イギリス・ロンドンで開催されているウィンブルドン(本戦7月3~16日/グラスコート)は本戦5日目、男女シングルスの3回戦が行われた。 第9シードの錦織圭(日清食品)は第18シードのロベルト・バウティスタ アグート(スペイン)に4-6 6-…

 イギリス・ロンドンで開催されているウィンブルドン(本戦7月3~16日/グラスコート)は本戦5日目、男女シングルスの3回戦が行われた。

 第9シードの錦織圭(日清食品)は第18シードのロベルト・バウティスタ アグート(スペイン)に4-6 6-7(3) 6-3 3-6で敗退。2年連続の4回戦進出は叶わなかった。また、初出場の大坂なおみ(日清食品)はウィンブルドン5回の優勝を誇る第10シードのビーナス・ウイリアムズ(アメリカ)に6-7(3) 4-6で敗れた。

 女子ダブルスではシュアン・シージュン(台湾)/土居美咲(ミキハウス)が、グランドスラム全大会で準優勝の経験がある強豪ペア、第8シードのアシュリー・バーティ/ケーシー・デラクア(ともにオーストラリア)に対してサービング・フォー・ザ・マッチまで追い込んだが、逆転負けを喫した。◇     ◇     ◇

 記者会見に現れた錦織の顔はヒリヒリと痛みが伝わってきそうなほど赤く焼け、30度まで気温が上がった炎天下での戦いの跡を生々しく残していた。

 バウティスタ アグートに対しては過去4戦全勝しながらも「芝でも巧い選手」と警戒心に緩みはなかったはずだが、バウティスタ アグートに比べて錦織のプレーのレベルは上がりきらなかった。上がっても、それを維持することができなかった。

 序盤でブレークチャンスを生かせずに中盤に突入するのは、錦織の悪いときのパターンだ。第1セットは計3度ブレークポイントがあったがものにできず、逆に第10ゲームで許したブレークは失セットを意味した。40-15からのサービスダウンは後味が悪かった。

 第2セットも第1、第5、第7ゲームで握ったブレークポイントは計5つあった。

「ブレークポイントを取りきれなかったのが一番ストレスの溜まることでした。早く取れていればもっとリラックスして試合を進められたと思います」

 結局タイブレーク勝負になり、3-3から4ポイント連取を許し、第2セットも失った。バウティスタ アグートはトップスピンが主流のスペイン人らしくなく、フラットのフォアハンドは低く滑って錦織を苦しめた。ハーフボレーやドロップショットなどのタッチもいい。3年前には芝のツアー・タイトルも手にしている。

 錦織は過去2セットダウンからの勝利が2度ある。2010年全仏オープン1回戦と2012年全豪オープン2回戦。相手は当時58位のサンチャゴ・ヒラルド(コロンビア)と当時94位のマシュー・エブデン(オーストラリア)だった。世界ランク19位のバウティスタ アグートは彼らとは少し格が違った。

 第3セット第8ゲームでようやくブレークに成功してセットを奪い、第4セットもブレークで始めたが、「必要なレベルを維持できなかった」と錦織。第4ゲームでダブルフォールトも絡んでブレークバックを許したことで、ふたたび相手を勢いづかせてしまった。

 第6ゲームで一度ブレークポイントをしのいだが、第8ゲーム30-15から2ポイント連続のダブルフォールトがなんといっても痛かった。大事なポイントが取りきれないのは、シーズン前半のもどかしい経験と無関係ではない。必要なのは成功の実績と自信だ。

「大きな自信が試合の中で生まれてこなかった。グラスコートでまたいい結果を出せずに終わってしまったのが残念です」

 絞り出すように話した。

 芝だから負けた、芝だからダメだったとは思えない今年のウィンブルドンだった。◇     ◇     ◇

 全仏オープン新チャンピオンのエレナ・オスタペンコ(ラトビア)やアナ・コニュ(クロアチア)など注目の『97年組』がこの日、4回戦進出を決める中、同じグループに属する大坂も続きたかった。しかし相手はウィンブルドン優勝5回を誇る元女王、ビーナスだ。大坂が一番憧れている選手は妹のセレナ・ウイリアムズ(アメリカ)のほうだが、彼女が姉のまりといっしょに練習しているときはいつも周囲から「あなたたちはネクスト・ウイリアムズね」と期待の言葉をかけられたという。テニス史上最高のスーパー姉妹のことを意識しないわけがない。

 第1セットは第4ゲームでブレークを許したが、第7ゲームでブレークバック。そのままタイブレークに入り、最初の3ポイントをバック、フォア、フォアと3連続ウィナーで奪ったが、37歳の元女王はそれくらいのことでは動じなかった。長いリーチを生かしたパワフルでフラットなショットでプレッシャーをかけ続けた。と同時に、大坂には攻めるべきところでミスが出た。7ポイント連続で奪い返され、第1セットはビーナスが奪った。

「テニス自体はけっこうよかったと思うけど、メンタル面では、こういうところではこういうふうにしないといけないというものがあるんだと思う」

 第2セットは第4ゲームで3つもダブルフォールトをもらったがブレークできず、逆に第7ゲームでブレークを許した。ブレークバックのチャンスは訪れず、最後はビーナスがセンターへ時速180kmのサービスエースを叩き込んだ。

 ビーナスのように常にアグレッシブなショットで攻めてくる相手に対し、フォーストエラーが増えるのは仕方がない。アンフォーストエラーをもう少し減らすことができれば、よりビーナスにプレッシャーをかけることができたはずだ。

 しかし、多少無理をしているように見える強打のミスも大坂の持ち味ではある。実際、大坂が今一番力を入れて取り組んでいることは、ミスを減らすことではない。

「コートの上でポジティブでいること。ネガティブなことを考えない。ポイントをなくしても次のポイントに気持ちを切り替えること」

 技術面、戦術面の成熟もその基本姿勢の先にあるのだろう。「大坂なおみ」の完成にはもう少し時間が必要かもしれない。それは、楽しい時間であるはずだ。(テニスマガジン/ライター◎山口奈緒美)

※写真は「ウィンブルドン」3回戦で第18シードのロベルト・バウティスタ アグート(スペイン/右)に敗れた第9シードの錦織圭(日本/日清食品)(撮影◎小山真司/テニスマガジン)