大阪で行なわれた全日本強化合宿に参加した坂本花織●新プログラムは 「色っぽさ」を表現 7月8日に行なわれたフィギュアスケートの全日本強化合宿。見学に訪れていた地元の大阪・泉佐野市の観客に対して「北京五輪銅メダリスト」と紹介され、照…


大阪で行なわれた全日本強化合宿に参加した坂本花織

●新プログラムは

 

「色っぽさ」を表現

 7月8日に行なわれたフィギュアスケートの全日本強化合宿。見学に訪れていた地元の大阪・泉佐野市の観客に対して「北京五輪銅メダリスト」と紹介され、照れていた坂本花織(23歳、シスメックス)。

 曲かけ練習は「ドリーム・オン・アイス2023」で初披露したフリーで、アメリカのR&B歌手のローリン・ヒルが唄う『Wild is the Wind/Feeling Good』。

 1回目の曲かけでは、ステップシークエンスからジャンプを跳ばずにコレオシークエンスまで滑ったが、2回目の曲かけではスタートのポーズから始め、ダブルアクセルをきれいに決めると3回転ルッツ、3回転サルコウを跳ぶ。そして、コンビネーションスピンとステップシークエンスと続ける。

 3回転フリップ+2回転トーループで着氷を乱すと、間をとってコレオシークエンスから滑り出し、その後の3回転ループで転倒して苦笑いを見せた。

 練習終盤には曲かけではやらなかった3回転フリップ+3回転トーループを跳ぶ。さらにアクセルはシングルになったがそれに3回転トーループと2回転トーループをつけて3連続ジャンプにした。

 特別コーチのザカリー・ダナヒュー氏にもアドバイスをもらっていたコレオシークエンスをしたあと、3回転ループはまたも転倒となったが、最後のコンビネーションまで滑って締めた。

「プログラムチェックでザカリー先生に呼吸をするタイミングを見つけることを教えてもらいました。私は頑張ると息を止めてしまう癖があるけど、自分のポイントポイントで呼吸をして考え方を変えるところをつくったら切り替えにもなる。そこをこれから練習していきたいと思います」

 フリーの振り付けは昨季と同じマリー=フランス・デュブレイユ氏。諸事情があって曲名をまだ公表できないというショート・プログラム(SP)では初めてジェフリー・バトル氏の振り付けに挑む。

「今までやったことがないイメージのジャズの曲。今までも大人っぽいのはやってきたけど、今までにはないジャンルでちょっと色っぽい部分もあったり。この年齢だからできる曲になっていると思うので、試合でどういう評価が得られるか楽しみです」と坂本は以前話していた。

 そして今回の合宿では「去年よくなった部分をさらに伸ばすためにこのプログラムになった。自分が成長できるように、このプログラムをやりこんでよくなったらいいなと思います」とも語った。

●「あれに比べればマシやな」

 昨季前半、坂本は苦しい戦いを続けた。自身、メダルを獲れるとは思っていなかった北京五輪で、ロシア勢の一角を崩して銅メダルを獲得し気持ちは燃え尽きていた。

 そんな状態で次の世界選手権へ向かっている時、ウクライナへの侵攻でロシア勢が大会に出場できないことが決定。五輪銅の坂本が優勝しなくてはおかしい、と言われるような状況になり、調子が上がっていなかったことも加えて大きなプレッシャーを感じた。

 だがそうしたなか、自己最高の236.09点で初優勝。北京五輪、世界選手権の"二重の燃え尽き"によりモチベーションが保てずにいた。自分の気持ちを上げていくのに苦しんでいたのだ。

 だが、今季はその心配はない。坂本はこう話す。

「昨季のグランプリ(GP)シリーズでは調子が悪いなかで中途半端に上の順位にいっちゃっているなという気持ちがあったけど、練習もできず調子も上げられないで臨んだGPファイナルで5位になって、『あっ、これでいいんだ』と思えて。

 そこからはすごく練習も充実して全日本選手権ではぎりぎり最低限をできるラインまで持っていけました。世界選手権は連覇できたけど完璧ではなかったし、自分のなかではまったく納得できる演技ではなかったので、いい宿題をもらって帰ってきたという感じでした」

 シーズンオフには初めて、自ら1週間スケートから離れる時間をつくってみた。

 昨季とは違ってモチベーションを保てた理由を問われ、坂本は「休みがよかったのかよくわからないけど、去年が一番悪かったから『あれに比べれば今年はマシやな』と思えているのかもしれませんね。

 だから今はスケートが楽しいという気持ちで滑れているので、心身ともにいい状態かなと思います」と明るい笑顔を見せる。

●「やれてあと数年」挑戦と覚悟

 2017−2018年シーズンからプログラムの振り付けをしてもらい坂本を五輪メダリストと世界女王へ押し上げたブノワ・リショー氏から離れ、昨季から新しい挑戦をしている坂本。その理由をこう説明している。

「やっぱり、ブノワ先生にプログラムをつくってもらった5年間があるからあそこまでいけたんだと思うし、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。でも、10年後まで現役でやっているというわけにはいかないし、やれてあと数年だと思っている。

 挑戦する時間も限られているし、やりたいことをやってみたいなとも思って。だから五輪が終わったのを区切りとして、ブノワ先生から一旦離れて、自分のやりたいようにやっている最中です」

 坂本はゴールデンウィーク中にカナダ・モントリオールへ行き、2週間かけて振り付けを練習してきたが、そこでの収穫も大きかった。

「(カナダでは)毎日、朝と夕方にスケーティングスキルの練習をたくさんやりました。本当にすばらしいスケーターの方々にスケーティングをいっぱい教えてもらったので、それをしっかり練習して今季の試合に活かしていきたいです」

 坂本は合宿での手応えを口にする。

「『ドリーム・オン・アイス』でも『ファンタジー・オン・アイス』でも、みんなからスケーティングがよくなったと言われたので、成果が出ていると思います。以前はどうしても力任せで滑ってしまうことが多かったけど、ストレスがなくてもいかにスピードに乗っていけるかというのをモントリオールで学びました。

 それがたまにわからなくなる時もあるけど、今回の合宿でザカリ先生にも教えてもらえたので、もっと練習してシーズンに入ってもやれるようにしたいと思っています」

 新シーズンで目指すのは、全日本3連覇と世界選手権3連覇だ。

「特に世界選手権は去年と今年、振り付けに行ってすごくいい経験をさせてもらったモントリオールで開催されるので、そこにはぜひとも出たいし、去年よりいい成績で終わりたいなと思っています」

 坂本は力強く言う。

「みんなと同じ要素でも頭ひとつ抜け出して、『やっぱりこれが一番だよな』と言ってもらえるようなジャンプやスケーティングができたらいいなと思っています」

 さらに上を目指すその気持ちにブレはない。