「きっと寂しかったに違いない」今日のアンナプルナベースキャンプは一面真っ白の雪に覆われて南壁は雲に隠れ雪化粧しているところです。高所順応でシングチュリを登る予定でしたが、一緒に登っていたサーダーが序盤から不調で一旦下山し、急遽チュル・ウェス…

「きっと寂しかったに違いない」

今日のアンナプルナベースキャンプは一面真っ白の雪に覆われて南壁は雲に隠れ雪化粧しているところです。

高所順応でシングチュリを登る予定でしたが、一緒に登っていたサーダーが序盤から不調で一旦下山し、急遽チュル・ウェスト(6419m)に変更して一人で登って来ました。

この4日間、そしてこれからの数日間はアンナプルナ南壁は悪天候ですが、チュル・ウェストは天候が良く、ちょっと痛い出費でしたが、良いタイミングの順応登山でした。

18日、チュルウェストのベースキャンプ(4800m)にサーダーと二人で入る。まだ誰もいないベースキャンプはチベット高原ような赤茶色の景色が混ざり、アンナプルナとはまた別世界だった。

20日午前4時にベースキャンプを出発。南壁を意識した食料と装備で軽量しているせいか、ほとんど休む必要もなくリズムよく5800mの氷河に立つ。本来はここにハイキャンプを設けるが、僕は山頂近くで一泊をする予定。今までの経験から8000m前後に行くには最低でも6000mを超えた所で一泊から二泊しなくてはいけない。それにしても、標高差1600mを一気に登る、これから頭痛などのどんな高度障害が出てくるのか身体の反応が楽しみでもある。

ブルーアイスの稜線を越えていくと広いプラットホーム(広い雪原)に出た。雪の少ない雪原は歩きやすい。遠くを見ると見覚えのある山が見えた。ダウラギリ(8167m)である。2009年春にこの山に登り、7000m以上で生中継を成功させた山。様々な山を登るうちに登った頂を目で繋いでいけることは本当に幸せだ。

6000mを越えて山頂近くに向かっていく。斜面は穏やかだが、隠れたクレバスが多く、油断するなよと山に言われているような気がした。

12:26に山頂まで50mの所に着き、テントを張る。無線でサーダーに連絡をするが応答がない。

快晴で気持ちはいいが、風は強くてなかなかテントを張ることが出来ない。もう少し下がった所に広い場所もあるがそこは氷が張り出し、安全ではない。

久しぶりの一人用テント。昨年秋季エベレストでメタメタに強風や小石に叩かれて所々に穴が空いている。新品のテントもいいが、あらゆる厳しい風から守ってくれたこのテントは僕の戦友であり、唯一ほっとできる空間。

夜、シリアルを少し食べて寝ようするが寝れない。風が左から右から、時には浮くような下からと強烈な風が吹い続く。もしかしたらこのまま飛ばされてしまうのかと思うがそこはお天道様とおテント様の言うとおり。僕は何もできない。薄い寝袋で包まって朝を迎えた。

朝、昨夜は体内酸素濃度が65だったが、77、昼過ぎには80まで深呼吸無しで上がって来た。さすがに頭痛がしたが、身体の動きや尿から体調は悪くないことがわかった。本当はもう一泊する予定だが、22日の朝早くにヘリがベースキャンプに迎えにやってくることなり、夜は風が強く深夜の下山出発は厳しいので21日の昼過ぎに下山することにした。

下山をする前、「せっかく来たんだから」と言われている気がして、チュル・ウェストの山にご挨拶をするために山頂(6419m)に向かって行った。

頂は風は少なく、チュル・イーストが見えた。

ベースキャンプに下山後の夜食。さすがにお腹が空いてふらふらだ。少ない食料の中、サーダーがララヌードルというネパール製のインスタント麺を作ってくれた。サーダーに一緒食べようと勧めるがサーダーは食べようとしない。僕一人のために申し訳ないと思いながら食べてみた。

サーダーも一人でベースキャンプ。きっと寂しかったに違いない。

「ベースキャンプで何してたの?」と聞くと「下のロッジ(宿)でチョウメン(焼きそば)を食べてました!」と笑みで応えた。

だから、食べないのか!

明日からまた頑張ります。