バレーボール男子日本代表は、ネーションズリーグ名古屋大会を4戦全勝で終えた。アジアの宿敵であるイラン、そしてセルビア、ブルガリア、フランスという地力のある欧州勢に勝っての4連勝。ネーションズリーグ第1週を終え、全勝は日本だけ。1位という順…

 バレーボール男子日本代表は、ネーションズリーグ名古屋大会を4戦全勝で終えた。アジアの宿敵であるイラン、そしてセルビア、ブルガリア、フランスという地力のある欧州勢に勝っての4連勝。ネーションズリーグ第1週を終え、全勝は日本だけ。1位という順位がフロックではなく、実力だと見せつけんばかりの充実した試合内容だった。

「出た選手が全員、出たときにしっかり活躍している。これが今の日本の強さ。日本が強くなったところ」

 名古屋大会を終え、主将の石川祐希(ミラノ)はこう言った。



ネーションズリーグで4戦全勝の日本男子バレー

 それが最も現れたのは、名古屋大会で最大のヤマ場と目された6月10日の3戦目、ブルガリアとの試合だった。

 第1セット。序盤から日本が主導権を握ったが、20-16から20-19と1点差まで詰め寄られた。西田有志(日本協会)があまり得意ではない前衛のレフトから打たねばならないローテーションだったことに加え、ブルガリアのアスパルー・アスパルホフの強烈なサーブが日本を襲って連続失点。流れは相手に傾きかけた。

 ここで仕事をしたのは大塚達宣(パナソニック)だった。「大塚はサーブレシーブができるから4人でレセプションをできるし、レフト側からのスパイクにも秀でている」とフィリップ・ブラン監督が迷わず投入した。

 相手の強力なサーブに対し、通常の3人から大塚を加えた4人でのレセプション体制に変更。なんとかレシーブしてラリーとなり、レフトに上がった2段トスを大塚が打ち抜いてこのローテを乗り切った。イラン戦後に高梨健太(名古屋)の体調不良で急遽合流した大塚の出番は、名古屋大会を通してこの場面だけ。そこで確実に働く仕事人ぶりを見せつけた。

 第2セットでは、21-20で投入された19歳の甲斐優斗(専修大)が臆することなくジャンプサーブを放って相手を崩す。ブレイクポイントに導き、抜け出すきっかけを作った。甲斐はさらに2本、好サーブを続けてこのセットの流れを決定づけた。

 第3セットでは、20―19で石川に代わって入った富田将馬(東レ)が役割を果たした。アレクサンダル・ニコロフの強力なサーブを体に当てながらも返球し、1本で乗り切る。コートに入っていきなり、世界でも屈指の威力を持つニコロフのサーブを上げることは容易ではない。それでも、富田はやってのけた。

 9月に始まる2024年パリ五輪予選の最後の3試合がセルビア、スロベニア、米国との戦いになり、この3連戦が五輪切符の行方を左右することを見据え、「石川を後衛だけでも休ませる」(ブラン監督)という狙いを持った起用に見事に応えた。

 名古屋での最後の試合となった6月11日のフランス戦も、選手層の厚さが光った。東京五輪覇者のフランスは主力の多くが不在とは言え、レベルが高く苦戦した。苦境を打ち破ったのは、それまで出番が少なかったオポジットの宮浦健人(ジェイテクト)と、2番手のセッター深津旭弘(東京GB)だった。

 第3セット終盤の1点を競り合う場面でコートに入り、第4セットはそのままスタートから出場。宮浦は右から左から、そして前から後ろから強打をたたき込み、サーブエースも奪って13得点という衝撃的な活躍ぶり。深津も安定したトスを供給し、存在感をアピールした。

 もちろんこの4戦での、石川の存在感は言うまでもない。ベストスコアラー部門では70得点で全体8位、ベストアタッカー部門では1試合平均14.75得点で7位、6本のサービスエースを奪ったベストサーバー部門では6位、ベストレシーバー部門では3位に入り、いずれもチームトップ。チームの中心であるのは間違いない事実だ。だが、日本の強さは石川ひとりだけによるものではないことを証明した4戦でもあった。

 石川の対角を担う髙橋藍(日体大)は安定したサーブレシーブでチームの土台となり、イタリア1部リーグで揉まれて高さとうまさ、力強さが増したスパイクは攻撃の核にもなった。オポジットの西田はサーブで苦戦したものの、セルビア戦ではチームトップの24得点と大爆発。得点能力の高さは健在だった。

 長く日本の課題と言われ続けたミドルブロッカー陣も、確かな進歩を見せた。小野寺太志(サントリー)は攻守で安定したプレーを見せ、山内晶大(パナソニック)は攻撃面で得点能力の高さを示した。髙橋健太郎(東レ)は高いブロックとクイックで、世界に伍するプレーを見せた。ミドルブロッカー陣の成長に伴い、山本智大(日本協会)を中心とする守備の堅さも増し、相手に攻撃を1度で決められることはほとんどなかった。

 シーズンが始まったばかりでベストメンバーではなかったチームもある。それでも、日本の充実度は群を抜いていた。石川はそれを踏まえ「勝たなければいけない相手だった」と言いつつも、「控えの選手や、まだまだ活躍できる選手がいる。今回見せられたのは、ほんの一部分。フランス大会、フィリピン大会と続くが、誰が出ても強い日本を見せられると思っている」と確かな手応えを語る。

 6月20日からのネーションズリーグ・フランス大会では、日本が1994年から公式戦では1度も勝てていないブラジルとぶつかる。石川がシーズン前に「相性がよくないイメージを払拭したい」と話していた強敵だ。

 でも、今の日本なら、ひょっとしたら勝てるのではないだろうか。そう思わずにはいられない。

 石川は言う。

「出た選手がそれぞれの役割を理解して、チームを作っていく。スタッフからの指示に対してしっかり全員がもっと動けるようにならないといけない。そこがまだまだ甘いところ。個人がそれぞれの役割を理解して動けることも必要だし、他の選手の役割を理解して動けるようにもなってくると、さらに強くなる。チームのことを理解してプレーできるようになることが、これから必要になってくる」

「まだベストではない」という自身のパフォーマンスも、まだまだ上げられる。チームとしての組織力も、もっと高めていける。今のチームには伸びしろしかない。充実した戦いぶりを見せる日本は、このネーションズリーグでどこまで世界のトップに近づけるだろう。すべての戦いが日本の糧となり、パリ五輪への道へと続いていく。