F1は再びヨーロッパに戻り、第10戦オーストリアGPから夏休みまで「5週間で4戦」の過密スケジュールに突入する。 前戦カナダのみならず、ここ3戦はポイント圏を視野に入れた争いをしながらも歯車が噛み合わず、不本意な結果が続いている。アルファ…

 F1は再びヨーロッパに戻り、第10戦オーストリアGPから夏休みまで「5週間で4戦」の過密スケジュールに突入する。

 前戦カナダのみならず、ここ3戦はポイント圏を視野に入れた争いをしながらも歯車が噛み合わず、不本意な結果が続いている。アルファタウリと角田裕毅にとっては、ここできちんと自分たちの実力を結果につなげておきたいところだ。



角田裕毅がヨーロッパラウンドに戻ってきた

【同じミスを犯すことはない】

 角田が前戦のカナダGPを振り返る。

「カナダではすべてをまとめきれませんでしたし、ポイントを獲る速さがあっただけに余計に残念でした。FP3ではいいペースがあったにもかかわらず、いつもと違って予選ではマシンのパフォーマンスをフルに引き出すことができませんでした。

 決勝では最大限挽回しようとアグレッシブな戦略を採ったんですが、正しく実行することができなかったのかもしれません。でも、そこから学べることはたくさんありましたし、今後は同じミスを犯すことはないと思います」

 カナダでは19番グリッドからスタートし、1周目にピットインして最後まで走りきるギャンブル的戦略を選んだ。最後までタイヤが保てば、7位入賞を果たしたアレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)のうしろでフィニッシュするチャンスがあったものの、途中で2ストップ作戦に切り替えたことで、その可能性を自ら捨ててしまった。

 スペインGPでは周冠宇(ジョウ・グアンユー/アルファロメオ)とのバトルでペナルティを科されて、9位から後退。モナコGPではマクラーレン勢を抑えて9位を走っていたものの、雨でブレーキ温度が低下し大きく後退してしまった。

「ここ2、3戦は、自分としては最大限の力を出せているんですけど、(スペインの予選で)トラックリミットに引っかかってしまったり、まとめきれていないところもあるので、そのあたりも踏まえつつ、今後のレースでは気を引き締め直していきたい」(角田)

【空気抵抗を減らしたいが...】

 舞台となるレッドブルリンクは、シュタイアーマルク州の山の緩やかな斜面に位置するサーキット。3本の長いストレートを中速コーナーでつないだようなレイアウトだ。

 最高速とコーナリング性能のバランス──つまり、ダウンフォースとドラッグ(空気抵抗)のバランスが重要になる。アップデートで徐々に改善されつつあるとはいえ、ライバルに比べて空気抵抗が大きいアルファタウリにとっては難しい課題になる可能性が高い。

「(コーナーは)ほとんどが中速から中高速コーナーで、かなりのダウンフォースが必要です。でも長いストレートもあるので、少しでもドラッグは減らしたいところです。なので、個人的にはラクではないチャレンジングな週末になるのではないかと思っています」

 アゼルバイジャンやカナダのようにダウンフォースを削って"直線番長"的なセットアップに決め込むなら、低速コーナーはメカニカル性能とドライバーの腕でなんとかカバーできる。しかし、空力性能が必要とされる中高速コーナーはダウンフォースがなければ、いかんともしがたい。それが今週末の大きな問題になりそうだ。

 モナコで課題となったブレーキ温度について、スペインとカナダではエンジニアとのコミュニケーションも含めてアプローチを改善したことで、再発はしていない。このレッドブルリンクでもヘビーブレーキングポイントが4カ所もあるため、ブレーキへの熱入れはそれほど大きな問題にはならないはずだ。

 しかしオーストリアGPは、今季2度目のスプリントレース週末。たった1度のフリー走行のみで、金曜午後に行なわれる予選に臨まなければならない。マシンセットアップにあてられる時間はほとんどなく、いつものように金曜夜にファクトリーでシミュレーションを重ねてセットアップを改善することもできない。

 走りはじめの仕上がりが重要だからこそ、角田自身もイギリスにあるレッドブルのファクトリーに行き、事前シミュレーター作業をいつも以上に入念にやってセットアップ作業を行なってきた。

「今週末は金曜の午後にすぐ予選に臨まなければならないので、FP1からマシンをよい状態にしておくことが必要です。今週末に向けてはシミュレーターでかなりの準備をしてきましたし、その作業がいつも以上に重要になります。FP1からセットアップを煮詰めていって、最初から自信をビルドアップしていければと思っています」

【ポイントを奪える可能性は?】

 まずは金曜の予選に集中し、決勝に向けたロングランは土曜に行なわれるスプリントレースを活用する。いずれにしても上位勢に波乱がなければ8位までしか入賞できないスプリントレースは、中団勢にとってそういう位置づけになる。

 そして、ここ数戦の課題のひとつとなっている予選で上位グリッドに行くこと。それができれば、レースはもっとラクに戦うことができる。

「もちろんパフォーマンス次第ではありますけど、今回はアグレッシブに攻めて、ポイントが獲れる機会があれば獲りにいって、予選から最大限にパフォーマンスを出しきれればと思います」

 マシンのアップデートもラッシュを迎え、シーズン序盤戦で学んだ蓄積がようやく形となって現われてきたチームが続々と改良型パッケージを投入している。

 上位勢はヨーロッパラウンド開幕前後に大きな進化を遂げてきたが、中団勢でもウイリアムズが前戦カナダで1台目にアップデートを入れたのに続き2台目にも投入。マクラーレンもBスペックマシンと言えるほどフロアやサイドポッドを中心とした大型アップデートを持ち込んできた。

 アルファタウリにとって決してラクな状況ではないが、開幕からここまでの戦いを見てもわかるように、マシンの速さだけで勝負が決まるわけではない。そのパフォーマンスをフルに引き出すドライバーと、レース週末をミスなく完璧に運営するチームの力がすべて噛み合った時、入賞圏の狭き門をくぐることができる。それが今のF1だ。

 ここまで、ほぼすべてのレースで何度もその門をノックし、時にはその中に入っていながら、ほんの小さな綻(ほころ)びでそれを逃してきたのがアルファタウリと角田裕毅だ。逆に言えば、自分たちが完璧なレースをすれば、決して簡単ではない入賞を果たすことができる。

 シーズン後半戦へ向けて勢いを取り戻すためにも、いま一度、ここで完璧なレース週末を遂げてもらいたい。