「セーフティカーのタイミングが悪かったですね」 カナダGP決勝を14位で終えた角田裕毅は、怒気を含んだ声で言った。「そのせいで思っていたほどポジションが上げられませんでした。あれがなければ、けっこう上がっていたと思いますし、トップ10も狙え…

「セーフティカーのタイミングが悪かったですね」

 カナダGP決勝を14位で終えた角田裕毅は、怒気を含んだ声で言った。

「そのせいで思っていたほどポジションが上げられませんでした。あれがなければ、けっこう上がっていたと思いますし、トップ10も狙えたかなと思いましたけど」

 走路妨害によるペナルティを受けて、19番グリッドからのスタートを強いられた。そのため角田は1周目にピットインしてタイヤ交換を済ませ、ひとり単独で走る戦略を採った。アルファタウリは予選よりもレースペースのほうが速く、集団のなかでライバルに抑え込まれて走るより、誰にも邪魔されず走ったほうがいいと判断したからだ。



角田裕毅の戦略は順調かと思ったのだが...

 そこで本来の速さをフルに発揮して走ることができれば、集団に埋もれて走り続けたライバルたちがピットインする時には、前に出ていることができる。ここからハードタイヤで最後までノンストップで走りきれば、大きくジャンプアップして入賞圏でフィニッシュすることができる。

 決して簡単な戦略ではないが、後方スタートの不利をひっくり返すには、この戦略しかなかった。

「アグレッシブな戦略を採ってフリーエアで自分のペースで走って......という戦略だったんですけど、セーフティカーが出るまではうまくいっていたと思います」

 ジョージ・ラッセル(メルセデスAMG)のクラッシュを受けて、12周目という想定よりも早いタイミングでセーフティカーが入った。5台を除いてほぼすべてのドライバーがピットインを行ない、角田は13位までポジションアップを果たした。

 本来なら20〜25周目あたりまで走っていたはずで、そうすれば角田はもう少しタイムを稼ぐことができ、アレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)やマクラーレン勢より前の10位まで浮上できたはずだった。

 それに加えて、セーフティカーでギャップが縮まってしまったことでDRS(※)トレインに飲み込まれてしまい、誰もオーバーテイクができず身動きが取れない状態になってしまったことも痛かった。

※DRS=Drag Reduction Systemの略。追い抜きをしやすくなるドラッグ削減システム/ダウンフォース抑制システム。

【タイヤ交換でまさかのミス】

 やがて、ハースのケビン・マグヌッセンがいつものようにペースを落とし、前のマクラーレン勢やアルボンが抜いていく。だが、角田はなかなか抜くことができない。その状況が6周ほど続き、アルボンに置いていかれてギャップが3.5秒に広がった34周目に、アルファタウリは角田をピットに呼び入れた。

「オーバーテイクできたのに!」

 ちょうどDRSを使ってバックストレートでマグヌッセンに並びかけていた角田はそう叫びながらも、チームの指示を信じて従った。

 後方のニコ・ヒュルケンベルグ(ハース)がピットインし、さらにピエール・ガスリー(アルピーヌ)もピットインしてアンダーカットを狙っていたからだ。ここでピットインして彼らの前をキープすると同時に、マグヌッセンよりも先にピットインして逆転しようというのが、アルファタウリの戦略変更の狙いだった。

 しかし、ギリギリのピットイン決定であったがゆえに右フロントタイヤの用意が遅れ、ガレージから出られなかったクルーは角田のマシンがピット前に滑り込むのを待ってから右フロントへ。これで静止時間は6.3秒となって約4秒をロスし、ガスリーにも先行を許した。

 マグヌッセンはニック・デ・フリース(アルファタウリ)とのバトルで後退したが、それがなければ当然マグヌッセンをアンダーカットすることも不発に終わっていた。マグヌッセンはいずれピットインするはずで、彼が邪魔ならデ・フリースをピットインさせてマグヌッセンに揺さぶりをかけることもできたはずだったのに、アルファタウリは角田のギャンブルを断念するという選択を採ってしまった。

 その一方で、角田の前にいたアルボンは後方の動きに惑わされることなくピットインせず、最後まで走り切って7位のポジションを守りきった。

 角田もアルボンと同じようにステイアウトしていれば、タイヤが11周古いとはいえ、最後まで保たせることができれば8位でフィニッシュできたはずだった。端的に言えば、入賞のチャンスはそこにしかなかった。

【入賞のチャンスを自ら捨てた】

 2回目のピットインはガスリーやマグヌッセンとの争いでしかなく、その時点で前のマクラーレン勢やバルテリ・ボッタス(アルファロメオ)、エステバン・オコン(アルピーヌ)を逆転するチャンスは捨てることになる。

 つまり、34周目にノンストップのギャンブルをあきらめてピットインしてしまった時点で、アルファタウリは入賞のチャンスを自ら捨てたようなものだった。

 19番手スタートで失うものがない角田とアルファタウリは、リスクを取って入賞だけを目指して戦うべきだった。アルボンは「ライバルと同じ戦略では入賞できないから」とステイアウトを選び、茨の道とわかっていてもそれを走りきって7位入賞を掴み獲った。


角田裕毅

「残念ですけどこれがレース」

 前だけを見てレースをしたウイリアムズとは真逆で、アルファタウリは入賞圏にもいないのに、なぜかうしろを見てレースをしてしまった。そこに両者の明暗をはっきりと分けた理由があった。

「レースペースは悪くはなかったんですけど、バルセロナの時ほどよくはなかったですね。そもそもいいポジションからスタートできていないというのが大きかったですし、(本来の)16番手スタートだったとしたらこの戦略を採ったかどうかわかりませんけど、どっちにしてもトップ10は難しかったと思います。残念ですけどこれがレースなので、次はもっとクリーンなレース週末を目指したいと思います」

 今シーズンはレースペースのよさに加えて戦略面でもうまく戦ってきたアルファタウリだが、今回は完全に戦略を誤った。

 純粋な速さが足りなかったのも事実だが、途中まではうまくいっていたギャンブル戦略をアルボンと同じように敢行し続ければ、その先に入賞のチャンスがあったこともまた事実だ。

 "直線番長"のセットアップで自分たちが持つ唯一の強みに賭け、ギャンブルを成功させたウイリアムズ。同じセットアップの方向性で同じギャンブル的戦略を採っていたのに、自らそれを捨ててしまったアルファタウリ。

 結果はノーポイント。ウイリアムズがポイントを獲得したことで、アルファタウリはついに名実ともに最下位のチームに陥落してしまった。

 このまま落ち続けていくのか、踏みとどまって這い上がるのか。アルファタウリにとっては正念場を迎えることになる。