ハリルジャパンの完成度(6)今野泰幸の判定=不明 今年3月、ガンバ大阪の今野泰幸が2年ぶりに日本代表に招集された。 W杯アジア最終予選、日本時間3月24日のアウェーのUAE戦でいきなりスタメン起用されると、2014年11月のオーストラリ…

ハリルジャパンの完成度(6)
今野泰幸の判定=不明

 今年3月、ガンバ大阪の今野泰幸が2年ぶりに日本代表に招集された。

 W杯アジア最終予選、日本時間3月24日のアウェーのUAE戦でいきなりスタメン起用されると、2014年11月のオーストラリア戦以来のゴールを挙げるなど、攻守に活躍。日本の勝利(2-0)に大いに貢献した。

「日本を救った男」――各メディアでそう評され、ハリルホジッチ監督もそのプレーを絶賛した。

 しかし今野本人は、34歳での代表復帰に戸惑うばかりだった。

「3月に(代表に)呼ばれたときは、何の前触れもなかったし、呼ばれる予感もなかった。だから、実際に招集されてびっくりしたし、『なぜ、このタイミングで……』って思いましたよ。

 だって、ブラジルW杯が終わって、ハリルさんが監督になった当初は呼ばれていたけど、年齢のこともいろいろと言われるようになって、途中から呼ばれなくなったので、『代表は終わった』と自分の中で納得して、それからはテレビで試合を見て、普通に応援していましたから」

 2015年8月、W杯アジア2次予選を目前にして、当時Jリーグでゴールを量産し、代表復帰の声が高まっていたFW大久保嘉人について、ハリルホジッチ監督は33歳(当時)という年齢を理由に構想外にしている。加えて今野は、自らが外された経緯から、代表復帰に関してなんとなく釈然としない気持ちがあっても不思議ではない。

 そうした微妙な気持ちを抱きつつ、今野は久しぶりに代表チームに合流した。すると、以前にはなかった違和感がすごくあったという。

「自分が合流したときは、最終予選を戦ってきて、だいぶチームが固まってきていた。その中にポンと入ったので、自分の居場所がないような、よそ者みたいな感じだった。しかも、チーム状況からか、すごく悲壮感があって、緊張感もすごかった」

 その悲壮感は、かつての代表でも味わったことがあったという。

「ザックさん(ザッケローニ監督)のとき、W杯3次予選(2012年2月)でウズベキスタンにホームで敗れた(0-1)ことがあったんですよ。これは『まずい』と、最終予選前にキャンプをしたんですけど、そのときも悲壮感がすごかった。

 でも、あのときは集中してトレーニングをして、コンディションを整えて最高の状態で最終予選に臨むことができた。それで最初の3試合で勝ち点7が取れた。それと比べると、今回はUAE戦までに時間がなかったし、自分はチームとしての戦い方、方向性がつかみ切れていなかったので、かなり心配でしたね」

 UAE戦に向けて、チームは従来の4-2-3-1から4-3-3にシステムを変更。ハリルホジッチ監督は、今野をこのシステムのキーマンと位置づけてインサイドハーフに起用した。ガンバと同じシステムゆえ、今野もやりやすかったのではないかと思われたが、ハリルホジッチ監督のやり方はガンバとは「まるで違っていた」と言う。

「ガンバのやり方とはかなり違いましたね。練習では狭いコートで、両サイドハーフが激しくプレッシャーにいくし、とにかく(ボールを奪ったら)早く前に出すことを求められました。攻撃ではサイドに蹴って、前線の両サイドに配置された原口(元気)と久保(裕也)が(相手と)1対1になって、そこから始まるという感じだった。

 でも、(練習では)2タッチの制限があってパスがなかなかつながらない。これでどうやって前にボールを運んで、どうやって相手を崩すんだろうと。だから、試合前は攻撃のことはあまり考えず、セカンドボールを拾うとか、球際に負けないとか、守備でがんばってチームが勝てるように、シンプルにプレーすることだけを考えていました」

 今野はもともと守備の選手であり、代表に招集される前の柏レイソル戦やFC東京戦でも、激しい守備で相手を倒して調子はよかった。UAE戦でも好調を維持し、考えすぎずにプレーしたことが功を奏し、勝利につながるいい働きができた。

 ただ、この試合のあと、左足小指の骨折が判明。今野は2カ月以上の戦線離脱を余儀なくされてしまう。

 戦列復帰を果たしたのは、6月4日のジュビロ磐田戦だった。調子は万全ではなかった。それでも、最終予選のイラク戦(6月13日)を前にして、ハリルホジッチ監督は再び今野を招集した。UAE戦と同じ戦術で臨みたいと思っていたからだ。



2年ぶりの代表復帰を果たした今野泰幸

 そして、イラク戦の前に行なわれた親善試合のシリア戦(6月7日)で、今野はスタメン出場。しかし今野個人も、チームも動きが悪くて1-1のドロー。そのまま、イラク戦を迎えることになった。

「他の選手はわからないけど、自分には危機感しかなかった。シリアというそれほど強さを感じないチームを相手に、自分たちのサッカーができずに終わって、イラク戦は相当苦しくなると思った……。

 実際、イラク戦は先制点を取ったところまではよかったけど、後半は相手にしっかりボールを運ばれて、ボールにプレスにいけなかった。押し込まれて、ペナルティーエリア内にどんどんボールを入れられて、ピンチが増えた。(後半62分に)自分が入ったときには、その状況を変えるのはさすがに難しかった。勝たないといけない試合だったけど……」

 イラク戦に勝てば、8月のオーストラリア戦で引き分け以上なら、W杯出場を決めることができた。しかし、決め手を欠いて1-1のドローに終わった。

 試合後、本田圭佑は「監督の言うことを聞きすぎる。もっと自分たちで工夫して判断してプレーすべきだ」という提言をした。しかし、ハリルホジッチ監督は自らの戦術から逸脱して自由にプレーすることを許さず、試合中、選手たちの判断でボールを回し始めると「早く前に出せ!」と、ベンチから大声で指示を出す。

 そうした状況下にあると、若い選手などは「次は、(代表から)外されるかもしれない」と思って、監督の言うことを忠実に守ろうとする。うまくいっているときはいいが、劣勢になると縦1本の展開しかなくなって、アイデアのない攻撃は機能を失ってしまう。

「サッカーの試合では、監督の指示どおりにやればすべてうまくいくとは限らない。ときには自分で判断し、プレーしなければいけない。例えば、チーム内で縦に早く入れるという共通理解があっても、(縦に)入れて簡単に相手ボールになるんだったら、縦に入れないほうがいい。前線の選手が動いていても、自分の判断でミスになりそうだったら、(一旦ボールを)回して遅らせて、次に縦パスを入れる瞬間を待つとか、そういうのは自分で考えて、判断することは必要だと思う。

 ただ、ハリルさんは日本を世界のスタンダードに近づけようと、いろいろなことに(あえて今は)厳しく言っている。昨今の欧州スタイルに、チームとしても、個人にしても近づけるのか、ということに挑んでいる」

 チームはまだ、道半ばという感じだろう。しかし、ロシアW杯まであと1年程度しかない。現時点でチームの完成度はどのくらいだと、今野は見ているのだろうか。

「チームの完成度とか、この先のこととか、考えられない。まず(大事なのは)予選突破ですよ。自分はずっと呼ばれているわけじゃないし、ピンチヒッターみたいなものだから、なおさら結果を出さなければならない」

 今野の言葉に少し驚いた。

 ハリルホジッチはある意味、UAE戦では今野の力を生かすためにシステムを変えた。ケガをしても、今野の様子を心配して復帰を待ち続けた。代表に必要な戦力として、その存在感はどんどん大きくなっているのだが、今野自身は自らを「代打」だと言う。

「UAE戦はうまくいったけど、自分がよかったのって、その1試合だけですよ。ザックさんのときは、コンスタントに呼ばれて試合にも出られて、W杯を目標にして(そこで)勝ちたいと思ってやってきた。でも今回は、2年ぶりに呼ばれて、前回とは立場が違うし、年齢も違う。

 その後、ケガしてほぼ試合に出ていない状況でまた代表に合流し、『UAE戦と同じようにやってくれ』って言われたけど、シリア戦ではダメだった。イラク戦はスタメンじゃなかったし、(途中出場しても)思うようにいかなかった。その評価から『はい、さよなら』っていう可能性もあるわけじゃないですか。そういうのを今までも見てきたので、先のこととか考えられないですよ」

 今野の言うことはよくわかる。

 メンバーを固定してきたザッケローニ監督と違って、ハリルホジッチ監督は一部の選手を除いて、そのときどきで調子のいい選手を起用し、どんどん選手を入れ替えていく。イラク戦のときには、それまで代表の常連だったDF森重真人やMF清武弘嗣、GK西川周作らが落選した。同様に、今野が「自分もいつか」と考えてもおかしくない。

「正直、ブラジルW杯でこてんぱんにやられて、どうやったら世界で勝てるのか、自分の中で答えが出ていないままだし、UAE戦はよかったけど、W杯本番で自分が同じようにできるかっていうとわからない。だったら、若くて、これから伸びる可能性がある選手に譲るというか、任せたほうがいいんじゃないかと考えてしまうこともある。

 それに、ロシアW杯には行きたいと思うけど、自分自身の性格から(そこに前向きになって、メンバー入りが)叶わなかったときのショックが大きい。それは、十分にありえることでしょ。もう少ししたら『全力でW杯を目指します』って言っているときがくるかもしれないけど、今の段階では目下のことが優先で、ロシアのことはまったく考えられない」

 今は本調子とは言えず、代表の選考も確固たる基準がないため、今野の言動はかなり慎重だ。自らの調子が上がってくれば、もう少し前向きになって、ポジティブな発言もどんどん出てくるのだろう。ただ、こうした今野の悩みや考えは、今の代表選手の誰もが抱えているものかもしれない。

 もうひとつ、今野には聞いてみたいことがあった。かつて、いくつかのW杯で日本代表は”ベテラン枠”といった、チームのまとめ役としてベテラン選手を選出したことがある。そういう役割を果たす気持ちはあるのだろうか。

「自分は無理(苦笑)。プレーで、地味に効いているっていうのが持ち味で、それでしか代表には貢献できない。キャプテンシーもないし、ベテランとして何ができるかっていうものもない。”和ませる役”としても、もっと適任がいるでしょ」

 今野はそう言って、苦笑いした。

 できることなら、万全の状態になって、自らに確固たる自信を持てたとき、今野にはもう一度、話を聞いてみたいと思う。

「ロシアW杯に、日本代表メンバーとして行きたいですか?」と。

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