取った。その時点で中国のリードは7点あり、日本に連続得点を奪われたわけでもなかった。それだけ中国には焦りがあったのだろう。主導権を握りつつあったのは、やはり日本の方だった。

しかし、そのタイムアウト明け直後、日本にファウルトラブルが起きた。1Qから相手のビッグマンがオフェンスファウルの判定を受けてしまうなど巧みなディフェンスでチームに大きく貢献していた財満いずみ(1.0)が、3つ目のパーソナルファウルを取られたのだ。ここで岩野博ヘッドコーチ(HC)は財満を一度ベンチに下げる決断をした。日本にいい流れが来ていただけに、これが大きな痛手となる可能性も十分に考えられた

だが、それは全くの杞憂に終わった。財満と交代した若手の石川優衣(1.0)が先輩と遜色ないディフェンスを見せ、流れを切らさなかったのだ。その証拠に、石川に交代した後、日本は中国から8秒、24秒バイオレーションを奪っている。この石川のディフェンスに対して岩野HCも「あそこで優衣が本当に頑張ってくれたことが大きかった」と高く評価した。


力強いディフェンスでチームに勢いをつけた石川優衣

さらに日本は強いコンタクト狙いのディフェンスをすることでファウルが重なり、中盤にはすでにチームファウルが5つを数えたが、中国はフリースローをすべて外すという事態に陥った。日本のシュート確率も上がらなかったために、中国のリードは変わらなかったものの、2Qのスコアは8-10と互角に渡り合った。

大きな手応えがあったからこそ募った悔しさ

そして3Qは、日本が完全に試合の主導権を握り、猛追した。バックコートバイオレーションを犯すなど普段では考えられないミスが続いた中国をしり目に、チームの起爆剤となったのが今大会チーム一のポイントゲッターとして活躍した柳本だ。序盤に立て続けにミドルシュートを決めると、終盤には3連続得点を奪い、一人で10得点と独壇場とした。さらに北田も3ポイントシュートを決めるなど7得点。アシストでチームを支えた網本の得点もあわせて、日本は中国の11得点を上回る19得点を挙げた。42-43と日本は1点差に迫り、最終Qを迎えた。

4Qが始まった直後に石川のファウルで得たフリースローを1本決めた中国が2点リードとしたが、副キャプテンの萩野真世(1.5)の連続得点で46-44。いずれも柳本のアウトサイドシュートを警戒する相手の裏をついたピックアンドロールからのレイアップだった。これでついに日本が逆転に成功した。


4Qの逆転を呼び寄せた副キャプテン萩野真世

すぐに中国が再び逆転するも、その後は1ポゼッション差(1度の攻撃機会で追いつくことができる3点以内の差)での激しい競り合いが続いた。だが「シュート力の差だった」と指揮官が語った通り、最後の残り4分間で10得点を挙げた中国に対し、日本は柳本のミドルシュート1本にとどまった。

結果的に52-60で敗れたものの、ディフェンスへの手応えは大きな自信となったことは間違いない。だからこそ勝ち切れなかった悔しさが募ったのだろう。試合後、キャプテンの北田は涙をこらえながら、こう語った。「ベストを更新できたゲームでしたし、やれることはすべてやり尽くしたという自信があります。ただ勝負できたのに勝ち切れなかった自分たちの現在地を思い知り、ただただ悔しいなという思いです」

実は2019年のアジアオセアニアチャンピオンシップス(AOC)でも、同じく8点差で中国に敗れた試合があった。しかし一度も逆転にまでは届かなかった当時と今回とでは、意味合いも手応えの大きさも違うはずだ。内容からすれば日本は狙い通りのバスケットを遂行し、苦戦を強いられていたのは中国の方だったことは明らかだった。

中国が格下の相手だった頃から対戦してきたチーム一の経験値を持つ網本は、久々に中国相手に日本の強さを感じられたこのゲームについて、悔しさをにじませた。「自分たちの力をこんなにも中国にぶつけることができるんだと感じることができた試合でした。これまで中国との力の差を感じた時期もありましたが、今は逆転する力を持っていることをチーム全員が感じることができたと思います。AOCでは絶対にやり返したいと思います」

コロナ禍で練習がままならなかったという中国だが、東京2020パラリンピックに続いて決勝に進出し、銀メダル獲得と地力は本物だ。一方、日本は東京パラリンピックの6位から順位を一つ下げて7位という結果となった。しかし、日中の実力差は決して開いてはいない。それどころか、確実に中国との距離は縮まったと言っても過言ではないだろう。

今後は10月のアジアパラ競技大会を経て、冬にはパリパラリンピックの切符がかかったAOCが控える。その本番に向けて、どちらの成長が上回るか。日中の熱き戦いに注目が置かれる。