ラグビーワールドカップバトンを継ぐ者たちへ~日本代表OBインタビュー第1回・大西将太郎 後編前編を読む>>「リーチ マイケル&松島幸太朗が納得できるワールドカップに」 フランス大会への期待を語る 解説者として世界のラグビーを知り尽くす元日本…

ラグビーワールドカップ
バトンを継ぐ者たちへ~日本代表OBインタビュー
第1回・大西将太郎 後編
前編を読む>>「リーチ マイケル&松島幸太朗が納得できるワールドカップに」 フランス大会への期待を語る

 解説者として世界のラグビーを知り尽くす元日本代表の大西将太郎氏に、開幕まで約2か月に迫ったラグビーワールドカップへの思いを聞くインタビュー。後編ではその代表キャリアのハイライトとなった2007年のワールドカップ、プール最終戦のカナダ戦を振り返ってもらいつつ、その後の日本代表の躍進をどう見ているか、など率直な見解を聞いた。

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2007年ラグビーワールドカップ・フランス大会を振り返ってくれた、元日本代表の大西将太郎氏

──ワールドカップ2007年フランス大会、開幕から3連敗でプール最終戦のカナダとの一戦を迎えました。

「僕たち日本代表が積み重ねてきた連敗(1995年大会からワールドカップ13連敗)を止めなければいけない、そんな思いで臨んだ試合でした。結果はドロー(△12-12)でしたが、僕たちはもちろん勝つつもりで戦っていました。カナダもそうだったはずですし、実際、カナダは強かったです」

──手に汗握る接戦でした。

「ロースコアの緊迫した展開で、最後に(後半43分のCTB平浩二のインゴール右隅へのトライで)10-12、ゴールが決まれば同点という状況になったので、プレースキッカーの僕はもう覚悟を決めて蹴るだけでした」

──ラストプレーとなった大西さんのそのコンバージョンゴールを振り返っていただけますか?

「最後にこういうシチュエーションで自分が結果を残す、というイメージをずっと頭のどこかで思い描いていました。ヒーローになれるチャンスを得たと思っていたところ、レフリーのジョナサン・カプランさんが『イッツ・ユア・タイム(あなたの時間だから自由に時間を使いなさい)』と言ってくれたんです。他のスポーツではありえないですし、ラグビーでもレフリーがそんな声をかけてくれることはまずないので、今でも忘れられません」

──最高の状態でキックに入ることができたわけですね。

「その時はまだ世間に浸透していなかった『ルーティン』を僕は当時から意識して、シンプルに次の3点に絞って実行していました。ひとつ目は、うしろに下がる歩数を守る。ふたつ目は、ボールを最後まで見るために胸をボールに近づける。3つ目は、蹴り急がない。どんな試合でもどんな状況でもその3つだけはやろうと決めたことで、頭のなかの混乱を避けることができました。

 この時もルーティンを守って『入るんだ』と信じて覚悟を決めたら、その瞬間から周りの声が聞こえなくなりました。フランスのお客さんはキックを蹴る直前までは騒いでいますが、いざ蹴る時には静かになることを経験上知っていましたので、静まるまで待ってから蹴り始めたのを鮮明に覚えています」

──難しい角度から見事にゴールを決め、日本代表の大会連敗を13で止めました。

「決まるのを見届けてから、早く仲間のもとへ行きたいとうしろを振り返ったら、みんながワーッと集まってきてくれました。忘れられない思い出ですし、あらためて『ラグビー最高!』と思った瞬間でした」

──2011年大会は2007年大会と同じく3敗1分けでしたが、2015年大会、2019年大会で日本代表は新たな歴史を作りました。

「今の選手たちは大きな壁を打ち破っています。強豪国と戦って次々と偉業を成し遂げていく彼らにはリスペクトしかありません。もちろん僕よりも前に代表としてプレーされた方々に対しての敬意もありますし、その桜のジャージーを今のみんなが引き継いでくれています」

──2015年のワールドカップで、大西さんは日本代表が歴史的勝利を挙げた南アフリカ戦の中継にゲスト出演されていました。

「もちろん日本代表をリスペクトしつつも、当時現役の自分がなぜそこ(日本代表)にいないんだ、という思いもどこかにありました。でも、そんな思いを全て通り越してうれしさや感動に変わったのは、歴史的勝利(○34-32)に貢献した同期の(大野)均ちゃんと試合後に中継で話した時でした。

 2007年大会で日本代表の誇りをかけて一緒に戦った仲間が『やったよ』って言ってくれたんです。均ちゃんのその言葉を聞いて、表情を見て、本当にうれしかったですし、『ありがとう』しかなかったですね。隣に座っていた箕内拓郎さん(2007年大会日本代表キャプテン)も『均ちゃんのあの言葉にやられた』と言っていました。代表はそうやってつながれていくんだな、とあらためて思いましたね」

──2019年大会はプール戦4戦全勝で初の決勝トーナメント進出という、2015年大会をさらに上回る結果を残しました。

「昔からラグビーをしている人間からすると、日本でワールドカップが行なわれていること自体が夢のようでしたが、日本代表がプール戦で4勝もしてベスト8に入るという、さらに夢のようなことを成し遂げました。自分が生きている間にこんなことが起きるのか、ということが連発したので、もちろんうれしく思う一方で心のどこかで『これは現実なのかな』という思いもありました(笑)。日本中がラグビー一色になって、本当にうれしかったです」

──優勝候補のアイルランド、そして伝統あるスコットランドをいずれも7点差で撃破しました。

「スコットランド戦は前日に台風が直撃して開催が危ぶまれましたが、多くの方々の尽力で試合ができたことも含め、ベストゲームだったと思います。もちろんスコットランドもプール戦を突破したいという強い思いがあるなか、日本代表が勝利を収め、試合後にスコットランドが心の底から悔しそうな表情をしていました。ああ、日本代表は本当に強くなったな、と感じましたね」

──そして9月開幕の第10回ワールドカップは、大西さんが活躍した2007年大会以来となるフランス開催です。昨秋は解説のお仕事で、日本が2試合を行なうトゥールーズに行かれましたね。

「ワールドカップはもう始まっているんじゃないか、と思えるぐらいの熱気でした。やはりフランスでのワールドカップは特別で、イングランドやニュージーランド、オーストラリアなど他の国とは違う独特な雰囲気があるんです。だからこそ、そんなフランスでの約2か月間のお祭りのような時間をひとりでも多くの方に味わってほしいと思っています。

 特に2019年の日本大会から見始めたファンの方は『前回大会とはちょっと雰囲気が違うな』と見ていてわかると思いますよ。ワールドカップはもちろんラグビーの世界一を決める大会ですが、開催される国によって違うワールドカップが味わえるのも醍醐味です」

──最後に、大西さんにとってワールドカップとは何でしょうか?

「夢のなかにいる時間、ですね。大会期間中ずっと夢のなかにいるイメージで、本当に1分1秒、一挙手一投足、全てを無駄にしたくない時間です。試合はもちろん試合以外でも仲間と過ごす時間、ファンの皆さんが応援してくれる時間、メディアが取り上げてくれる時間、それらはワールドカップの期間でしか味わえないものなので、その全てを味わいたいという思いでした。

 今回は自国開催ではありませんが、ワールドカップでしか味わえないものがあることに変わりはありません。『やっぱりラグビーっていいよね』と今大会で再認識してもらえるとうれしいです」

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 世界のラグビーの魅力を発信し続ける大西将太郎氏は、現役を退いた今もワールドカップへの熱い思いを持ち続けている。独特な雰囲気を醸すフランス大会を経験した元選手の視点から、ファンがラグビーの醍醐味を味わえるよう解説者として全力でサポートし続ける。

【profile】
大西 将太郎(おおにし・しょうたろう)
1978年11月18日生まれ、大阪府東大阪市出身。ポジションはSO/CTB。地元の布施ラグビースクールで小3からラグビーを始め、啓光学園高3年時に全国高校大会準優勝。日本代表には2000年、同志社大3年時のオフに初選出。以降、2008年まで通算33キャップを重ねる。ラグビーワールドカップは2007年フランス大会に出場。トップリーグは通算143試合に出場し、2007-2008シーズンはベスト15、得点王、ベストキッカー賞の3冠に輝く。2016年に現役引退し、主に解説者として活動中。