パリ五輪の代表争いをめぐる喧騒をよそに、自分のペースで着実に強くなっている。そう感じさせるのが卓球の「TリーグNOJIMA CUP2023」<6月17~18日/東洋大学赤羽台キャンパス>で女子シングルスを制した平野美宇(木下アビエル神…

パリ五輪の代表争いをめぐる喧騒をよそに、自分のペースで着実に強くなっている。

そう感じさせるのが卓球の「TリーグNOJIMA CUP2023」<6月17~18日/東洋大学赤羽台キャンパス>で女子シングルスを制した平野美宇(木下アビエル神奈川)だ。

パリ五輪代表選考レースで297ポイントを積み上げ2位をキープ。2023年1月開催予定の全日本選手権終了時点で上位2人がシングルス代表の座を射止める熾烈な戦いにあって、渦中の平野は驚くほど落ち着いている。

「誰と競っているとか、誰と点数が近いとか気になってしまう部分なんですけど、あまり気にせず試合を楽しむ気持ちで選考レースに臨んでいます」

今大会の決勝では代表選考ポイント3位の伊藤美誠(スターツ)とフルゲーム9オールの激闘を演じた。

最初の2ゲームを奪ったのは平野。だが、第3ゲーム以降は伊藤が平野のフォア前にサイドラインを切るハーフロングサーブを徹底して突破口を見出し、3ゲーム連取で逆転に成功した。

同じコースへサーブを出し続ける伊藤とレシーブに手を焼く平野。この伊藤の戦術は相手選手の弱点を執拗に突いて崩す中国人選手のようである。

伊藤によれば、試合の中で見つけた戦術だといい、「(ゲームカウント)0-2からだったので何かしら変えていかないと挽回できないと思った。後半も良かったんですけど、少しでも対応されたときに(ポイントを)決め切る力が足りませんでした」と話す。

一方、平野はこの苦しい時間帯をよく耐えた。

本人が「気持ちが切れてしまいそうになったけど、まずは1球でも返して点差を縮めようと思った」と言うように、リードを奪い返した第6ゲームは長いツッツキや押し込むようなレシーブなどで打開を試み、フルゲームに持ち込んだ。

そして、最終ゲームも4-8ビハインドで伊藤がサーブという絶対絶命の場面で2連続得点。8-7のチャンスボールでは痛恨のミスが出たが焦ることなく得意のラリーに持ち込み、4連続ポイントを挙げて見事、逆転勝利を収めた。

最後まで集中を切らさず挽回できた理由を平野はこう話す。

「困難が来たとき試合の後に練習しようじゃなくて、試合の中でどうするかが大事だと考えられるようになった。そこが昔(の自分)とは違う。今回、完璧かは分からないんですけど最低ラインは出来たんじゃないかと思います」

また、サーブを軸にした伊藤の巧みな戦術については、「伊藤選手らしいコース取りで厳しかった。そういうところは見習いたいし伊藤選手の強さだなと思う」と話した。

2022年9月の第2回選考会・全農CUP TOP32福岡大会の頃までは、一度相手のペースになってしまうと耐え切れなくなって勝機を逃す試合が少なくなかった。

当時のことを「東京オリンピック(女子団体)で銀メダルを取ったとか、それまで結果を出してきた自負でやっていたんですけど、選考会前半は8位とか6位とかが多くて。そんな自分を受け入れてからは挑戦者として向かっていく自分に変われた」と心境の変化を話す平野。

実際、2カ月後の第3回選考会・全農CUP TOP32船橋大会では、女子シングルス2回戦で横井咲桜(ミキハウス)にあわや敗戦という試合でゲームカウント1-3から大逆転勝利。この一戦が自信となって優勝し、これを境に平野は劣勢に立たされても「まだまだいける」と冷静に試合に向き合えるようになった。

もちろん自信の源は技術の向上にもある。

中でも"ハリケーン"という異名の由来でもある超高速両ハンドは彼女の持ち味だが、最近はスピードだけでなく回転量でラリーをコントロールしている。そのため以前よりもミスが減り安定感が増した。

攻めるボールとつなぐボールの見極めも良く、攻守のバランスも取れている。

「地力というか、全体の実力が上がったと思う」と手応えを口にする平野は今週、国際ツアーのWTTコンテンダー チュニス(20~25日/チュニジア)へ出発し、翌週もWTTコンテンダー ザグレブ(26~7月2日/クロアチア)に出場する。

心技体が充実している今、海外からも朗報が待たれる。


(文=高樹ミナ)