「新エンジンは何も変わっていない」 ホンダが『スペック3』パワーユニットを実戦投入する第9戦・オーストリアGPの開幕を前に、フェルナンド・アロンソがかなり厳しい批判を口にしたと報じられた。母国スペインの『EFE通信』の取材に対して語った…
「新エンジンは何も変わっていない」
ホンダが『スペック3』パワーユニットを実戦投入する第9戦・オーストリアGPの開幕を前に、フェルナンド・アロンソがかなり厳しい批判を口にしたと報じられた。母国スペインの『EFE通信』の取材に対して語ったという。
オーストリアGPでついにホンダの
「スペック3」が実戦投入される
「新しいエンジンを持ち込むのはプレスリリースの見出しに書くためだけだ。でも、実際には何も変わっていない。(前戦の)バクーのフリー走行で試したけど(マクラーレンの2台は)最後尾と後ろから2番目だったじゃないか」
ところが木曜日にレッドブル・リンクへ姿を見せたアロンソは、一転してホンダをケアするようなコメントに終始した。
「今回の変更は小さなステップアップだ。だけど、どんなステップアップも歓迎だよ。ホンダは3年にわたって厳しいシーズンを過ごしてきたけど、ホンダのみんなが全力で努力してくれているのはわかっているし、日夜進歩もしている。前に進めることを願っているけど、時間がかかることも事実だと思うよ」
この豹変ぶりには、スペインの記者も「彼はマクラーレンからホンダを追い出したいのか、それとも別の思惑があるのか、何がしたいのかまったくわからない」と首をひねる。
だが、アロンソの発言の真意は、美辞麗句が並ぶプレスリリースのように過度な期待はすべきではない、というところにあったのだという。
「僕が言いたかったのは、まだまだこれから伸びていくということだよ。今回のパワーユニットは大きな変更ではなく、小さなステップアップであり、小さなバージョンの違いでしかないんだ。そんなに多くは期待していないよ。エンジン自体はそれほど変わっていなくて(スペック2と)似たようなものだからね」
マクラーレンのオーストリアGPプレビューリリースには、必要以上にポジティブなコメントが踊っていた。アロンソは、それが気に入らなかったようだ。
「バクーの金曜日に試したけど、トップ5や表彰台を争えるレベルではなかった。だから、金曜日だけで下ろして旧型に戻したんだ。バクーのフリー走行ではマッピングなどの問題で、まだフルにポテンシャルが引き出せていたとは言えないから、今週末ここでどうなっているかを確認する必要があるけど、いずれにしても小さなステップだし、(シミュレーションによる出力向上の)理論値としてもここで多くを語るほどの価値はないんだ」
ただし、ポテンシャルが低かったから旧型に戻した、というのは間違いだ。冒頭のEFE通信に対する「最後尾と後ろから2番目」も間違いで、実際にはスペック3で走った金曜フリー走行で、アロンソはクリアラップが取れなかったにもかかわらず12番手のタイムを記録している(旧スペックで戦った予選は16位、ペナルティのため決勝は19番グリッド)。
ホンダは前戦アゼルバイジャンGPにスペック3を1基だけ間に合わせ、金曜フリー走行で走らせてセッティングの煮詰めを行なった。当初は確認のために金曜だけで下ろす予定だったが、想定どおりにパワーアップが果たせていたことと、想定以上のスムーズさでセッティングが進んだことで、土曜以降も実戦使用を継続する手筈が整いつつあった。だが、その矢先にギアボックスが壊れてしまい、パワーユニットにダメージを与えた可能性が危惧されたため、安全を見越して土曜日以降はスペック2に戻すことにしたのだ。
では、スペック3の実力とはいかほどのものなのか?
一部では「30馬力アップ」などと報じられてもいるが、これは明らかに間違いだ。
ホンダは馬力での数値は明らかにせず、公式的に「0.2~0.3秒の向上」という表現にとどめているが、長谷川祐介F1総責任者は「ルノーが0.2秒っていうなら、ウチは0.3秒ってことにしておきましょう」とアゼルバイジャンでは0.3秒の向上を果たしたことを明言している。
パワーの影響が大きいバクー・シティ・サーキットでは10kW(約13.6馬力)が0.25秒に相当するため、0.3秒ということは12kW(約16.32馬力)前後の出力向上ということになる。ただ、これで他3メーカーとの差を大きく詰めることができるわけではない。アロンソが「過度な期待をしたくない」と言うのは、そういうことなのだ。
レッドブル・リンクは1周が1分10秒以下と短いうえに、全開率は高いもののストップ&ゴーではないため、パワー差がそれほど大きくは出ない。むしろ、ストレートに合わせた薄い空力パッケージで中高速コーナーをいかに速く走れるかが重要となるので、アゼルバイジャンで完成したレスダウンフォース空力パッケージが効果を発揮するはずだ。チームではレッドブル・リンクよりも、むしろ第10戦のシルバーストンのほうが苦戦を強いられるだろうと見ている。
必要以上に期待をする必要はない、今週末は本来あるべきポジションに戻るだけだ。アロンソはそう語る。
「今週もポイント獲得が目標だよ。ここまでのレースを振り返ってみれば、僕らはリタイアするまで入賞圏を走っていた。だから、このレッドブル・リンクでも同じようなパフォーマンスを発揮することは可能だと思っているよ。ポイント獲得というのは僕らにとって最低限の目標だよ。それはサマーブレイクまでの残り3戦すべてにおいてそうだ」
そんなレース週末を前に、あるホンダ関係者が言う。
「今週末がホンダにとって、大きなターニングポイントになるかもしれない」
ここまで期待値を大きく下回る性能しか発揮してこられなかったホンダに対し、マクラーレン側もアロンソも大きな苛立ちを募らせてきた。
スペック3が投入され、ようやく今季開幕時点であるべきだった場所に到達した。もちろんこの3ヵ月半の間にライバルたちはさらに先へと進んでしまっているが、彼らに対してマクラーレン・ホンダがどのくらいのポジションに立つことができるのか。
マクラーレンとホンダの関係を巡っては、パワーユニットの変更や条件面の交渉など、水面下ではさまざまな政治的意図と駆け引きがうごめいている。このスペック3がもたらす結果と今後に向けた期待値によって、それがどの方向へ動き出すのかが決まる。
アップデートの投入とは裏腹に、そんな緊張感が漂っている。