7月8日・9日の2日間、バスケットボール日本男子代表チームはチャイニーズタイペイとの強化試合を静岡・浜松アリーナで行ない、それぞれ108-86、92-56と快勝を収めた。 この2試合は、8月下旬に開幕するFIBAワールドカップ(沖縄など6…

 7月8日・9日の2日間、バスケットボール日本男子代表チームはチャイニーズタイペイとの強化試合を静岡・浜松アリーナで行ない、それぞれ108-86、92-56と快勝を収めた。

 この2試合は、8月下旬に開幕するFIBAワールドカップ(沖縄など6都市で開催)へ向けて行なわれる強化9試合の最初のシリーズということだけでなく、日本のエース・八村塁(PF/ロサンゼルス・レイカーズ)のワールドカップ出場辞退を受けて「誰がその穴を埋めるのか」という目線でも注目された。

※ポジションの略称=PG(ポイントガード)、SG(シューティングガード)、SF(スモールフォワード)、PF(パワーフォワード)、C(センター)。



八村塁の抜けた穴をホーバスHCはどう埋める?

【W杯の目標はパリ五輪出場権】

 2019年に日本人史上初のNBAドラフト1巡目指名を受け、以降、世界最高峰の舞台でプレーする八村が「日本代表ナンバー1の実力者」であることに異論の余地はあるまい。彼の代表不参加は、前回のワールドカップおよび東京オリンピックでの全敗から「世界での1勝」を狙う日本男子代表チームの成否に大きく関わることだ。

 もっとも、八村の辞退は想定内だったということで、トム・ホーバスHC(ヘッドコーチ)や選手たち、大方の面子(めんつ)の反応は冷静だった。

 そのなかで、八村とともに東京オリンピックのメンバーに選ばれていた渡邉飛勇(C/琉球ゴールデンキングス)は「ワールドカップが沖縄であって、パリオリンピックへの切符が保証されていない状況で彼が来ないというのは、僕にとっては驚きでした。八村選手抜きでアジアのトップになることは簡単ではありません」と話す。

 ワールドカップでアジア勢の1位となれば、来夏のパリオリンピックへの出場権を得られる。日本代表にとって、そこが今大会の現実的な目標だ。

 では、日本代表は「八村不在」にどう対処していくのか。25歳のフォワードに比肩する力量の持ち主などいない。それゆえ、現実的には出場する者のそれぞれが力量を最大限発揮するしか道はない。

【インサイドで八村タイプは?】

「みんなが(八村の不在を埋めるべく)少しずつステップアップしないといけない。だから、八村がいないとか誰かがいないとかじゃなく、全員がもっと頑張ってほしいです」

 八村の出場辞退について問われたホーバスHCは、そのように話している。

 チャイニーズタイペイとのシリーズは、シーズンが終わってしばらく時間も経過し選手たちのコンディショニングも十全に整わず、かつ相手が格下であることを考えれば、その結果自体に大きな意味を見出すことはできない。

 それでも八村の辞退によって、とりわけインサイド陣でのポジション争いが一層、激化することとなる。選考の「ボーダーライン」にいる選手たちにとっては、このシリーズも自身の存在を示すための重要な選考レースのはずだ。

 この2試合でもっとも光を放ったのは、吉井裕鷹(SF/アルバルク東京)だった。吉井は1試合目に11得点、2試合目にチーム最多の16得点を挙げたが、オフェンスリバウンドからのレイアップやキャッチアンドシュート(パスを受けてからの速射)による3P、スティールからのダンクなど、インサイドとアウトサイドの両方で暴れた。

 吉井は将来を見越して、プロ入り前からオールラウンダーとしての技量を磨いてきた。だが一方で、動きはけっして滑らかではなく器用なタイプとは言えない。むしろ彼の最大の魅力は接触を恐れず、自分から相手選手に対して体をぶつけにいくところだ。

 日本代表の面子を見渡すと俊敏で器用なタイプの選手が多いものの、体をゴリゴリとぶつけながらプレーする選手もチームにとってなくてはならない。その意味では、もっとも八村に似通ったプレースタイルを持っているのが「無骨な働きをする」吉井だと言えるかもしれない。

 吉井はプレーだけでなく、言葉も無骨だ。そしてそれが不思議な魅力にもなっている。

 昨夏のワールドカップ・アジア地区予選ウインドウ4。テヘランでのイラン戦と沖縄でのカザフスタン戦で、吉井は3Pを計6本放つが1本も沈められず、そのほかのシュートでもフィニッシュの精度を欠いた。

【八村辞退で影響大の選手は?】

 だが、この時の吉田は「トムさんが大事にしているシュートが今、自分自身『ハマっていない』。そこは改善が必要」としながらも、3Pについてはどれだけ入らなくても「打ち続けるメンタリティを作らなければならない」と話していた。

 そこから1年近くが経ち、チャイニーズタイペイとの試合では攻守においてまったく迷いがなく、自信を持ってプレーしているように見受けられた。そこについて問われた吉井は、あくまで無骨な物言いでこう答えた。

「空いたらシュートを打つ。ドライブして相手(ディフェンス)が詰めてきたらキックアウト。トムさんのバスケットのベーシックなところをやっていくだけですね」

 昨夏、吉井はワールドカップやオリンピック出場へ「特段、意識をしていない」と語っていた。ワールドカップの開幕が迫り、選考で生き残りが激化する今も「レベルの高い国のチームとやった時に、どれだけ自分の力が発揮できるかという楽しみ以外は変わっていない。一瞬、一瞬、毎日、毎日、チームがステップアップできるように心がけています」と、あくまで愚直な物言いだ。

 オールラウンダーの技量を磨き、SFとしてもPFとしてもプレーできる吉井だが、世界の舞台においてはいずれもアンダーサイズ(やや身長が低い)。だが、フィジカルなプレーをいとわない吉井は「八村の穴を誰が埋めるか」という視点では、最初に浮かぶ存在だ。

 一方、八村の辞退でもっとも直接的な影響を受けるかもしれないのが、川真田紘也(C/滋賀レイクス)だ。というのも、日本がスピードと3Pを重視したスタイルを敷いているとされながらも、相手のビッグマンを守ってリバウンドを確保する役割を担う「サイズの大きな選手」の頭数が必要となるからだ。

 現状の代表候補を見渡すと、帰化枠のジョシュ・ホーキンソン(C/サンロッカーズ渋谷)のワールドカップメンバー選出は確実で、跳躍力や機動力に優れリバウンダーとして期待される渡邉飛勇(今回のチャイニーズタイペイ戦は体調不良で欠場)も選ばれる確率が高い。

【椅子が空いたのはチャンス?】

 しかし、それだけではまだ「駒」の数は足りないはず。となれば現状、面子を見渡して誰が「次の駒」となりうるのかを考えた時、川真田が筆頭に来るのではないか。

 とはいえ、それは「ジョーカー」的な選出かもしれない。川真田は身長204cm・体重110kgと骨太のセンターで、スキル面で器用さを備えているかといえば、自身が「まだ3Pという武器がない」と認めるほど粗いところが目立つ。つまりは「現代風」というよりも、昔ながらの「肉体を生かしながらリング近くでプレーをする」タイプだ。

 ワールドカップ・アジア地区予選では、ウインドウ1から代表候補に選ばれながら試合出場はなかったものの、今年2月の予選・最終戦のバーレーン戦でようやくデビューを果たしている。今回のチャイニーズタイペイ戦には2試合とも出場し、計5得点、リバウンド8本(うちオフェンスリバウンドが5本)を挙げるなど、ハッスルプレーを見せた。

 川真田は八村と同じ1998年生まれ(学年は八村がひとつ上)。辞退で空いた椅子を川真田は「チャンス」だと口にする。

「僕たちも真剣に代表としてやっているので、そこはチャンスだと思いながら。今は泥臭く、練習でも試合でも自分のできることをアピールして頑張っています」

 吉井を「無骨」と表現したが、川真田もまた起用で流麗なプレーぶりを持った選手ではない。だが、肩幅の広さを生かしながらガムシャラにリバウンドを取りにいく姿勢が評価されれば、日本代表の一角に入ってくるかもしれない。

 一方、常に代表入りしている井上宗一郎(PF/越谷アルファーズ)の立場はやや危うくなってきたか。

 井上は201cmのビッグマンながら卓越した長距離シュートの能力を持ち、3Pを重用するホーバスHCに見出された「ホーバス・チルドレン」のひとり。だが、チャイニーズタイペイとの2戦では存在感が薄かった。1戦目では前半にターンオーバーを2度記録し、後半に2本の3Pを決めるも、2戦目はわずか3分半強の出場で無得点に終わった。

【渡邊と馬場もポジション変更】

 昨年7月のアジアカップ後、ホーバスHCは課題だった井上のディフェンスが大会を通じて向上したことを喜んでいた。しかしながら、井上に求められるのはやはりクイックに打てる3Pで、同指揮官もその才能を特別視している。井上はワールドカップ・アジア予選デビュー2戦目から3試合連続で3Pを3本以上決め、アジアカップでは3Pの確率を50%で終えている。

 しかし昨夏以降、序盤からいきなり3Pを決める試合が少なくなっている。ホーバスHCも「もうちょっとシュートを決めないといけない」とコメントしていた。

 八村の辞退による変化について、井上は「インサイドがどういう編成になるか、トムさんの頭の中は僕もわからない」とするも、変わらず自身のやるべきことに集中していくと話した。ただ、ワールドカップ本番を1カ月半後に控える重圧が、井上のなかで大きくなっているのではないだろか。

 ホーバスHCは「八村の辞退でもやるべきことは変わらない」と口にするものの、影響が皆無ということはない。八村が収まるはずだったPFには当初SFの予定だった渡邊雄太(フェニックス・サンズ)が入り、SFにはSGが主の馬場雄大(テキサス・レジェンズ)がスライドする方向性を述べている。

 SFでプレーする場合、馬場は「SGのシューターに気持ちよく打ってもらうため、パスの配球などを増やしていく必要がある」と、そのポジションでのプレーも想定している。

 また、C/PFのホーキンソンは208cmの長身ながら3Pやパスにも秀でる万能選手だが、八村抜きの代表ではディフェンス時によりインサイドでのプレーが多くなると考えている。

「僕はブロックショットにも自信を持っていますし、僕が中にいることで相手の選手がレイアップに来にくくなります。となれば、アウトサイドの選手たちもより激しくディフェンスができますよね」(ホーキンソン)

【ホーバスHCを信じて進む】

 繰り返しになるが、八村不在の穴はあまりに大きい。だが一方で、彼はホーバスHCの代表活動に1度も参加していない。ホーバスHCは東京オリンピックで銀メダルを獲得した日本女子代表を指揮した時と同様、自分たちのバスケットボールを信じきって邁進していくつもりだ。

 馬場はポジティブな口調で、それを代弁する。

「ホーバスHCになってから塁が参加したことはないですし、彼と一緒にプレーしたことがない選手ばかり。塁がどうこうということはみんな考えていなくて、トムと今までやってきたことを遂行すれば、光が見えると思ってやっている。そこはあまり心配いらないと思います。(八村なら毎試合入れていたであろう20得点は)チーム全員で埋めていく気持ちでやります」