昨季女子ツアーにおいて史上最年少の年間女王に輝いた山下美夢有が今季も好調だ。すでに4勝を挙げて、メルセデスランキングのトップを快走している。その強さについて、いくつかのスタッツを参考にしつつ、永久シード保持者の森口祐子プロに話を聞いた――。…

昨季女子ツアーにおいて史上最年少の年間女王に輝いた山下美夢有が今季も好調だ。すでに4勝を挙げて、メルセデスランキングのトップを快走している。その強さについて、いくつかのスタッツを参考にしつつ、永久シード保持者の森口祐子プロに話を聞いた――。



今季も安定したゴルフを見せてメルセデスランキングのトップを独走している山下美夢有

「私は、ここ数年の女子ツアーにおける20歳前後の若い選手の台頭は、トーナメントのコースセッティングを世界基準に即して、『距離をのばす』という方向にいっていることが影響していると思っています。

 現に今シーズンの成績上位者には、岩井明愛・千怜姉妹をはじめ、若手のロングヒッターが名を連ね、男子と同じように女子ツアーでも飛距離がアドバンテージになっていることは間違いありません。

 そんななかで異才を放つのが、山下美夢有さんです」

 山下の強さについて話を聞くと、まずそう語った森口祐子プロ。確かにドライビングディスタンスのデータを見ると、山下の平均飛距離は236.36ヤードでツアー58位(7月13日時点、以下同)。どちらと言えば、下位の部類に入る。

 翻(ひるがえ)って、ルーキーイヤーながらツアー初優勝も飾っているトップの神谷そらは平均259.07ヤード。森口プロが例に挙げた岩井姉妹は、千怜が平均254.14ヤード(6位)、明愛が252.53ヤード(7位)で、山下とドライビングディスタンスのランキング上位者とは約20ヤード前後の差がある。

 山下にとってみれば、ロングヒッターに対してはドライバーを打つホールごとに、それだけ大きなハンデを抱えていることになる。それは、明らかに厳しい状況にあると言える。にもかかわらず、山下は今季、すでに4勝を挙げてトップ10フィニッシュが11回。並みいる飛ばし屋たちを凌駕している。

 ではなぜ、彼女は飛ばなくても結果を出せるのか。

 まず注目したいのは、パーオン率(※パーオンは、パーの打数から2を引いた打数以内でグリーンに乗せることを言う。パー3なら1オン、パー4なら2オン以内、パー5なら3オン以内)だ。スコアアップにつながる最重要スタッツであるが、現在その首位の座を争っているのは、岩井明愛(73.7463%/1位)と山下(73.2547%/2位)である。

 山下より、およそ20ヤードも前から打てる(=短いクラブで打てる)岩井明愛のほうが明らかに有利に思えるが、その差はわずか。そこに、山下の強さの一端が表れているのではないだろうか。

「おそらく山下さんは、そもそもドライバーに関しては無理に飛ばそうと思っていないと思います。女子の選手にありがちな、飛ばそうと思った時に体を揺さぶり、クラブに振られるような動きが一切見られませんから。

 身長150cmと小柄ながら、頭がほとんど動かない、軸をきっちり保ったスイングで、インパクトでは顎先や目線がしっかり下を向いています。まるで練習場で球を打っているようなリズムで常に振っていて、その姿からはアドレスに入る前に決めたとおりに振るだけ、という意思が感じられます。

 飛ばすことに対する欲望もあるのだろうけど、そういった気持ちとクラブをうまくコントロールしているスイングなのかなと思いますよね」

 そう語る森口プロは続けて、山下がドライバーの飛距離にこだわらない点について次のように分析する。

「飛ぶ選手が7番アイアンで打つところで、山下さんはUTを使用するとしても、同じくらいの精度のショットが打てる、という自信があるからではないでしょうか。その背景には、父親でコーチでもある勝臣さんの指導によって、早くから弾道測定器(トラックマン)を使って、自分のショットと弾道の分析ができている、という強みがあるからだと思います。

 事実、解説の予備取材のために試合の練習日に話を聞いた時、彼女に各クラブの飛距離を聞くと、『7番アイアンは143ヤードです』という答え方をします。多くの選手は『140~150ヤード』と言ったりしますが、彼女の回答は明確。クラブごとの平均飛距離を、それだけ正確に把握しているわけです。

 そういった数字に裏打ちされた正確なショットが身についているからこそ、長いクラブでも精度の高い球を打てる自信がある。それで、ドライバーで無理に距離を出そうとしてラフにいくよりも、距離を抑えてでもフェアウェーから打つ、というマネジメントができているのだと思います」

"前から打つ"か、"真ん中から打つ"か――パーオン率を巡る争いは今後も熾烈を極めそうだが、"パーオン"には次打のバーディーパットを決めてこそ実を結ぶ、という意義があると考えれば、フェアウェーの"真ん中から打つ"山下のマネジメントに分がある、という見方ができる。

 というのも、バーディー数というスタッツを見れば、山下が238個(17試合)で1位。片や、岩井明愛は230個(18試合)で2位だからである。

「グリーン上で狙ったところに球を止めるには、スピンコントロールが大事、ということは以前から言われていることですが、最近の女子ツアーでは『グリーンを固くする』傾向があることから、それに加えて、弾道の落下角度(ランディングアングル)の重要性も増してきています。

 グリーン上で球を止められる落下角度の目安としては、40度は必要とされていますが、山下さんはトラックマンの弾道分析によってクラブごとの落下角度も、そしてスピン量も算出できているはずです。

 そのうえで、彼女はピンにより絡む、数値に裏づけされた攻略ルートがわかっていて、そのショットを打てる技術がある。それが、ドライバーの飛距離を少し抑えてでもフェアウェーに打つ、という選択になっていると思います」(森口プロ)

 フェアウェーキープ率は、山下が78.6346%で2位。一方の岩井明愛は61.8205%で62位。パーオン率はほぼ同じながら、この差が"前から打つ"岩井明愛より、"真ん中から打つ"山下のほうがピンに絡むショットの精度を高め、バーディー数の違いにつながっているのだろう。森口プロが言う。

「山下さんの強さは、データと技術に裏打ちされたコースマネジメント力と、それをやりきる精神力にあると思います」

森口祐子(もりぐち・ゆうこ)
1955年4月13日生まれ。富山県出身。女子プロゴルファー。現在は解説者としても活躍している。ツアー通算41勝。JLPGA永久シード保持者