ラグビーワールドカップ2023「Road to France」<08>齋藤直人(東京サンゴリアス)後編「本気でワールドカップを目指していなかった」4年前の後悔 スクラムハーフ(SH)というポジションは、ヘッドコーチ(HC)からチームの舵取り…

ラグビーワールドカップ2023「Road to France」<08>
齋藤直人(東京サンゴリアス)後編

「本気でワールドカップを目指していなかった」4年前の後悔

 スクラムハーフ(SH)というポジションは、ヘッドコーチ(HC)からチームの舵取りを託された「ピッチの司令塔」だ。日本代表には様々なタイプのSHが招集され、最終的にジェイミー・ジョセフHCのお眼鏡に叶った選手がワールドカップの舞台に立つ。

 25歳の齋藤直人は自身初のワールドカップ出場に向けて、どのような強化を図ってきたのか。早稲田大で主将を務め、若くしてサンウルブズの一員にも選ばれ、プロ1年目から活躍して王道を歩んできたエリートSHの「ラグビー思考」を紐解いていく。

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齋藤直人●1997年8月26日生まれ・神奈川県横浜市出身

── 齋藤選手は今、ラガーマンとして何を一番強化しようとしていますか? 数年前に聞いた時は「タックルを強みにしたい」と話していました。

「最近は毎年1~2kgほど身体が大きくなってきたので、タックルも強みになってきました。リーグワンでもタックルで相手に弾かれるシーンは少なくなったと思います。昨秋のオールブラックス戦ではめちゃくちゃ弾かれましたが(苦笑)。ただ、自信と経験がついてきたので、コンタクトエリアの恐怖心はなくなってきました。

 今はテンポの上げるタイミングを強化しようとしています。SHとして、テンポが単調な時にどうコントロールし、どこでギアを入れるか──。あとは、ラックからボールを持ち出すタイミングや、ランでチャンスを作る方法など、挙げだしたらキリがないです(笑)」

── 2月から日本代表のコーチ陣と毎週のようにオンラインミーティングをしていたそうですが、どういったところを伸ばしてほしいと言われていたのですか?

「日本代表にはサンゴリアスのBKが5人いて、ブラウニー(トニー・ブラウンコーチ)が担当でした。僕には『走って持ち出してから味方にスペースを作るプレーを伸ばしてほしい』と言われました」

── 自身の強みは何だと分析していますか?

「パス、ラン、タックル、キック、プレースキック......ひとつひとつのスキルには、けっこう自信を持っています。でも、強みとなると......それらのスキルを試合で活かしながらピンチやチャンスに顔を出すところ......かな」

── そのあたりでライバルSHとの違いを出したいと?

「そうですね。結局のところ『最後は試合中の判断が大事』だと、ブラウニーからすごく言われています。考えすぎずに本能でやっている時のほうが、自分的にはいい判断ができているのかな。

 もちろん、チームとして決まっている大枠はあります。ただ、そのなかで思いきって動き、自分の感覚に従ってプレーしている時は『すごいプレーができているな』と感じることがあります。日本代表に入るようになってから、どんどん自信を掴んでいるなと実感しています。

 僕にとってやっぱり、ブラウニーの存在は大きいですね。プレー中の判断が結果的にミスとなっても、絶対に怒られたりはしない。『チャレンジすることがすごく大事だ』と言ってくれます。でも、(チームがやろうとしている)枠から逸れると、もちろん怒られます(笑)。

 チームにはルールやプランがあるので、まずはそれを遂行することが大事。ですけど、ちょっと違う状況になった時には、プランを変更して対応しなきゃいけない。自分の判断で対応する難しさはありますが、それが楽しさでもありますね」

── 齋藤選手は桐蔭学園出身で、個々の判断を重視するチーム方針です。それが今にも活きてそうですね。

「そう思います! 自分で判断する経験を積み重ねることがすごく大事かなと。最初にチャレンジした時は失敗も多いのですが、その経験があるからこそ、どんどん自分の感覚になってくると思います」

── 桐蔭学園の藤原秀之監督は「サンゴリアスに入ってから齋藤のパスが変わった」と言っていました。

「昨夏、桐蔭学園に行った時も藤原先生から『誰にパスを教わったの?』とめちゃくちゃ聞かれました(笑)。

 SHは足場がよくてプレッシャーもない状態だったら、いいパスは投げられると思います。ですが、プレッシャーがかかると腕が振れなくなるし、体勢が悪い時に必要なのも『リストの強さ』です。そう思ったので、3年くらい前から全体練習前にグラウンドに行って、コーチとボールを使って手首だけでのパス練習を続けています。

 当時のサンゴリアスの指揮官だったミルトン・ヘイグは現役時代SHでしたし、アーロン・スミス(ニュージーランド代表SH)を若い時に指導していたジェイソン・オハロラン・コーチもサンゴリアスに入ってきて、ふたりから『リストを使ったほうがいい』と言われたのもきっかけです。だから今では、僕のパスはけっこう手首を利かせることができていると思っています」

── サンゴリアスの先輩SH流大(ながれ・ゆたか)選手とは日本代表でも9番を争っていますが、齋藤選手にとってどういう存在でしょうか。

「『(関係は)ギスギスしているんじゃないの?』とよく勘違いされるんですけど、一緒に飲みにも行きますし、全然ギスギスしてないですよ(笑)。ただ、グラウンドでも仲がいいかと言われたら、僕はそう思っていないです。練習中、もしトイメン(対面)で対戦することになったら、絶対にガンガンいきます!」

── 流選手から「パススキルは直人に教わっています」と聞いたことがあります。

「『パススキルは』って言っていました? 全部のスキルが(流)大さんより上手になるよう、もっと頑張ります! 大さんから学んでいることは、FW陣にもBK陣にも積極的に声をかけるリーダーシップな部分がすごく勉強になっています。

 ふたりで一緒に分析ビデオを見るなど、大さんとはいつも真面目にラグビーの話をしています。僕が的確な発言をした時は『めっちゃいいと思う』『直人が言わなかったら俺が言おうと思っていた』とフォローしてくれるので、それも大さんの心の大きさかなと感じています」

── SHとして目標としている選手はいますか?

「フランス代表SHアントワーヌ・デュポン(26歳)、アイルランド代表SHジャミソン・ギブソン=パーク(31歳)、そしてオールブラックスのアーロン・スミス(34歳)を目標にしています。昨年、フランス代表と対戦した時はデュポンと対戦できなかったんですが、2016年にイングランド・マンチェスターで開かれたU20チャンピオンシップで2回対戦しているんです」

── ワールドカップまで残り3カ月です。今は対戦する相手をイメージしながら練習しているのでしょうか?

「この前のシックス・ネーションズ(欧州6カ国対抗戦)もテレビで見ていましたが、そういう目線では見ていないかもしれないですね。イングランド代表とは昨年の秋に対戦しているので、相手の強みもわかっています」

── 日本代表は本大会までの限られた日数で、どのあたりを強化していきたいですか?

「ワールドカップ前の練習試合であっても、まずは勝ちきることが絶対に必要かと思っています。僕はまだ代表に2シーズンしかいませんが、いい試合で終わって満足するようなチームではないことは十分に認識しています。

 日本代表は世界と比べて体が大きいわけじゃない。でも、選手全員がスキルを持ち合わせている点は自分たちの強みだと思っています。それを出しきることが、すごく大切ではないかと」

── 最終スコッドに残れば、齋藤選手にとって初のワールドカップです。

「これまでいろいろな目標はあったんですが、ラグビー選手として一番大きい目標はワールドカップです。この世界最高の大会に、必ず9番として出場したい」

── 8月で26歳となります。今大会が終わったあとも、ワールドカップにはあと2回くらい出るチャンスはありそうですね。

「僕もそれは......思いますけど(笑)、まずは目の前に大会に集中したいと思います!」

<了>

【profile】
齋藤直人(さいとう・なおと)
1997年8月26日生まれ、神奈川県横浜市出身。桐蔭学園高→早稲田大を経て2020年に東京サントリーサンゴリアスに加入。日本代表歴はジュニア・ジャパンやU20代表を経験したのち、2021年6月のブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ戦で初キャップを獲得。ポジション=SHスクラムハーフ。身長165cm、体重75kg。