アルビレックス新潟にとっては、千載一遇のチャンスだった。 昨季年間勝ち点トップの浦和レッズを相手に、しかもアウェーゲームで、勝ち点1どころか、勝ち点3を手にする可能性がかなり高まっていたのだ。 にもかかわらず、終わってみれば勝ち点1す…

 アルビレックス新潟にとっては、千載一遇のチャンスだった。

 昨季年間勝ち点トップの浦和レッズを相手に、しかもアウェーゲームで、勝ち点1どころか、勝ち点3を手にする可能性がかなり高まっていたのだ。

 にもかかわらず、終わってみれば勝ち点1すら持ち帰ることができなかった。もったいない試合。そう悔やまざるをえない結果である。



レッズ相手に先制したアルビレックスだったが......

 J1第18節、最下位に沈む新潟は、敵地・埼玉スタジアムに乗り込み、浦和と対戦した。普通に考えれば、新潟の劣勢が予想される試合である。まして新潟は、前節終了時点でリーグ戦では5連敗、ルヴァンカップも含めれば7連敗中。最下位脱出、あるいは降格圏脱出への光明を見出しにくい状況にあったのだから、なおさらだ。

 しかし、新潟にとっては幸運にも、と言うべきか、対する浦和もかなりの危機的状況にあった。

 浦和は直近のリーグ戦5試合で1勝4敗と急失速。その間の総失点は、14点にもおよんでいる。順位も8位までズルズルと降下し、優勝を狙うチームとしては、まさに瀕死の状態に陥っていた。新潟側から見れば、浦和と対戦するには絶好のタイミングだったに違いない。

 実際、試合は、そんな浦和の現状が色濃く反映される形で進んでいった。

 序盤こそ、浦和がピッチの幅を広く使う攻撃で主導権を握ったものの、いくつかあった決定機を逃すと、次第にペースダウン。ノッキングを起こすがごとく、攻撃は停滞していった。

 しかも新潟は、35分にラッキーな形で先制(MF矢野貴章のクロスを、浦和のGK西川周作がパンチングで弾いたが、そのボールがFW山崎亮平に”当たり”、ファーサイドでフリーだったMF小泉慶の目の前へ。これを小泉が難なく頭で押し込んだ)。その後、浦和がボールを支配する時間が長く続いたものの、効果的な攻撃は繰り出せず、焦りも手伝ってか、手詰まり感ばかりを強めていた。

 新潟にとっては、これ以上望むべくもないほど、理想的な展開で試合は進んでいたはずだったのだ。

 ところが、新潟はいずれもCKから、74分、79分と立て続けに失点。終わってみれば、1-2の逆転負けである。

「1-0の時間が長かったので、守備をしっかりやってカウンターを狙い、あわよくば2点目を、という感じだったが、そのなかで失点してしまった」

 試合後、山崎がそう振り返ったように、1-0が続いたおよそ40分間のなかには、「あわよくば」の可能性は少なからず感じられた。今季の浦和がこうした試合展開で、失点を重ねてさらに傷口を広げる悪癖を抱えていることも、その可能性を高めていた。

「前半は守備のバランスをとることができない部分もあったが、点を取って安定感が出た。後半に入ってもバランスは悪くなかった」

 新潟の呂比須ワグナー監督のコメントが表すように、自陣でバランスよく守備ブロックを固める新潟に対し、浦和はさしたる反攻の手段を持っていなかった。そればかりか、無理に中央から突っ込んでいき、新潟のカウンターを誘発するような拙攻も目立った。

 仮に追加点を奪えなかったとしても、新潟がこのまま逃げ切れる。少なくともスタンドから試合を見ている限り、そんな雰囲気は色濃く漂っていた。

 しかし、ピッチ上の選手は、傍観者ほど楽観的にはなっていなかった。

「守備はできるが、ボールを奪ったあとの攻撃のパワーがなかった」(MF鈴木武蔵)

「あれだけ守備の時間が多くなると、厳しくなる。カウンターに行き切れないときでも、もう少しつないで攻撃の時間を作れないと苦しい」(MF加藤大)

 こうした言葉が複数の選手から聞かれたように、ピッチ上の選手たちの思考は「うまく守れている」というポジティブなものではなく、「攻め手がない」というネガティブな方向に傾いていた。

 新潟はリーグ戦5連敗を喫するなかで、すべての試合で2点以上を失ってきた。守り切れるという自信を持てないチームにとって、専守に徹する時間は精神的苦痛を強いられる。その時間が長くなればなるほど、不安は増大していったに違いない。

 ここ最近の試合で、ひとつでも無失点で終えられた試合があれば、おそらくこの試合も違う結果になっていただろう。だが、負けが続くことで生まれる悪循環に陥ったチームに、1-0の逃げ切りは簡単な作業ではなかったということだ。

「前半はボールを奪ったあとに鋭いカウンターが何本かあったが、後半は押し込まれるなかで耐えられなかったのは残念。悪い時間にもう少し我慢できれば、相手がもっと前に出てきたときにカウンターを狙えたと思うが、自分たちがそこをどうしのぐか」

 鈴木はそう語り、視線を落とした。

 どん底状態の浦和を相手に、番狂わせにはおあつらえ向きの展開になりながら、それでも勝ち点を持ち帰ることができない。苦境にあえぐチームの現状を残酷なまでに突きつける、非情な敗戦だった。

 新潟はこれで、リーグ戦6連敗。監督交代という最終手段も、結果のうえではまったく効果を発揮していない。

 シーズン途中の監督交代は、選手が抱える危機感を刺激する、いわばカンフル剤。もちろん、空いた穴を的確に補修しながら、じっくりとチームを変えていける監督もいないわけではないが、一般的に期待されるのは即効性だ。にもかかわらず、むしろ監督交代後に成績が下降しているようでは、この先、効き目が現れるとは考えにくい。

 第18節を終え、勝ち点8の最下位は、J2降格がかなり現実味を帯びてきたと言わざるをえない。

 過去のデータをひも解いても、J1が18クラブに固定された2005年以降、第18節終了時点(2015、2016年はセカンドステージ第1節終了時点)で最下位だったクラブが、J1に残留できたのは、2008年のジェフユナイテッド千葉の例がただ一度あるだけ。それ以外の延べ11クラブは、そのまま最下位で終わるか、ひとつ順位を上げるのが精一杯という結果にとどまっている。また、勝ち点ひと桁での最下位に限れば、J1残留を果たした例はない(2008年の千葉は勝ち点10)。

 ここ数年、J1残留ライン(15位の勝ち点)は低下傾向にあり、昨季15位だった新潟の勝ち点は30。2005年以来、最低勝ち点での残留を果たしている。

 だが、仮に勝ち点30を目標値にするとしても(それで残留できる保証はないが)、残り16試合で勝ち点22が必要であり、これから先、およそ半分の試合で勝利しなければならない計算になる。18試合でわずか2勝のチームに、それがどれほど難しいタスクであるかは言うまでもない。

 カウントダウンの時計は、否応なしに進んでいる。