6月24日よりハンガリー第2の都市・デブレツェンでFIBA U19ワールドカップが開幕する。将来のスター候補が集うこの国際大会に、日本代表は国内外の才能あふれる選手を揃えた「史上最強チーム」で乗り込む。そのなかの幾人かは「ポスト八村」を狙…

 6月24日よりハンガリー第2の都市・デブレツェンでFIBA U19ワールドカップが開幕する。将来のスター候補が集うこの国際大会に、日本代表は国内外の才能あふれる選手を揃えた「史上最強チーム」で乗り込む。そのなかの幾人かは「ポスト八村」を狙う素材だとも言える。

 1991年に日本代表はU19ワールドカップ初出場を果たすも、世界の壁は高かった。八村塁の出場した2017年大会では16チーム中10位となったが、それ以外は下位に終わっている。しかし5度目となる今大会には史上最強のチームを編成して、過去最高の順位を狙う。

 八村が出場した時の日本代表は、彼が突出した存在だった。だが、今大会の日本代表には早い段階から志高く海外で修行を重ねる頼もしい選手たちが複数名いる。今回はチームの成否のカギを握り、将来のNBA行きも視野に入れる4名の選手を紹介したい。

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川島悠翔@2005年5月27日生まれ

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川島悠翔(かわしま・ゆうと/18歳/PF/200cm/NBAグローバルアカデミー)

 中学時代から全国的に有名だった川島悠翔は、名門・福岡大学附属大濠高校へ進学し、1年生ながら先発としてウィンターカップ(全国高等学校バスケットボール選手権)で優勝するなど、その豊かな才能を大舞台でも発揮してきた。だが、2年生の学年を終えた今春、高校を退学してNBA運営のユース組織「NBAグローバルアカデミー」に入学している。

 同アカデミーには、世界各国からNBA予備軍の有能な若手が集まっており、選抜されるのは当然、実力者ばかり。そのなかに名を連ねるのは、彼の才能の大きさを示している。

 国際舞台でも、すでにその存在を世界に知らしめており、今大会でも注目度は高い。

 2021年開催のU19ワールドカップに16歳で代表入りした川島は、2022年6月のU16アジア選手権では大会得点王(平均26.6点)とMVPを獲得。さらに同8月のU18アジア選手権では平均15.6得点(全体7位タイ)、10.6リバウンド(同1位)を記録し、両大会でベストファイブに選出されてチームも準優勝に導いている。

 2022年7月に行なわれたU17ワールドカップでは、全体16チーム中14位に沈む結果となった。しかし、川島自身は平均得点で全体2位(19.1点)を挙げ、この大会でも存在感を示していた。

 川島の売りは、身長200cmの高さを持ちながら、アウトサイドでもプレーできる万能さにある。中学・高校ではパワーフォワードやセンターなどインサイドを担うことが多かったが、将来のNBA入りという大きな目標を視野に、3Pやドリブルといったリングから離れたところからの技術の習得に務めてきた。

 当人いわく、NBAアカデミーのなかでは垂直跳びが「1番高く」、アジリティ(俊敏性)においても「トップ3くらい」だという。サイズだけではなく身体能力の高さにも秀でているのだから、彼の望む「3番(スモールフォワード)」でプレーすることを前提として技量を磨くのは合理的だ。

 アメリカNCAAディビジョン1の大学への進学を希望し、その先には世界最高峰のリーグへ行くことを目指す川島にとって、日本代表として世界の強豪を相手に力量を示すことは、いわずもがな重要だ。

「アカデミーに最初に行った時はやられてばかりでしたけど、攻めることも成功したりしていますし、このままあと1年くらい自分を磨いていけば、いいところに行けるんじゃないかなと思います」

 無論、A代表のユニフォームを着ることも大きな目標だ。

「U19の世界大会以降はA代表になるので、ここでしっかり世界のことを経験して、A代表にもし呼ばれて合宿に参加することがあったらアグレッシブにやることで、そこに入れるように頑張りたいと思います」

 日本ではビッグマンとしてプレーしていた渡邊雄太も、現在身を置くNBAでは3Pのスキルなどで大幅に成長した。早くから世界の舞台を意識して努力を重ねる川島の姿には、渡邊が重なるようにも感じる。



ジェイコブス晶@2004年4月13日生まれ

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ジェイコブス晶(あきら/19歳/SG/203cm/NBAグローバルアカデミー)

 川島と同様、NBAグローバルアカデミーに所属し、将来を嘱望される逸材がジェイコブス晶だ。

 アメリカ育ちのジェイコブスの名が日本バスケットボール界で知られるようになったのは、コロナ禍のなか日本でのプレー機会を探って帰国し、横浜ビー・コルセアーズのU18チームに加入した2021年のことだった。

 2020-21シーズンには同チームのトップチームで当時B1史上最年少記録となる17歳7カ月でデビューを果たすと、昨年はNBAアカデミーのグローバルトライアウトに合格し、オーストラリアへと移った。

 日本代表ではチームで2番目に高い203cmで、リバウンドなどインサイドの役割も求められる。だが、川島と比べてさらにアウトサイドの技量に秀でており、将来的に国際舞台で勝負していくにあたってはシューティングガードが最もフィットするポジションとなりそうだ。

 オールラウンドな能力をより強く求める動きは、現在のNBAを中心とする世界の潮流でもある。だが、ジェイコブス自身も体がひと回り大きくなって「トータルでうまくなったと思います」とNBAグローバルアカデミーでのエリートレベルのトレーニングを通じて、レベルの上達に自信を深めている。

 ジェイコブスはNCAAディビジョン1のハワイ大に進学する予定だ(関心を寄せた大学は10以上あったという)。同大からは「シュートの確率、身長があってシュートができるのがすごく大きい。そのほかの(ボール)ハンドリングなどのスキルのポテンシャルも高い」(ジェイコブス)という評価を受けた。

 日本代表の雰囲気は、すでに昨年のU18アジア選手権で経験している。だが、大会序盤に故障し、悔しい思いをしている。今回のU19ワールドカップではその悔しさを晴らすと同時に、NBAグローバルアカデミーでの成長を示す機会となる。

 チームの最年長という意識も強く、今大会では自身の技量を示すだけでなく「(相手の)ヘルプが来たらオープンの人を探したり、僕がスクリーンをセットしたりと、チームを勝たせるプレーをしたい」とリーダーシップの発揮も誓う。

 ジェイコブスは6月19日に発表されたワールドカップの代表候補選手にも名を連ねた。遠くない将来でA代表に選出される目標も現実的に見据えている。

「U19で活躍すればA代表が見えてきます。2027年のワールドカップか2028年のロサンゼルスオリンピックには、もう100パーセント、A代表でフルに出たいと思っていますし、できるだけ早く(A代表に)入りたいと思っています」



岡田大河@2004年5月23日生まれ

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岡田大河(おかだ・たいが/19歳/PG/174cm/セントロ・バスケット・マドリード)

 今回のU19日本代表ロスターで最も面白い存在と呼べそうなのが、この174cmの左利きポイントガード、岡田大河だ。

 15歳から日本を飛び出してヨーロッパの強国・スペインで研鑽を積んできた。日本人が「海外でのプレーを希望する」などと言う時、それはほとんど自動的にアメリカ、そして究極的にはNBAのことを意味するなかで、メインストリームとは違う道を歩んできたことが彼を稀有な存在にする。

 元日本リーグ・さいたまブロンコスの選手で、自チームの静岡ジムラッツを率いてアメリカ独立リーグABAに参戦した父・岡田卓也の後押しもあったが、息子の大河は「バスケットボールIQを磨きたかったからスペインを選んだ」という。今回、U19ワールドカップで初の代表招集となったことからも、その選択が間違いでなかったことがわかる。

 スペインではセントロ・バスケット・マドリードに所属。同チーム下部組織のU16、U18チームでプレーし、2021-22シーズンはスペインのプロ4部にあたるEBAドラゴンズ・クロレラでプロデビュー。2022-23シーズンは平均10.8得点、5アシストと活躍した。

 今年2月のNBAオールスターウィークエンドには、NBAとFIBA(国際バスケットボール連盟)共催で世界の有望選手が集まる「バスケットボール・ウィズアウト・ボーダーズ(BWB)」に招待されている。

 今回のU19日本代表で岡田の次に身長(174cm)が低いのが185cmの選手だから、サイズのなさは一目瞭然だ。しかし一方で、生き馬の目を抜く厳しいスペインのプロリーグで早くから競争に揉まれながら生き残ってきた経験は、ほかのメンバーたちを凌駕する。

 ひとつのプレーが試合を左右することを、岡田はよく知っている。U19ワールドカップでも「チームを勝利に導くパフォーマンスが見せられたら」と静かに語る。

「ラクな場面より、絶対に苦しい場面、我慢しないといけない場面が多い大会になると思うんです。だけど、そのなかでパス1本、シュート1本でチームに流れを持ってこられるように、フリーの選手、シューター陣にうまくアシストしたり、『誰が当たっているか』『調子は悪いけど、どこなら決められるか』などを考えながら少しでも勝利に貢献できるようにしたいです」

 公開練習の際も物怖じせずに囲んだ報道陣の目をゆっくり見回しながら、立て板に水のごとく言葉を紡いだ。ヨーロッパのプロの世界に身を置いてきたことが、あるいはそうした成熟さにつながっているか。理知的な印象を受ける岡田には、人間的な魅力も感じる。



ロロ・ルドルフ@2006年1月2日生まれ

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ロロ・ルドルフ(17歳/PG・SG/188cm/セントオーガスティン高校、ドリーム・ビジョン)

 そして最後、U19日本代表の「秘密兵器」とも呼べる新顔が、アメリカ人の父と日本人の母を持つロロ・ルドルフだ。

 アメリカで育っているだけに日本ではまだ無名だが、カリフォルニア州サンディエゴのセントオーガスティン高校に在学中の17歳(学年は3年生で修了まではあと1年ある)。地区選手権の連覇に貢献し、評価が急上昇中のガードだ。

 この隠れた存在が日本代表に招集されたのは、A代表でトム・ホーバスHC(ヘッドコーチ)の下でアシスタントを務めるコーリー・ゲインズが彼の存在を聞きつけ、ワークアウトをしたことがきっかけだった。ホーバスHCも彼のプレーを見るために試合観戦に訪れ、その流れから年代別代表入りにつながった。

 日本代表での登録はPG・SGとなっているが、パス能力に長けており、当人も「プレーメークができて、まわりの選手たちに得点機会をもたらせるところ」が一番の強みだとしている。

 もっとも、上述の地区選手権で連覇を決めた試合では17得点、10アシスト、8リバウンドとトリプルダブルに近い数字を記録。オールラウンダーとして多くのことができる選手であるところも示している。

 その話しぶりからは思慮深さがうかがえ、アメリカとは違う日本のチームのペースに自身のプレーを合わせていく必要があると語るなど、チームファーストの姿勢を見せた。

 今月初旬には、アブダビで開催されたバスケットボール・ウィズアウト・ボーダーズ(BWB)のアジアキャンプに参加した。また、アメリカでは学校での活動以外でAAU(アマチュア・アスレティック・ユニオン/有能な選手が数多く集まるクラブユース組織)が盛んだが、ルドルフはドリーム・ビジョンというチームに所属しており、彼いわく「全米で6番目」という強豪チームだという。

 横須賀の米軍基地で生まれ育ったルドルフの本来の名前は「ローレンス」だが、7歳くらいの頃に「おまえはロロだ」と言われて以来、その名で通しているという。彼のアイドルは、ラッセル・ウェストブルック(ロサンゼルス・クリッパーズ)。

 将来はNCAAディビジョン1所属の大学に進学する希望を持っている一方で、いずれは日本国籍を選択したい意向もあるという。となれば、A代表で活動する可能性も大いにある。

「日本のバスケットボールの存在は大きいものですし、多くの人たちが関心を持っているのも知っています。ですから僕としても、できるだけ日本のバスケットボールに関わっていきたいです。バスケットボール以外でも、この国はきれいですし、すばらしい。歳を取った時に、ここに住んでもいいとすら思えます」

 そう笑顔で話すルドルフ。BWBの際に足首を故障してしまい、日本代表でもリハビリに注力せざるを得ないところもあったが、U19の本番でどれだけのパフォーマンスを見せてくれるか、楽しみだ。

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 日本代表のU19ワールドカップ出場は、今回で5度目。2021年大会は有能な選手を揃えて臨んだものの、結果は0勝7敗で出場16チーム中・最下位に終わった。

 世界の壁の厚さは、今回の面々も重々承知はしている。だが、ジェイコブスによれば過去最高となる「ベスト8くらい」の目標を仲間たちと共有しているという。

「それくらいには行きたいということで、みんな気合が入っています」

 紹介した「ポスト八村」の4人を含め、将来のA代表を担う選手も今回のメンバーから複数出てくるだろう。つまりは、U19の成否が「日本男子バスケットボールの未来」のカギを握っているとも言える。