これほどまでに絶望的な週末は、今シーズン初めてのことだ。オーストリアGPの角田裕毅とアルファタウリは、入賞のチャンスをまったく感じることなく19位でレースを終えた。「今週末はフリー走行から速さがありませんでしたし、予想どおりペースがなかっ…

 これほどまでに絶望的な週末は、今シーズン初めてのことだ。オーストリアGPの角田裕毅とアルファタウリは、入賞のチャンスをまったく感じることなく19位でレースを終えた。

「今週末はフリー走行から速さがありませんでしたし、予想どおりペースがなかったので、とてもフラストレーションの溜まるレースでした」


角田裕毅

「フラストレーションの溜まるレースでした」

【コースオフが致命傷となった】

 今シーズンの角田とアルファタウリは、常に堅実なレースで入賞のチャンスを争ってきた。

 モナコGPでは雨でブレーキ温度に問題を抱え、スペインGPではインシデントに対するペナルティで入賞のチャンスを逃したとはいえ、それまでは入賞圏を走っていた。カナダGPでもウイリアムズのように最後まで走りきるギャンブルを貫けば8位入賞の可能性もあった。

 しかしレッドブルリンクでは、目を疑うようなパフォーマンスしか発揮できなかった。予選ではトラックリミリット違反でタイムを抹消されて16位。スプリントレースでは路面が乾いていくなかでコミュニケーション不足からタイヤ交換のタイミングが遅れ、結果的に無駄なドライタイヤへの交換でポジションを落とすことになった。

 そして、決勝では1周目に接触とコースオフを喫してマシンにダメージを負い、ただでさえ曲がらないクルマがさらに厳しくなった。

「1周目にできるだけポジションを上げたかったのでアグレッシブに攻めていって、実際にターン4まではうまくいっていたと思います。

 でも、ターン1で少しロックアップしてフロントウイングにダメージがあったせいで、ターン4でブレーキングした瞬間、ダウンフォースが抜けてロックアップしてコースオフしてしまいました。あそこでさらにフロアにダメージを負ってしまったようで、その後は全然ペースがありませんでした」



角田裕毅は完走19台中19位に終わった

【それでも角田は怯まなかった】

 16番グリッドから入賞圏を目指すには、アグレッシブな走りで1周目にポジションアップを図るしかない。隊列が整ってしまえば、オーバーテイクは容易ではないからだ。

 しかし、ターン1でバルテリ・ボッタス(アルファロメオ)のインに空いたスペースに飛び込んだ角田のレイトブレーキは攻めすぎだった。

 前方の車両たちが減速して詰まったターン1で行き場をなくし、イン側の縁石上に逃げたがマシンが跳ねてエステバン・オコン(アルピーヌ)のリアに接触。フロントウイングを壊した。自身のみならずオコンのマシン、そして飛散したデブリ(パーツ破片)でボッタスのマシンにもダメージを与えることになってしまった。

 それでも角田は怯まず、ターン3で再びレイトブレーキングで大外からポジションを上げていった攻めの姿勢はすばらしかった。しかし、フロントウイングの左側翼端板とフラップを丸ごと失ったマシンでは、バックストレートエンドのターン4でレイトブレーキングを仕掛けたところで止まりきれず、グラベル(砂利道などの非舗装路面)へと逃げるしかなかった。

「アグレッシブに攻めたことには後悔はありませんし、今後も同じような状況であれば同じようにやると思いますけど、もちろんダメージを負わないようにはします」

 攻めどころを見極めたアグレッシブなスタンスはよかったが、角田のドライビングはあまりに限界を超えてしまっていた。

 レース序盤のVSC(バーチャルセーフティカー)で各車がピットインするなか、角田はステイアウトして8位まで浮上した、しかし、すぐにフレッシュなタイヤのライバルたちに抜き去られ、結果的にスロー走行のVSC中にピットインする8秒のタイムゲインを失っただけになってしまった。

 そこから残り48周を最後まで走りきることも視野に入れてトライしたものの、チームの判断でこれを変更。しかしその判断も遅れを取って、ボッタスにアンダーカットを許してしまった。

【角田もアルファタウリも空回り】

 曲がらないマシンと格闘し続けた角田は、どうにもならないレース展開に対する苛立ちと焦りもあったのか、トラックリミット違反で計20秒のタイム加算ペナルティを科されてしまった。その結果、完走19台中19位という絶望的なリザルトに終わってしまった。

「詳しく見てみないとわからないですけど、ものすごくアンダーステアが強かったので、マシンにダメージがあったんだと思います。でも、トラックリミット違反を取られないようにするのが自分の仕事なので、難しかったとしてもそれは言い訳にはなりません。次へ向けた改善点です」

 角田自身としても、予選のトラックリミットによるタイム抹消から1周目の接触、決勝の度重なるトラックリミット違反と、今シーズンこれまでの成熟したドライビングが嘘のような「とっ散らかったレース週末」だった。

 もちろん、マシンのペース不足がその根底にある。

 ライバルが大きなアップデートを投入してマシン性能を向上させてきたなかで、アルファタウリは小さな改良こそ続けているものの、もともとマシンが抱えていたダウンフォース不足や空気抵抗の大きさといった欠点を抜本的に改善するようなアップデートを投入できていない。

 シーズン序盤は、角田のドライビングとレース戦略でなんとかマシンの全力を出しきって入賞圏を争っていた。だが、完璧な仕事をしたとしても入賞圏は遠くなりつつある。そんななかで、角田もチームも空回りしてしまっている。

 シーズン折り返しの夏休みまでの残り3戦は、あっという間に終わってしまう。足もとが浮わついたこの状態のままでは、同じような失敗を繰り返すことにもなりかねない。

 今週末のイギリスGPにはアルファタウリもアップデートを持ち込むが、それをきちんと機能させることはもちろんのこと、まずは「実力を最大限に出しきる」という当たり前のことが当たり前にできるよう、一度原点に立ち返って自分たちのやるべきことを見詰め直す必要がある。

 オーストリアGPの絶望的な週末は、そんな現実を突きつけられたような気がしてならない。