2022年の東京オートサロン会場で発表された、トーヨータイヤのパイクスピークへの参戦。いよいよ今月末に開催が迫っており、2023年の6月25日に決勝レースが開催される。トーヨータイヤのアンバサダーを務めるマッド・マイク(マイク・ウィデット)…

2022年の東京オートサロン会場で発表された、トーヨータイヤのパイクスピークへの参戦。いよいよ今月末に開催が迫っており、2023年の6月25日に決勝レースが開催される。トーヨータイヤのアンバサダーを務めるマッド・マイク(マイク・ウィデット)選手と共に、難攻不落のヒルクライムへ。そこで開催前にパイクスピークへ至るまでの壮大な挑戦を振り返る。

“雲に向かうレース”と呼ばれる「パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム」とは?
“パイクスピーク”という言葉を、一度は聞いたことのある方も多いのではないだろうか。正式名称「パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム」は、アメリカのコロラド州、ロッキー山脈の東端に位置する「パイクス・ピーク」という名の山を頂上まで駆け上がり、その速さをタイムトライアル形式で競うシンプルなもの。

第1回大会は1916年に開催されている、長い歴史と伝統のあるヒルクライムレースだ。昨年の2022年大会は、記念すべき100回目の開催となった。アメリカではインディ500に並ぶビックレースであり、開催地となる地元の街では街中のパレードなどまさにお祭り騒ぎで人々に親しまれている。

一方でドライバーを待ち受けるのは、断崖絶壁もあるチャレンジングなコース。以前は未舗装路であったが、2012年には全面舗装されフルターマックの路面に。普段は観光道路として使用されている一般道を封鎖して行われる。全長は19.99km、上り勾配は平均7%/最大10%、156箇所のコーナーで構成されており、小さなミスが命取りになるので一瞬たりとも気が抜けない。

スタート地点の標高は2,862m、そしてゴールとなる頂上の標高はなんと4,301m(標高差:1,439m)で世界で最も過酷といわれるヒルクライムだ。日本一高い富士山の標高が3,776mなので、それだけでもいかにすごいレースなのか伝わるだろうか。標高差に加えて天候・気温・気圧の変化に対応することが重要で、単純に見えるが一筋縄ではいかないのがパイクスの難しいところ。

もちろん頂上に向かうにつれて空気も薄くなり、スタート地点に行くだけで人の呼吸が乱れるほど。走行するマシンにも顕著に影響しており、頂上が近づくほどパワーダウンが起こる。内燃機関(ICE)のマシンでは特にシビアな調整が必要であり、近年では空気の影響を受けにくいEVの参戦も盛んだ。近い将来、ICE車両をEVが上回る日がくるのかもしれない。

マツダスピリットレーシングが全面バックアップ、マツダ3をベースにスペシャルマシンの製作がスタート
今回のプロジェクトは、マツダ(マツダスピリットレーシング)とトーヨータイヤ、さらにレッドブルとTCPマジックによる4社の共同プロジェクト。マシンの制作は2021年の12月頃まで遡り、兵庫県に位置するロータリーエンジンのレーシングマシンを数多く手掛けた実績のある「TCP マジック」にフルストリップの『マツダ3』が運び込まれたところからスタートする。

もちろんマツダ3のレーシングマシンキットなどあるはずがなく、基本的にはワンオフでTCPマジックの代表:川戸泰介氏をメインビルダーとして仕上げられた。そもそもエンジンを搭載するところから大変なのは、容易に想像できるだろう。

いくらコンパクトなロータリーエンジンとはいえ、4ローターともなると全長も長くなる。そこでバルクヘット部を一部切断するなどしてエンジンの搭載スペースを確保した。

さらにはパイクス仕様の足回りのインストール、かつFFからFRへと駆動方式を変換するために、サスペンションのアーム類やプロペラシャフトを設置するスペースを作っていく。加えてマシン剛性の強化と万が一の安全確保のために、20点以上のロールケージを溶接してボディ全体を強化。さらにトランク部に燃料タンクを搭載するため、安全対策を兼ねた隔壁が設置された。

1,400馬力・4ローターエンジン搭載!怪物「BULLET」のマシンメイクに迫る
搭載される4ロータリーエンジン(R26B型)のスペックは、1,400馬力、ブースト圧:1.3kg/cm2*。Garret製「G40-1150」のタービンを2つ装着したツインターボ仕様で、Haltech製のフルコンピューターで制御される。*最大ブースト値

排気系はボンネットからの上方排気で、勇ましいロータリーサウンドが炸裂する。セッティングはTM LABOによって手掛けられ、現地でも状況に合わせてセッティングを行っていく。

冷却系は後部の隔壁を経てPWR製の大型ラジエターをトランク部に設置。リヤウィンドウとルーフからフレッシュエアーを導くことで、ロータリーエンジンの発生する強大な熱に耐えられる仕様に。加えて、その下にRadium Engineering製の燃料タンク(65リットル)が設置された。

ミッションはホリンジャー製の6速シーケンシャルミッションを使用。駆動系はATS製のカーボンLSDに加えて、ウィンターズ製のクイックチェンジデフを組合せる。信頼性の高いパッケージとすることで、マイナートラブル発生のリスクを抑える狙いだ。

エアロパーツはワンオフで制作され、フロントスプリッター、サイドスカート、リアディフューザー、GTウイングを装着。パイクスに対応すべくトラクション強化を重点的に設計され、幅広のタイヤを装着できるように前後フェンダーも大幅にワイド化(フロント:約150mm、リア:約200mm)されている。攻撃的なルックスながら非常にクリーンな仕上がりだ。

インテリアはブリッド製のフルバケットシートに、フルLEDの美しいHaltech製のオールインワンメーター「IC-7」が装着されており、マシンの情報がひと目で確認でき、ドライビングに集中できるコックピット環境が整えられている。

「PROXES Slicks」は絶大なグリップ力、強大なトラクションを足元で支える
パイクスを走りきる上で、最も重要なファクターと言っても過言ではないのはやはりトラクションだろう。そこで足元に注目する。タイヤはトーヨータイヤのレーシングマシン専用タイヤ「PROXES Slicks(パイクスピークスペック)」が装着される。鈴鹿と岡山の国内テストを経て、コンパウンドもパイクスに向けた特別スペックが用意された。

1,400馬力というとんでもないパワーのマシンが、テスト走行で前に前に進んでいく走りを確認。プロクセスの強大なグリップは、パイクス挑戦に絶大な安心感となるだろう。

その他についても注目してみると、組合せるホイールはレイズ製「ボルクレーシング 21C」。ホイールスペックはフロントが10J(18in10J -15)、リヤはワイドなタイヤを履くために11J(18in11J -30)となり、深リムが際立つ美しい仕上がりだ。前後異色カラーのフロント:ダークガンメタ/リムDC(VC)、リア:ブロンズ(アルマイト)(BR) が本番仕様となる予定。

サスペンションはKW製の3wayサスペンション「RACING V4」に、ブレーキはエンドレス製の鍛造キャリパー+ディスクを搭載。フロント:6ポット、リア:4ポットで強力かつ安定したブレーキ性能を実現している。

事前テストはクラス1位、総合7位フィニッシュ!クラス優勝にも期待が高まる
6月上旬に、パイクスピークの公式テストが開催。参加全チームを対象に2回開催されたセッションで、1回目の前半セッションへと参加した。同クラスでは約20台のエントリーがあるなかで、約半数のマシンが参戦。順調な仕上がりを見せるBULLETは、ロータリーエンジンの快音をパイクスに響かせながら駆け上がっていく。

そして見事にクラス1位でテストセッションを終えた。決勝レースの走りにも期待が高まる。ロータリーエンジンがパイクスピークでどれほどの成績を残せるのか、歴史に名を刻むトーヨータイヤの挑戦。パイクスピークの頂点を目指す戦いに、ぜひ注目して熱い応援を送ってほしい!

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